artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
7つの海と手しごと〈第2の海〉「北極海とイヌイットの壁かけ」
会期:2011/011/12~2011/12/18
世田谷文化生活情報センター「生活工房」[東京都]
会期:2011/11/12~2011/12/18
会場:世田谷文化生活情報センター「生活工房」
地域:東京都
サイト:http://www.setagaya-ac.or.jp/ldc/
「7つの海と手しごと」と題し、海をくらしの中心とする人々のクラフトを紹介する企画の二回目。北極海の雪原に生きるイヌイットのつくるフェルトの壁掛けを取り上げている。かつてイヌイットの人々は、動物の骨から針を、腱から糸をつくり、毛皮の服や靴を仕立てていた。現在ではこれら防寒具の素材はダッフルに変わったが、その余り布に鮮やかな色彩のフェルトを施して壁掛けをつくっているという。おもなモチーフは、狩猟を中心としたイヌイットたちの生活の姿。これらがフェルトと刺繍糸によって、具象的に描かれている。展示されているフェルト製の人形も非常に具象的である。そこには生活の姿を記録に留めておこうという意識も働いているのだろうか。一回目の「クナ族のモラ」では装飾の技法や歴史の解説、現地に取材したビデオの上映があったために刺繍を手掛ける女性たちの生活の姿を良く知ることができたが、今回の展覧会にはそのような解説が乏しかったことが残念である。イヌイットたちはいつ頃からこのような刺繍を手掛けるようになったのか。刺繍はどのように利用されているのだろうか。[新川徳彦]
2011/11/18(金)(SYNK)
世界の絣
会期:2011/10/14~2011/12/17
文化学園服飾博物館[東京都]
日本の絣を中心に、世界の絣の織物の文様と技法とを比較する展覧会。英文タイトルは「IKAT textiles from the world」。IKATとは「絣(かすり)」のことで、辞書によるともともとはマレー語で、しっかり結ぶという意味なのだという。日本語の「絣」は文様の境に生じる「かすれ」に由来する。斑に染め分けた糸を織り上げることで文様が浮かび上がる。現在は世界各地に見られるこの技法は、もともとインドを発祥の地として、内陸ルート、海用ルートを通じて5世紀に中国、6~7世紀にはインドネシア、そして10世紀には北アフリカに伝わったという。この技法が日本に伝わったのは7世紀であるが、広く普及したのは明治から昭和初期とされる。伝統的な技法という印象を受けていたが、その普及は意外にも新しい。技法的には経糸のみの縦絣、緯糸のみの緯絣、経糸緯糸ともに染め分けた糸を用いる縦緯絣とがあり、なかでも複雑な縦緯絣が行われているのは、日本とインドネシア、インドの一部のみだそうだ。捺染とは異なり、自在に文様を表すことはできないが、技術的な制約は独自の美を生み出す。そして類似の技術を用いながらもその美の方向性が地域によって異なっている様はたいへん興味深い。[新川徳彦]
2011/11/16(水)(SYNK)
柏木博『デザインの教科書』
デザイン評論家・柏木博の「デザインについて、制作者の視点からではなく、使い手つまり受け手の側から見ることをテーマにしている」最新刊。著者によるこれまでの論述の総論的内容の「教科書」でありながら、今日的な新しい観点も加味されている。はじめに、「デザイン」を考えるためのいくつかの視点──「心地良さという要因」「環境そして道具や装置を手なずける」「趣味と美意識」「地域・社会」──が提示され、これらのキーワードが各章に敷衍されている。なかでももっとも興味深いのが、第4章「シリアスな生活環境のためのデザイン」および第5章「デザインによる環境問題への処方」であろう。「ソーシャル・デザイン」「環境デザイン」「コミュニティ・デザイン」などの言葉がますます注目される現在、とりわけ3.11を経験した私たちにあっては、この領域に関するより具体的な記述を今後期待したいところだ。本書では、互いの章や各記述が連関しあって「デザイン」の歴史的展開やその重層的な意味が浮かび上がるという形式はとられてはいない(例えば、最後の第8章はデザイン・ミュージアムの事例について記述されている)。雑誌連載の著述に加筆されたため、著者の関心事に応じて構成されているからだ。とはいえ、本書に述べられている通り、「もう少し柔らかく、デザインをどういう視点から見ればいいか」を知りたい読者には最適の書である。[竹内有子]
2011/11/13(日)(SYNK)
川西英コレクション収蔵記念展「夢二とともに」
会期:2011/011/11~2011/12/25
京都国立近代美術館[京都府]
京都国立近代美術館は、2006年から、版画家・川西英(1894-1965)が集めた1千点余の作品と資料の収集をはじめ、今年の10月にその収蔵を完了したと言う。本展は「川西英コレクション」の収蔵完了を記念するもの。同コレクションには、当時、西川と交流のあった創作版画家たちの代表作をはじめ、富本憲吉やバーナード・リーチといった工芸家たちが手がけた版画も含まれている。とくに大正時代に一世を風靡した画家・版画家の竹久夢二(1884-1934)の作品と資料が充実しており、コレクションの三分の一を占めている。これが「夢二とともに」というサブタイトルがついたわけ。展覧会場に入ると、本の表紙絵や便箋、版画作品がずらり。インスタレーションが主流の現代アートの展示と比べれば迫力はないものの、大正時代ならではのレトロ感と、デザインの愛らしさがあってほっとする。この秋、ぶらりと立ち寄ってみるのもいいかもしれないと思った。[金相美]
2011/11/12(土)(SYNK)
ルキノ・ヴィスコンティ『ベニスに死す』
会期:2011/010/01~2011/11/11
テアトル梅田ほか[大阪府]
イタリア・ネオリアリズム映画の巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督(1906-76)の代表作のひとつ『ベニスに死す』(1971年、イタリア・フランス、131分)がニュープリント版となって上映された。ドイツの文豪パウル・トーマス・マンの同名小説を映画化した作品で、主人公のモデルとなったのはロマン派の作曲家グスタフ・マーラーだと言われている。物語は単純で、静養のためベニスを訪れたドイツの大作曲家が滞在先のホテルで出会った美少年に究極の美を求めるという話。出身は貴族、青年時代は熱心なコミュニスト、晩年は耽美主義者と言われたヴィスコンティ監督と彼の映画を一言で定義するのは難しい。ヴィスコンティ研究者でさえも彼の映画の核心を掴み取ることは容易ではないと言うほど。本作はヴィスコンティの晩年の作品で、晩年の傑作という讃辞と、無味乾燥で退廃的という批判を同時に受けた。どちらにしろ、老巨匠がくれた荘厳なまでに美しい画面を楽しめるのは幸運なことではないか。[金相美]
2011/11/09(水)(SYNK)