artscapeレビュー
トーベ・ヤンソン──ムーミンと生きる
2015年10月01日号
会期:2015/07/25~2015/09/27
あべのハルカス美術館[大阪府]
「ムーミン」シリーズで知られるフィンランドの児童文学作家、トーベ・ヤンソン(1914-2001)の生誕百年を記念して行なわれた回顧展。本展では、挿絵とマンガ原画のほか、これまで紹介されることの少なかった彼女の油彩画作品を見ることができる。事実、芸術家の両親のもとで育ったヤンソンは「画家」としての自負があった。出展作の「自画像」数枚に表わされた印象的な本人の姿を見ると、その様子がうかがい知れる。1930年代のシュルレアリスムの影響を受けた絵画から60年代の抽象表現への取り組み、そして75年に描かれた、本質を抉り出すような強烈な筆致の自画像までが展観されるが、なにより際立つ特徴はその色彩の豊かさ。ムーミン物語における線描・白黒の挿絵のイメージからは、予想できない。他方、油彩画とグラフィックアートに共通するのは、「物語」を内包するかのような作品世界。日本では、ヤンソンの文学とは異なるアニメキャラクター・デザインによるムーミンのほうが有名だろう。それに代わるイメージ、つまり北欧の豊かな自然を背景に、夢幻的な世界観をもつヤンソンの創作活動の全貌が提示された展覧会だった。[竹内有子]
2015/09/01(火)(SYNK)