artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

永井一正『つくることば いきることば』

発行日:2012年3月

著者:永井一正
出版社:六耀社
発行日:2012年3月
価格:1,500円+税
判型:A5変型、200頁

永井一正の銅版画に、彼自身の覚え書きとポエムをひとつにした詩画集。永井一正といえば、1960年に日本デザインセンターの創設に参加し、札幌冬季オリンピックをはじめ、数々の企業のCIやマーク、ポスターを手がけてきた、日本を代表するグラフィックデザイナーの一人である。1980年代後半から動植物をモチーフとした「LIFE」シリーズのポスターを展開し、2003年から銅版画へと発展する。本書は命をテーマにした銅版画集『生命のうた』(2007)をベースに新作版画とことばを大幅に加えたものだという。とても短いことばなのに、その深さと力強さには心を打たれる。創作者としての長い経験と命の尊さへの思いが凝縮されているからだろう。さらに不思議な鳥や魚、花たちに話しかけられているような独特な雰囲気も魅力的な一冊である。
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わたしが描く動物が人間みたいな目をしているのは、
人間と対等なものとして存在するからということ。
生きものを描くことで
わたし自身が生きる勇気をもらっている。
(永井一正『つくることば いきることば』26-28頁)
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[金相美]

2013/03/01(金)(SYNK)

原研哉『デザインのめざめ』

発行日:2014/01/08
発行所:河出書房新社
価格:600円+税
サイズ:文庫版

グラフィックデザイナー・原研哉(1958- )のエッセイ集。周知のとおり、原研哉は、株式会社日本デザインセンターの代表取締役、原デザイン研究所の所長、武蔵野美術大学の教授であり、2002年からは無印良品のアートディレクションを担当したり、2004年には著書『デザインのデザイン』でサントリー学芸賞を受賞するなど、日本のデザイン界のみならず、時代を牽引してきた人物である。同書は、2001年に刊行された『マカロニの穴のなぞ』(朝日新聞社)に5篇のエッセイを増補したうえ、文庫化したもの。ドイツで見つけた目盛り付きのビアグラスや、トイレの便器に描かれたハエの絵、マヨネーズのノズルの穴の形など、日常のなかの何気ないものや瞬間を、デザイナーならではの視点で語っている。[金相美]

2013/02/28(金)(SYNK)

渋谷区立松濤美術館改修

松濤美術館[東京都]

渋谷区立松濤美術館が、改修工事のために来年初め(予定)まで休館する。休館中は渋谷区文化総合センター大和田で収蔵品展を開催する予定である。
 松濤美術館は静岡市の芹沢銈介美術館(石水館、1981)とともに建築家白井晟一(1905-1983)が最晩年に手がけた作品であり、1981年に開館した地下2階、地上2階の建物である。外側には窓がほとんどなく、内側には噴水のある円形の吹き抜けがある。地下2階は講演会や映画上映に使われるホール、地下1階の主陳列室は1階まで吹き抜けの大きな空間となっている。2階展示室は「サロンミューゼ」と名付けられ、かつてはここでお茶を飲みながら美術品を鑑賞することができた。建物は堅牢で耐震性には問題がないということであるが、開館から32年を経過し内部設備の大規模な改修が必要になった。これまで開館当初の姿がほぼそのままの状態で保たれてきたが、今回の改修でも照明設備の更新とLED化、摩耗した床材の張り替えを除くと、外観、内装の変更はともに最低限に留めるとのこと。白井がヨーロッパで買い付けてきたソファなどの調度類や、彼がデザインした照明具や案内パネルなどは引き続き使用されるようだ。
 3月10日(日)まで「渋谷区小中学生絵画展」「渋谷区立小・中学校特別支援学級連合展覧会」(入場無料)が開催されており、展示終了後から休館となる。なお、開館中は受付で申請すると建物の見学と撮影が可能である。[新川徳彦]


上記2点、松濤美術館エントランスと内部の吹き抜け
提供=渋谷区立松濤美術館


白井晟一デザインの照明器具と案内板
筆者撮影

2013/02/26(火)(SYNK)

昔のくらし 今のくらし

会期:2012/12/04~2013/03/31

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

小学校3年生が学ぶ「昔の道具とくらし」カリキュラムのための企画として毎年この時期に開催されている展覧会★1。人々のくらしのための道具の変遷を市民からの寄贈資料でたどるほか、石臼挽きや足踏みミシンを体験できるコーナーもある。民具、家電製品ばかりではなく、初期のコンピュータ、ワープロなどの電子機器もコレクションされているところは工業都市川崎ならではだろうか。
 今年の特集展示は旅。伊勢参宮日記帳などから江戸時代の旅行者がたどったルートを示す。また、徒歩の旅から鉄道の旅への変化にともなう携行品の変遷、駅弁とともに購入された汽車土瓶、集印帖からスタンプノート、カメラや、車中での娯楽として現代の携帯ゲームまでも展示されている。身の回りのものの変化が、技術の進歩や生活スタイルの変化、人々の時間の使い方の変化を反映していることがよくわかる構成である。[新川徳彦]

★1──artscape関連レビュー「昔のくらし 今のくらし」(川崎市市民ミュージアム、2012)

2013/02/23(土)(SYNK)

シリーズ日本のグラフィックデザイナー──中村誠のポスター展

会期:2012/12/04~2013/03/31

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

資生堂のアート・ディレクター、デザイナーとして、ブランド・イメージの確立に大きな役割を果たした中村誠(1926-)のポスターの仕事を紹介する収蔵品展。1960年ごろまで、資生堂の広告はアール・ヌーボーを基調とした山名文夫のイラストを中心としていたが、中村誠は写真表現を用いた仕事でそのイメージを大きく変えた。一般家庭へのテレビの普及によって、それまでの新聞や雑誌に加えた新たな媒体の登場が背景にあるという。なかでも鮮烈なのは、フォトグラファー横須賀功光(1937-2003)とモデル山口小夜子(1949-2007)との仕事であろう。1970年代の仕事でありながら、写真も、モデルも、デザインも、タイポグラフィーもいささかも古びることがない。こうした仕事には印刷技術に対する中村誠の深い知識と経験が反映している。本展では福田繁雄とともにモナリザを題材に50点ずつ制作したポスター(1970年にパリ装飾美術館で「Japon-Joconde モナリザ100微笑展」として展示されたもの)が出品されている。中村は製版や印刷処理のヴァリエーションのみで50種類のモナリザ像を作り上げている。現在ならばコンピュータで事前にかなりのシミュレーションが可能であろうが、当時は刷ってみなければ結果がわからなかった。丁寧な試行錯誤の積み重ねが、ポスターの高いクオリティに結実している。[新川徳彦]

2013/02/23(土)(SYNK)