artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
映画『宇宙人ポール』
会期:2011/12/23
シネ・リーブル梅田ほか[大阪府]
B級映画(B-movie)という言葉がある。1930-40年代、いわゆるハリウッド黄金時代に同時上映のため短期間撮影・低予算で制作された映画のことが転じて、一般用語となったものだ。つまり低予算映画のこと。たんに技術的に衰える映画を指すこともあって、実際その定義は曖昧である。今回、紹介する映画『宇宙人ポール』はB級映画としてプロモーションされているが、結構な質、とくに宇宙人ポールのCG処理は見事なものだった。家庭用AV機器の質が高くなったこともあり、近頃は「これ、映画館でみるべき?」と思ってしまう映画が多いなか(とくにTVドラマの劇場版にはうんざりしている)、本作は物語と映像が、両方楽しめる作品となっている。
マンガとSFが好きな、いわゆるオタク系のイギリス人男性二人が、アメリカでUFOスポット巡りをしている最中にポールと名乗る宇宙人に遭遇し、ポールを故郷の星に返そうと奮闘するSFコメディだ。ありがちな見飽きたストーリーだが、思わず笑ってしまうブラックユーモア(ただ同性愛に対する差別的言動も多く、不愉快なところもあるが)や、『E.T.』や『未知との遭遇』といった、SF名作へのオマージュも満載でSF映画ファンなら、見答え十分だ。[金相美]
2012/01/04(水)(SYNK)
杉浦康平・脈動する本──デザインの手法と哲学
会期:2011/10/21~2011/12/17
武蔵野美術大学 美術館[東京都]
武蔵野美術大学美術館は、2008年から3年をかけてデザイナー杉浦康平から全作品の寄贈を受けた。この展覧会では寄贈品のなかからブックデザインの仕事を中心に約1,000点を紹介する。会場では、本に見立てたであろう厚みのある解説パネルを中心に、デザイン手法の変遷ごとに杉浦の半世紀にわたる仕事が展示されている。膨大な展示品のなかに、杉浦の仕事とは知らずに手にとったことがある本が多数あることに気づかされる。書店の棚で私たちに訴えてくる文字と図像。装幀の仕事は一見地味であるが、その印象は人々の心に刻み込まれている。展示会場の構成にも杉浦自身が関わっている。杉浦のブックデザイン同様、そこには全体としてのパターン、秩序があるにもかかわらず、個々はそのなかに埋もれない。展示の島は一つひとつが独自で、それぞれが心に刺さる棘を持つ。
展示された作品の数々にも圧倒されるが、図録もまた圧巻である。収録されている小さな図版をルーペで覗くと、一文字一文字を読むことができるのだ! 緻密に計算された杉浦デザインの構造を明らかにする鈴木一誌氏の分析、杉浦康平の仕事の進め方についてついて記した松岡正剛氏の証言も興味深い。松岡氏を含め、編集者たちは新しい本を創りだしてくれることを期待して杉浦に仕事を依頼するのだが、その一方で杉浦がどのような大胆な提案を行なうか恐怖していたという。時間、コスト、複雑な印刷指定や造本技術、編集者の作業負担……。そうした無数の障壁、編集者にとっての恐怖を乗り越えたところに、誰も見たことのないデザインが生まれるのである。
同時期にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された「杉浦康平・マンダラ発光」展(2011/12/01~12/24)は、映像と音響によって体験する杉浦デザインの世界。これもまた異色のデザイン展であった。[新川徳彦]
2011/12/17(土)(SYNK)
アルスエレクトロニカ「Poetry of Motion」展
会期:2011/12/10~2011/12/18
ブリーゼブリーゼ 1Fメディアコート[大阪府]
オーストリア、リンツ市に本拠を置くアルスエレクトロニカは、1979年、メディア・アートのフェスティバルとして始まった。87年以来「アルス・エレクトロニカ賞」を表彰──今年度の日本からの受賞者には大阪大学の平田オリザ氏・石黒浩氏らがいる──、96年からは「最先端テクノロジーとアート、社会との融合から見える未来のための体験型アートセンター」であるアルスエレクトロニカ・センターと研究所「フューチャーラボ」を運営している。本展示イベントは、私たちがいま・ここにいる世界の、「動きの詩」を体感しようというコンセプトのもとに行なわれた。ウルスラ・ノイゲバウアーによる《Tour en l'air》は、左の写真にあるとおり、床まである長いドレスがそれぞれ時間をおいて高速回転する。そのほか、補聴器で拾われた自分の鼓動を体感できる《Heartbeat Picnic》や、カメラがとらえた場内の観客をスクリーン上の物語的世界に取り込む《Innocence》、来場者の「影」をシールにする《Shadowgram》など、最新技術・機器を用いたインタラクティブな参加型アート/デザイン作品ばかり。ただ、今回の展示会場は小規模すぎて、メディア・アートにおける社会的機能・発信力を重視する、アルスエレクトロニカの本領を十分に伝えきれなかったのが残念。ミュージアムという場での本格的な紹介の機会を待ちたい。[竹内有子]
2011/12/16(金)(SYNK)
「開館60周年:シャルロット・ぺリアンと日本」展
会期:2011/10/22~2012/01/09
神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]
建築家ル・コルビュジエと協働したフランスの建築家・デザイナー、シャルロット・ペリアン(1903-1999)は、第二次世界大戦直前の1940年と、戦後1953年の二度にわたって日本に長期滞在した。ペリアンの仕事を語る視点としては、彼女が日本のデザイン界に与えた影響と、日本での体験が彼女の仕事に与えた影響とのふたつがあげられよう。今回の展覧会はこのうち後者にフォーカスし、彼女が日本でなにを見て、なにを学び、どのような影響を受けたのかを明らかにする優れた企画である。
1940年、ペリアンは日本の輸出工芸品の開発指導を目的に商工省の招聘により来日し、各地で見学、調査、講演等を行なった。そして1941年春には東京と大阪の高島屋で「選擇・傳統・創造」展を開催している。また、1953年にはエールフランス社東京営業所支社長の夫とともに再度来日し、支社のインテリアなどを手掛けている。展覧会では彼女の作品を展示するばかりではなく、シャルロット・ペリアン・アーカイブ等の資料により、招聘の過程を明らかにし、またノート、日本で収集した写真などにより彼女の日本へのまなざしを丁寧に追う。
「選擇・傳統・創造」展において、ペリアンは日本の工芸品のなかからヨーロッパの人々の生活のなかで使用可能な製品を選び出すと同時に、捨て去るべきものを示した。捨て去るべきもののなかには工芸の権威による作品もあり、当時は物議を醸したという。他方で日本のデザイン、工芸に携わる人々からは彼女の選択や解釈に対しては批判もなされている。本展においてその点はやや控えめに扱われているのであるが、もっと強調されてもよいのではないだろうか。ペリアン来日の本来の目的は輸出工芸の振興である。彼女の「選択」は、ヨーロッパ人が日本に抱いていたイメージであり、日本に求めていたものである。対する批判は、日本人が目指し、つくりだそうとしていたデザイン・工芸である。このギャップのなかに、彼女が日本で見出し吸収した、欧米には存在しない日本独自の美の基準があったとはいえないだろうか。
本展は広島市現代美術館(2012/01/21~03/11)、目黒区美術館(2012/04/14~06/10)に巡回する。市販もされている展覧会図録(『シャルロット・ペリアンと日本』 鹿島出版会、2011)には、ペリアンと坂倉準三が交わした書簡や、彼女の手帖などが翻訳とともに収録されており、資料としての価値も高い。[新川徳彦]
2011/12/10(土)(SYNK)
「京の小袖──デザインにみる日本のエレガンス」展
会期:2011/10/29~2011/12/11
京都文化博物館[京都府]
「小袖」とは、現在の着物の原型。「小さい袖の衣服」を意味し、もうひとつには、袖口が小さいという「形状」を表わす。平安時代の上流階級の人々は、十二単の下に下着として、袖口が縫い詰められた小袖を着用したのだという。室町以降、小袖は「表着」として着られるようになる。本展は、桃山時代から江戸時代後期までの小袖を、松坂屋・丸紅・千總(ちそう)のコレクションを中心に展観したもの。前期・後期合わせて約180点の小袖が展示され、時代ごとのデザインの変遷を見ることができる。小袖の魅力のひとつは、文芸を題材に取るところにある。江戸時代の図案帳である「雛形本」を見れば、その流行ぶりがよくわかる。たとえば、一枚の着物のなかにある、春・御所車・鳥籠・飛ぶ一羽の雀という文様には、「源氏物語」のエピソードが表象されている。「物語」を身に纏い、愛でるとは、なんと優雅かつ粋なのであろうか。ジャポニスムが席巻した19世紀、そのような日本人の感性の発露としての染織品の意匠が、西洋の目利きから「ポエティック」と賞賛されたのも頷ける。日本の文様のうつくしさに圧倒され、さらに当時の人々にとってのファッションとしての小袖のありように感嘆した。[竹内有子]
2011/12/09(金)(SYNK)