artscapeレビュー
女子美染織コレクション展 Part5 KATAZOME
2016年01月15日号
会期:2015/11/14~2015/12/20
女子美アートミュージアム[神奈川県]
旧カネボウコレクションを含む女子美染織コレクションから、型染めに関する資料と女子美における染織教育の系譜に関わる人びとの仕事を紹介する企画。4章に分かれた展示の第1章は「型紙」。錐彫り、道具彫り、突き彫りなどの技法による多様な文様の型紙が出品されている。第2章は「型染め」。型紙を用いた微細な文様の小紋染めは、遠目にはほとんど灰色の布にしか見えない。それにもかかわらず超絶的な文様の型紙をつくり、それを用いて丁寧に布を染める技術のあり方やそれを求めた人々の粋の感覚にはため息が出る。この章では琉球紅型も紹介されているが、それは第3章の「民芸と女子美の型染め」へとつながる。民藝運動に関わった染色作家・芹沢銈介が紅型に影響を受けたことは知られているが、芹沢は女子美術大学工芸科設立時のメンバーとして1960年3月まで工芸科で学生を指導している。このほか芹沢門下の小島悳次郎の作品と型紙、女子美学長も務めた柚木沙弥郎のタペストリーなど、女子美卒あるいは女子美で教鞭をとる作家たちの型染め作品が紹介されているほか、第4章では注染技法による作品も出品されており、型染めと型染めを応用した技法と女子美教育との関連が示される。
というように企画テーマとしては「型染め」の展覧会なのだが、個人的な興味からどうしても「型紙」に関心が向かってしまう。筆者が型紙に関心を抱いたのは、明治期に海外に輸出された使用済みの型紙がジャポニスムの美術・工芸品に与えた影響を探った展覧会「KATAGAMI Style」展(2012年、三菱一号館美術館ほか )がきっかけ。型紙は本来は染めのために用いられる道具であるが、文様が彫り込まれた渋紙はそれ自体がグラフィックデザインとしてもとても魅力的なのだ。このとき出品されていた型紙には突き彫りによる比較的大柄な文様が多かった記憶があるが(これは西欧で工芸デザインのモチーフとして用いられた図案の紹介が中心だったからだと思う)、女子美染織コレクションの型紙は、技法としては錐彫り(刃先が半円状の刀で開けた小さな丸穴を連ねて文様を表現する)と道具彫り(特定の文様の形につくられた刀を用いる)による超絶的な意匠が中心。江戸中期から後期にかけての型紙コレクション308点から40点が、今回の展覧会のために特注したというライトテーブルに、文様の種類ごとに分けて見やすく展示されている。このディスプレイもすばらしい。いずれこの方法で型紙だけの展覧会も開催してほしいほどだ。
ロビー会場には造形作家であり女子美術大学名誉教授の髙橋英子先生の型紙コレクションが展示されており、こちらもすばらしいものばかりであった。髙橋先生によれば、これらは20年程前に廃業する染物屋さんから入手したもの。退職後に少しずつ整理をはじめて、今回ようやくまとまった展示にこぎ着けたのだという。アクリルパネルに挟んで天井から吊った型紙と、めくって見ることができるように束ねた型紙とで、500点以上を出品したという。こちらは、錐彫りや道具彫り以外に突き彫りの型紙も多数あり、またその意匠も伝統的なものからモダンなものまでじつに多種多彩。着物文化の歴史を証言する貴重な資料である。[新川徳彦]
2015/12/14(月)(SYNK)