artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

100 gggBooks 100 Graphic Designers

会期:2011/10/05~2011/10/29

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]

1986年にギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)が開設されて25周年。そして内外のデザイナーの作品を紹介するggg Booksの100冊目が刊行された。今回の展覧会では、これを記念してggg Booksシリーズに登場した100人のデザイナーの作品1点ずつ、計100点を展示する。今回の展覧会と合わせて、ggg Booksの電子書籍版も刊行され、会場ではiPadで閲覧できるようになっていた。
 gggはグラフィック・デザイン専門のギャラリーとして、日本のデザイナーばかりではなく、世界の潮流を紹介する役目もはたし、発表された作品の多くは、ggg Booksシリーズに収録されてきた。他方でグラフィック・デザインの領域は、近年拡大している。紙メディアとWebメディアとの境目はもはや存在しない。モーション・グラフィックもあり、パッケージなどの立体もある。個展が企画の中心であるgggの展覧会においても、従来のグラフィックにとどまらない仕事が紹介されることが多くなってきた。ところが、紙媒体の書籍では、こうした多様なメディアの作品をアーカイブしていくことは困難であった。しかし、電子書籍には新たな可能性がある。今回刊行された電子書籍版のggg Booksは刊行済み書籍を電子化したものであるが(検索機能など、電子版ならではの機能もある)、gggの運営を支援する大日本印刷は日本の電子書籍普及をリードする立場でもあり、今後の展開には大いに期待したい。
 本展は、dddギャラリー(大阪)に巡回する(2011年11月9日~2011年12月21日。前期と後期で展示替えあり)。[新川徳彦]

2011/10/27(木)(SYNK)

イタリア・ファエンツァが育んだ色の魔術師──グェッリーノ・トラモンティ展

会期:2011/09/10~2011/11/13

東京国立近代美術館工芸館[東京都]

グェッリーノ・トラモンティ(Guerrino Tramonti, 1915-1992)は、マヨリカ焼の産地、イタリア北部ファエンツァ出身の陶芸家である。ファエンツァは、12世紀頃にマヨリカ島から伝わった錫釉陶器の産地であり、現在でも陶芸学校や国際陶器博物館がある。現代陶芸家カルロ・ザウリ(Carlo Zauli, 1926-2002)もファエンツァ出身で、トラモンティとほぼ同時期に活躍している。
 ファエンツァ王立陶芸学校で学んだトラモンティの創作の範囲は陶芸にとどまらない。1929年頃から始まった創作活動の当初は、彫刻や絵画で評価を受けている。やがて陶芸コンクールなどへの出品によって、陶器に創作の中心が移り、その生涯においてさまざまな表現を試みた。1950年前後、トラモンティの作品は、女性の頭部やレリーフなどの彫刻的な造形(図1)から、鮮やかな色彩の絵画的な作品へと変化する(図2)。かと思うと、1960年代の作品は一転して絵画的表現は姿をひそめ、「二重構造のフォルム」シリーズに見られるような形態と釉による表現を追求する(図3)。そして1970年代になると、ふたたび絵画的表現に戻る。技法としては、縁を立てた円形もしくは方形の陶板に、黒い輪郭をともなってモチーフを描き、ガラス釉を施す。焼成後、厚いガラス釉にはクラックが入り、それが独特の印象をもたらしている(図4)。モチーフは身の回りの品々。猫、魚、瓶、海草、洋梨、ピーマン、西瓜、無花果の葉、真珠を摘む指先などが繰り返し用いられている。明るく鮮やかな色彩と明確な輪郭の作品は、とても楽しい。1970年代には絵画も多数制作されたが、陶板と同様のモチーフが用いられ、砂を混ぜて描かれた油彩の質感もまた彼の陶板との共通性を感じさせる(図5)。同時期の作品には頻繁にアルファベット(大文字のRが多い)が現われるが、これがなにを指しているのかいまのところわかっていないのだそうだ。2009年にイタリアで開催された回顧展以降、トラモンティの作品はふたたび注目を集めてきているという。これから研究が進み、モチーフや文字の謎が明らかになることであろう。
 本展は山口県立萩美術館(2011年12月10日~2012年2月12日)、西宮市大谷記念美術館(2012年4月7日~2012年5月27日)、瀬戸市美術館(2012年6月9日~2012年7月29日)に巡回する。[新川徳彦]



左上から、
図1=《擬人化フラスコ》1950年頃、グェッリーノ・トラモンティ財団蔵
図2=《静物画》1956~61年頃、グェッリーノ・トラモンティ財団蔵
図3=《二重構造のフォルム》1965-67年頃、グェッリーノ・トラモンティ財団蔵
図4=《猫と文字》1979年、グェッリーノ・トラモンティ財団蔵
図5=《女性と猫のいる静物画》1990-91年頃、個人蔵

2011/10/20(木)(SYNK)

『ペンギンブックスのデザイン 1935-2005』

発行日:2010年3月
著者:フィル・ベインズ
発行日:2010年3月
発行:ブルース・インターアクションズ
価格:2,940円
サイズ:A5並製、264ページ

1935年に英国で創刊されたペンギンブックスの70年間にわたる表紙デザインを追った、じつに目に楽しく(図版は500点を超える)、読んで面白い(綿密な調査分析に基づく)本である。なによりもご覧のとおり、「表紙デザイン買い」をしてしまいそうな装丁。「ペンギン」のブランド・カラーであるオレンジが、本論頁の紙にも効果的に使われている。それもそのはず、著者はロンドンのセントラル・セントマーティンズ美術大学で教える傍ら、フリーランスのグラフィック・デザイナーとして活躍している人物。ブック・デザインが象徴的に示すとおり、本書は、ペンギン・ブランドがどのように構築・展開されていったかについて、会社の歴史・デザイナーの手法・各「シリーズ」「ブランド」の特徴と変遷・タイポグラフィ分析・技術的変化など、複数要素を通じて探求している。巻末にはヤン・チヒョルトが考案した「ペンギン組版規則」が掲載されてもいる。同社の歴史が、グラフィック・デザインの発展といかに轍をひとつにしてきたか、深く考えさせられる。[竹内有子]

2011/10/15(土)(SYNK)

羊からじゅうたん!~秋の部 糸から織へ~

会期:2011/09/10~2011/12/04

白鶴美術館新館[兵庫県]

関西屈指の高級住宅街、御影山手にあり、東洋・日本美術の秀逸コレクションで知られる白鶴美術館。現在、秋の所蔵品展として「深遠なる中国美術」(本館)、「羊からじゅうたん!」(新館)の2展が開催中だ。今回は後者の展覧会に注目してみたい。
 新館は、威風堂々たる日本建築の本館とは対照的にモダンな外観を有し、入口の扉を開けると柔らかな光に包まれた静謐な空間が垂直方向に広がる。この垂直性は1階展示室の床が入口のレベルよりも下がっていることでもたらされるのだろう。1995(平成7)年にオープンした新館は白鶴美術館のオリエント絨毯の所蔵品の展示を目的として建てられており、高い天井高を確保した空間は、絨毯の縦長の形状を考慮したものと思われる。
 それゆえ、この魅力的な空間では豪奢なオリエント絨毯が吊り下がっているだけでも十分なのだが、「羊からじゅうたん!」展ではさらなる試みが行なわれている。まず、1階には展示作品がなく、代わりに絨毯制作のおもな工程をわかりやすく解説した壁面パネルやパイル織の模型などが置かれている。部屋全体を支配するのは、来場者が「ノッティング(縦糸にパイル糸を結びつけて図柄をつくる作業)」を体験できるワークショップの空間だ。ワークショップは毎週末行なわれており、神戸学院大学人文学部の学生インターンがアシスタントを務めている。筆者が訪れた際、大勢の観客がいたが、学生たちが模型の前でペルシャ結びとトルコ結びの違いについて目を輝かせながら説明する姿がまぶしかった。
 2階にはおもに20世紀初期のオリエント絨毯が展示されている。作品の1点1点に解説文があるため、イラン、トルコ、コーカサスといった地域による図柄の違いや、おもな文様の意味などを知ることができる。一巡すればオリエント絨毯の地域的特色が体系的に掴めるのだ。つまり、1階と2階の展示はともに教育的効果という軸に貫かれており、そうしたやり方はオリエント絨毯を専門的に研究しつつ、一般の美術愛好者の目線にも立とうとする学芸員でなければできないだろう。また、ワークショップの場が大胆に展示空間に導入されることで、美術館の内部は活性化され、人の息遣いが空間に伝わる。とはいえ、建物が元来有する荘重な雰囲気や展示の美的効果が損なわれているわけではない。そのあたりのバランスのとられ方がじつに見事であった。[橋本啓子]


左=バクティアリー、ペルシア中央部、20世紀初頭、ウール
右=春季ワークショップ風景

2011/10/15(土)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00014659.json s 10014167

学習院大学史料館開館35周年記念コレクション展「是(これ)!」展

会期:2011/010/01~2011/12/03

学習院大学史料館展示室(北2号館1階)[東京都]

1975年に開館した学習院大学史料館は、今年で開館35周年を迎えた。これを記念して、収蔵品から優品35点を展示する。現在、史料館には14万点を超える収蔵品がある。その中心は古文書で、絵画や工芸品の比率は少ないとは言え、展示室における年二回の展覧会で紹介できる作品の数は限られる。歴史的に貴重な品であったとしても、テーマを定めた企画展からは外れるものもあるだろう。そこで今回の展覧会では統一したテーマは設定せず、収蔵品のなかから学芸員・研究員が選んだ優品を展示するという企画である。もちろん、それだけでは単なる収蔵品展である。今回の展覧会がユニークなのは、公式な作品解説のほかに、学芸員・研究員がそれを選んだ理由、お勧めのポイントを短い文章で、書店やスーパーのPOPのように、作品に付している点。とても面白い試みである。
 収蔵品には学習院の関係者や教育関連の資料のほか、皇族、旧華族関連の寄贈品、寄託品が多数あり、今回の展覧会にも皇室に関係する史料が多く出品されている。なかでも工芸品として興味を惹かれたのは「ボンボニエール」である。ボンボニエールとは、皇室や華族の慶事の際に列席者に配られる小さな菓子入れ(金平糖が入れられる)で、史料館には現在100点ほどのコレクションがあるとのこと。特に戦前のものには、複葉機[図1]、鶴置物[図2]、兜[図3]など、意匠を凝らしたものが多く見られる。いずれも手のひらに乗る小さなもので、菓子入れとしての実用にはほど遠いものの、その造形はとても楽しい。慶事の内容にもよるが、多いときには2,000個から3,000個が数社に分けて発注されたという。そのために、同じものでもつくりに差が見られるのだそうだ。
 また、史料館の客員研究員である皇太子殿下の「是!」は「牛車」。「唐車」と呼ばれるもっとも身分が高い人々が用いた牛車の図(西園寺家史料「九条家車図」、江戸時代)を中心に、戦前まで残されていた江戸時代末期の唐車の写真や、牛車型のボンボニエール[図4]などが合わせて展示されている。交通史を研究されてきた殿下ならではのセレクションである。[新川徳彦]


1──銀製複葉機形ボンボニエール(朝香宮孚彦[たかひこ]王成年式)、昭和7年(1932)10月
2──銀製双鶴置物形ボンボニエール(大正天皇大婚25年祝典)、大正14年(1925)5月23日



3──銀製鳥兜形ボンボニエール(皇太子[今上天皇]御降誕奉祝御餐宴)、昭和9年(1934)9月24日
4──牛車形ボンボニエール(ベルギー特派大使タイス氏午餐会)、昭和9年(1934)6月1日
すべて提供=学習院大学史料館

2011/10/10(月)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00014872.json s 10016641