artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
アール・デコの女性と装飾
会期:2012/02/04~2012/04/01
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
のちにアール・デコ様式の時代と呼ばれる1920年代と30年代のポスター芸術に焦点を当てた収蔵品展である。とくに印象的なのは、ムーラン・ルージュの踊り子ミスタンゲット(Mistinguett, 1873-1956)を描いたポスター。シャルル・ジェスマール(Charles Gesmar, 1900-1928)が描いたミスタンゲットの巨大なポスター(1928年、314×113cm)は少女漫画を彷彿とさせる華やかさ[図]。このときミスタンゲットは55歳。少女のようなその姿は、絵画ゆえの誇張ではなく、実際にも年齢を感じさせないパワフルなダンス、チャーミングな表情で人々を魅了していたという。ジェスマールはミスタンゲットのお気に入りのデザイナーで、多数のポスターのほか、彼女のステージ衣装も手掛けていた。1928年にジェスマールが急死したあと、他のデザイナーたちがジェスマールの様式を引き継いでミスタンゲットのポスターを制作してゆく。本展にはジェスマールが手掛けた作品3点と、他のデザイナーが手掛けた作品6点のミスタンゲットのポスターが出品されている。一人の女性を描いたポスターを並べることで、作家による違いにとどまらず、アール・デコ様式の内包する多様性と共通性を比較してみることができる。[新川徳彦]
2012/03/17(土)(SYNK)
『ヒューゴの不思議な発明』
会期:2012/03/01
TOHOシネマ梅田ほか[大阪府]
1888年に世界最初の映画カメラ「キネトグラフ」がトマス・エジソンによって開発されているが、リュミエール兄弟が「シネマトグラフ」をつくり、1895年12日28日に観客の前で動く映像を映したことを基準にするなら、映画はその誕生からわずか110年あまりの、(エジソンにしろ、リュミエール兄弟にしろ)新しい芸術ジャンルである。しかし、その変貌は他の芸術ジャンルに比べ、より激しく、独自性を保証する基盤はときに脆い。脆いとは、他の芸術ジャンル、例えば、文学、美術、音楽、メディアアートとの関係において影響されやすく、その土台が揺らぎやすいという意味だ。それはともかく、この頃、映画へのノスタルジーを感じさせる映画が目につく。本年度アカデミー賞の作品賞を受賞した『アーティスト』や(まだ観ていないが)、今回紹介する『ヒューゴの不思議な発明』がそうだ。本作で巨匠マーティン・スコセッシ監督は思いっきり初期映画への、そしてジョルジュ・メリエスへのオマージュを送っている。無声からトーキーへ、2Dから3Dへと、変貌の激しさと土台の脆さを克服するために、スコセッシ監督は映画の本質を、その楽しさを再考したかったのかもしれない。メリエスが舞台に立ち、彼の映画が映し出される場面では、正直、胸がじんとした。ただ、スペクタクルを望むなら、あるいは物語の面白さを期待するなら、他の映画をオススメしたい。[金相美]
2012/03/14(水)(SYNK)
kokeshi pop──ポップでカワイイこけしの世界
会期:2012/03/02~2012/03/12
PARCO MUSEUM[東京都]
第3次こけしブームなのだそうだ。最初のブームは第二次大戦前。地域によって形も呼び名も異なっていた木製のお土産品が1940年に「こけし」の名前で統一された。第2次のブームは戦後1960年前後から始まる。千趣会の前身である「味楽会」がこけしの頒布会である「こけし千体趣味蒐集の会」を始めたのが、1954年。1959年には第一回の「全国こけしコンクール」が開催されている。そして、2009年前後から、それまでの蒐集家とは異なる20代30代の女性を中心に、第3次のこけしブームが始まったようである。2010年4月には『kokeshi book──伝統こけしのデザイン』(青幻舎)が刊行され、ヒット。このブームのさなかに東日本大震災が起きたことで、おもに東北地方でつくられているこけしの蒐集には復興支援という活動も加わった。2009年に鎌倉にこけしとマトリョーシカの店「コケーシカ」を開いた写真家・詩人の沼田元氣は、雑誌『こけし時代』を創刊。『kokeshi book』を制作したデザイン・ユニットCOCHAEはリサイクルこけしの販売による利益を震災の義援金として寄付する活動を行なう。「KOKESHIEN!」(こけし+支援)プロジェクトを主催し、2011年12月にはメキシコでもこけしの展覧会を開催した(2011/12/05~12/10)。ほかにも、横浜人形の家では震災復興を支援する「こけしとその仲間たち」展(2011/11/12~12/18)が、滋賀県・観峰館では「ガンバロウ日本!! 東北伝統こけし展」(2012/02/01~03/20)が開催されている。六本木アートナイト2012にはYotta Grooveによる巨大こけし《花子》が登場(2012/03/24~03/25)。4月3日からは福島市の西田記念館で「WE LOVE KOKESHI!」展が開催される(2012/04/03~07/31)。
「kokeshi pop」展はCOCHAEが企画協力するこけしの展覧会。「ポップでカワイイこけしの世界」というタイトルのとおり、明るい色彩、ポップなショーケースに収められたこけしたちは、伝統工芸品でありながらも、新しい魅力を見せてくれている。東北各地の工人(職人)による作品ばかりではない。こけしといえば、体験絵付け。しりあがり寿、安齋肇ら漫画家やイラストレーターが絵付けをしたこけしも楽しい。また、こけし蒐集家でもあった童画家・武井武雄が描いたこけしを紹介するコーナーも設けられ、展覧会にあわせて『武井武雄のこけし』(cochae編、パイインターナショナル、2012)も刊行された。
先行して開催された大阪・梅田ロフト会場(2011/12/28~2012/01/17)には20日間で1万6,000人 、東京・渋谷パルコ(2012/03/02~2012/03/12)には10日間で1万2,000人 が訪れたという。展覧会は名古屋パルコ(2012/04/06~04/23)にも巡回する。ブームを盛り上げ、さらに新たな層を取り込んでゆく。「目にする機会が減ったから魅力を知らないだけ。ならば、目にする機会を増やせばいい」 というCOCHAEの活動は、伝統工芸振興のひとつのモデルにもなりうるのではないだろうか。[新川徳彦]
2012/03/12(月)(SYNK)
1.17/3.11 明日への建築展
会期:2012/02/18~2012/03/12
ASJ UMEDA CELL[大阪府]
2011年3月11日に起きた東日本大震災は辛い記憶である。辛い記憶は早く忘れたほうがいいに決まっている。しかし、まだ忘れてはならない。それは自然災害への警鐘をならすためでも、教訓をいかすためでもない。現にいまだ生活の場を失ったまま、苦しんでいる人たちがいるからだ。本展は、今回の津波で失われた街や村を1/500の縮小模型で復元、展示したものである。復元模型の制作は建築学生と街の再生を願う人たちによるボランティアが中心となって行なったという。模型そのものは何の意味も持たないし(まるでコンセプチュアルアートのように)、たいして面白くもない。ましてや復興へ向けた提案を示しているわけでもない。ただ、失われたものを把握し、記録する。そして、被災地に関心を向かせると意味では評価できるかもしれない。[金相美]
2012/03/07(水)(SYNK)
I'm so sleepy──どうにも眠くなる展覧会
会期:2012/03/02~2012/03/18
世田谷文化生活情報センター「生活工房」[東京都]
冬眠していた動物たちが目覚めるこの季節、3月第3週金曜日は世界睡眠医学協会が定めた「世界睡眠デー」なのだそうだ。今年から日本でも睡眠健康推進機構が春(3月18日)と秋(9月3日)にそれぞれ「睡眠の日」を設けた。良い睡眠は健康な生活に欠かすことができない。「睡眠の日」前後には、睡眠に関する正しい知識の普及と啓発を行なってゆくという。「I'm so sleepy──どうにも眠くなる展覧会」はそんな「眠り」をテーマにした展覧会である。3階ギャラリーのテーマは、動物たちの眠り。どんな生き物にも睡眠は欠かせないが、眠るということは無防備になることでもある。敵に襲われないようにするために、あるいは活動時間の違いによって、動物たちの眠りのかたちはさまざまである。たけむらまゆこのイラスト、さくまひろこの文章によるパネルは、絵本のようで楽しい。4階ワークショップルームのテーマは人の眠り。1日=24時間の天体の進行と、人、動物(ムササビ)、植物(カタバミ)の体内変化のリズムを立体的に表わした大きなモデル
に圧倒される。周囲の解説シートでは、一般的な日本人が帰宅し、食事、入浴、睡眠、そして覚醒までに至る体内における変化と睡眠との関係がさらに詳細に解説される。そして夢。人はなぜ夢を見るのか。夢はどのような記憶から構成されているのか、夢の仕組みを解説する。展示の最後は、世界各地で用いられた眠りのための道具。干し草のベッド、木の枕、蚊帳、ハンモックなどをじっさいに体験できる。チラシには「もしも寝ちゃっても起こしません(閉館までは……)」とあったが、本当に寝てしまう人たちがたくさんいたそうだ。週末には、眠りをテーマにしたメニューを揃えたカフェも出張。「眠り」というカタチのないものをさまざまな側面から視覚化した展覧会。生活工房の企画も、会場構成を手掛けたセセン設計所の仕事もとてもすばらしい。[新川徳彦]2012/03/06(火)(SYNK)