artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』

会期:2011/10/07

TOHOシネマズほか[全国]

近頃のハリウッド映画をみていると、日本や韓国、香港など、アジア映画をリメイクした作品やシリーズ物、しまいには既存のシリーズ物の前作にあたるといったものまで、安易な企画としか思えない作品が多い。CGを駆使した映像自体は原作や過去の作品に比べ見応えはあるものの、なぜかつまらない。集中力を切らさず退屈しない作品のほうが少ない。本作『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』も、1968年公開のSF映画『猿の惑星』の前話を描いたという。ちなみに「猿の惑星シリーズ」はティム・バートン監督のリメイク版『猿の惑星』(2001)まで、続編などを含め計7回制作されている。正直なところ、本作は半信半疑でみた映画だ。『猿の惑星』で主人公のテイラー隊長(チャールトン・ヘストン)が砂に埋もれた自由の女神を発見し絶叫するラストシーンを、その衝撃を超えるなにかがあるのだろうかと。答えは「なるほど」といったところ。ハリウッド映画だからと言われればそれまでだけど、観客に負担をかけない丁寧な説明(展開)、喜怒哀楽を見事に表わす猿たちの表情や動き(技術)、霊長類保護施設に入れられたシーザー(主人公の猿)がホースで水をかけられる場面のように『猿の惑星』を意識させる巧みな仕掛けなどなど、すんなり入り込み楽しめる作品となっている。ストーリー上では今作からオリジナルへとスムーズなドッキングをはたしたと言っていいだろう。ただ、1968年の作品では科学技術の急速な進歩に対する希望と不安が、2011年の作品では人間(理性と感性をもった猿たちを含め)や人間性への問いが主軸に据えられている。[金相美]

2011/10/10(月)(SYNK)

「メアリー・ブレア──人生の選択、母のしごと。」展

会期:2011/09/22~2011/10/10

大丸ミュージアム〈梅田〉[大阪府]

ディズニー・スタジオで活躍したアーティスト、メアリー・ブレアの生誕100年を記念して行なわれた展覧会。スタジオジブリの所蔵する作品を中心として、水彩画に始まり、ディズニーのためのコンセプト・アート、絵本、広告デザイン、家族を描いたプライヴェートな作品まで、彼女の多彩な仕事を一堂に見ることができる。もともと美術学校で水彩画を専攻した画家であったが、ウォルト・ディズニーとの出会いを経て、カラー・スタイリストとして《シンデレラ》《ピーター・パン》《ふしぎの国のアリス》に参加。50年代末から60年代にかけては、フリーランス・デザイナーとしても活躍する。本展では、その広告物が展示されている。乳製品やココアなどの広告には、頭部の大きな愛らしい、彼女の作品に特徴的な子どもたちが多く登場する。ブレアは、ディズニーランドのアトラクション《イッツ・ア・スモール・ワールド》のデザインを担当したことで知られる。同作が端的に表わすように、明るい色と様式化されたかたち、いきいきとした登場人物たちによって織りなされる、創造力溢れるイメージの数々は、根源的な生への喜びとでもいうべきものを秘めている。見ると、元気の出る展覧会だ。本展は、来春に名古屋を巡回。[竹内有子]

2011/10/07(金)(SYNK)

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モチハコブカタチ──かばんのトップメーカー、エースのデザイン展

会期:2011/10/04~2011/10/23

東京藝術大学大学美術館 陳列館1,2階[東京都]

2010年に創業70周年を迎えたカバンのトップメーカー、エースのデザインの歴史をたどり、その機能性の哲学を探る展覧会である。陳列館の1階は歴史。1950年代から現在までのエースのデザイン変遷を、ビジネスバッグ、カジュアルバッグ、スーツケースの三つに分け、同時代の世相の解説と共に展示する。なによりも懐かしく感じたのは、紺色に白く「MADISON SQUARE GARDEN SPORTSMAN CLUB」の文字が抜かれたナイロンのスポーツバッグ。このいわゆる「マジソンバッグ」は、1968年から1978年までの10年間に約2,000万個(うち半分は類似品)も売れたという。当時の学生たちがみな持っていたといっても過言ではないだろう。
 2階の展示ではエースのバッグの機能性を検証する。ビジネスバッグ(ACEGENE EVL-2.0)、ソフトトロリー(ProtecA プライト)、ハードトロリー(ProtecA エキノックスライト)の3種類のカバンを分解し、重量を極限まで減らしつつも耐久性を実現する構造を探る。一つひとつのパーツに分解されたカバンは、佐藤卓の『デザインの解剖シリーズ』を思い出させる。会場ではほかに、芸大生による「モチハコブカタチ」の提案があった。カバンという定型にこだわらない自由なアプローチがすばらしい。もっとスペースを割いて展示しても良かったと思う。
 歴史をたどり、製品の素材と構造をみて感じるのは、エースがカバンというファッションの分野でものづくりをしながらも、見た目の奇をてらうのではなく、技術や素材、機能性を最大限に重視している点である。小規模な企業が多いカバン業界のなかでエースが抜きんでた存在になった理由は、1950年代のナイロンや合成皮革を用いたカバンへの挑戦にある。1964年から2004年まで続いた米国サムソナイト社との提携においても、ただライセンスを受けて生産するのではなく、プライベートロックやキャスター、伸縮式ハンドルなどの新しい機能を提案し、それがいまではスーツケースのスタンダードになっている。マジソンバッグも特別なカバンではない。使い勝手に優れていたからこそのヒットなのだ。製品開発の方向が、きちんと消費者に向いている。そのうえで、デザインもおろそかにしない。サムソナイトとの提携終了と前後して、エースはライセンス生産から自社ブランドの強化へと舵を切り、アジアを中心とした海外市場への展開も進めている。ブランドの強化、市場の拡大は、エースのデザインをどのように進化させてゆくことになるのだろうか。[新川徳彦]

2011/10/06(木)(SYNK)

海を渡った伊万里焼展──鎖国時代の貿易陶磁

会期:2011/10/02~2011/12/23

戸栗美術館[東京都]

輸出陶磁器について、新しい研究成果も取り入れたコレクションの紹介である。古伊万里の輸出というとヨーロッパにおける東洋陶磁の受容という文脈で語られることも多いが、この展覧会では輸出国である日本に軸をおいて、伊万里焼の変遷を見る。輸出国日本に焦点を当てているので、取り上げられている製品の輸出先もヨーロッパばかりではなく、インドネシアなどのアジアでの需要や、オランダ東インド会社の商館などで用いられた製品、医療用に用いられた陶磁器など多方面におよび、伊万里焼が実用的な商品として取引されていたことがよくわかる。いつものことながら、戸栗美術館の展示は初心者にもとてもわかりやすく、親切だ。[新川徳彦]

2011/10/02(日)(SYNK)

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企画展「インド ポピュラー・アートの世界──近代西欧との出会いと展開」

会期:2011/09/22~2011/11/29

国立民族学博物館本館企画展示場A[大阪府]

先日、あるインドの方からお土産をいただいた。刺繍が施された布バックだった。面白かったのはそのバックが入っていたビニル袋の絵だった。鮮やかな色を背景に、典型的なインド人女性の顔がプリントされていた。ある種の「キッチュさ」まで漂わせる。インドでプリントされたポスターやカレンダー、絵葉書、マッチレベルなどの印刷物には独特な存在感がある。本展は、インドに印刷技術が到来した19世紀末から20世紀後半にかけて、庶民のあいだで親しまれてきた宗教画や風景画、広告品などのコレクション140点を紹介し、その変遷をたどるものである。企画趣旨などが書かれた説明文を読むと、いかにもデザインがアートに昇華したかのような言い方をしているが、そもそも「ポピュラー・アート」の定義自体があいまいで、展覧会の方向性には少々疑問を感じた。ただ展示作品の奇抜な表現をみていると、「アート」と呼びたくなる気持ちがわからなくもない。とにかく面白い。[金相美]

2011/09/29(木)(SYNK)

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