artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

日清・日露戦争とメディア

会期:2014/10/04~2014/11/24

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

川崎市市民ミュージアムが所蔵する錦絵、風刺画、写真から、日清戦争(明治27-28)および日露戦争(明治37-38)に関連する資料、作品を取り上げて、明治期における複製メディアの変遷、多様化を考察する展覧会。メディアの変遷は編年式で論じることもできようが、日清・日露戦争という10年の期間を隔てて行なわれたふたつの類似する「国家的イベント」に焦点を当て、その異同を考察する企画と考えられようか。理由の正当性はさておき、戦争は国民にとって一大関心事であり、その帰趨はさまざまなかたちで大衆に伝達されてきた。技術の変遷という点では、両戦争のあいだに木版による錦絵から多色石版画へ、そして写真利用の普及を見ることができる。この10年間には印刷技術の発展とともに雑誌メディアが伸長し、それにともない風刺雑誌、風刺画が多く見られるようになる。戦争のヴィジュアルは公式に伝えられるばかりではなく、こうした雑誌メディア、ポンチ本と呼ばれる娯楽絵本などを通じて大衆に伝えられた(ただし風刺されるのは対戦国ロシアを中心にヨーロッパ諸国である)。他方で日露戦争はヨーロッパ諸国にとっても関心事で状勢は写真やイラストを通じて伝えられた。日本から見たヨーロッパ列強のイメージと、ヨーロッパから見た極東イメージの違いは、同時代の国際社会の力関係を表わしていてとても興味深い。「戦争」と「メディア」が冠された展覧会タイトルからはメディアに操作される大衆というテーマを想像していたが、展示はおもに技術と媒体物とそこに現われた図像。情報の受け手に対する考察が加われば、さらに面白い企画であったと思う。[新川徳彦]

2014/10/12(日)(SYNK)

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高野山の名宝──高野山開創1200年記念

会期:2014/10/11~2014/12/07

サントリー美術館[東京都]

弘法大師空海が開いた日本仏教の聖地・高野山が2015年に開創1200年を迎えることを記念して、高野山に伝わる仏像・仏画を一堂に展示する展覧会。第1章は「大師の生涯と高野山」。空海の遺品や高野山開創に関わる宝物が紹介される。第2章は「高野山の密教諸尊」。運慶作《八大童子像》(国宝)全躯の展示や快慶作《孔雀明王坐像》(重文)などの彫刻類は本展の最大の目玉。第3章は「多様な信仰と宝物」。あらゆる階層の人々から信仰された高野山には、多彩な美術工芸品が寄進され、また多様な仏教美術を生み出していった。ここではそうした工芸品、仏像などが紹介されている。出品されている仏像のほとんどが露出展示されており、サントリー美術館の優れた照明のもとで、その美しい造形を至近距離から鑑賞可能。[新川徳彦]


展示風景

2014/10/10(金)(SYNK)

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SIMON DOLL 四谷シモン

会期:2014/10/11~2014/11/30

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

人形作家・四谷シモンの生誕70年を記念した展覧会「SIMON DOLL展」が西宮市大谷記念美術館で開催された。出品作は、60年代に制作された少女の人形からはじまり、1973年の初個展に出品された「未来と過去のイヴ」シリーズ、80年代の機械仕掛の人形シリーズ、90年代の天使シリーズ、そして最近作「ドリームドール」まで、球体関節を用いた原寸大の少年や少女の人形46体。四谷シモンへの注目度は、2000年頃からにわかに上昇している。全国5カ所を巡回した「四谷シモン──人形愛」展(2000-2001)をはじめ、「球体関節人形」展(2004)、「四谷シモン人形館・淡翁荘」(2004- )、「球体関節人形展──四谷シモンを中心に」展(2007)、東京国立近代美術館工芸館「現代の人形──珠玉の人形コレクション」(2010)など、彼の作品が目玉となるような展覧会が次々と開催されている。そのなかでも、本展は四谷シモンのおよそ半世紀の活動をふりかえる回顧展となっている。
ところで、人形というとどうしてもどこかに暗さのようなものがある。ヒトの形をしているがゆえに、そこにあるはずの生命の不在が感じられるからだと思う。かつて女形として状況劇場の舞台に立っていた四谷シモン。彼の名前には、70年代のアンダーグラウンドの空気を身にまとっていたその頃のイメージが残っている。そして、その空気は人形という表現形式のもつある種の暗さにふさわしいものであった。いまやそこもすでに日の当たる場所となり、アングラという場所はもうどこにもなくなった。そのことを改めて示すかのように、四谷シモンの近作には暗さがほとんど感じられない。型をとり、紙を張り重ね、胡粉を塗って、磨き上げる。完成の域に達した制作工程を経て丹念に精緻につくりだされた形が、ただそこに在る。生命の不在を感じさせないほどに確かな存在感をもって、ずっと以前からそうだったみたいに静かにそこにあるのである。最近の四谷シモンの人気ぶり、その理由がわかるような気がした。[平光睦子]

2014/10/10(土)(SYNK)

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平成知新館オープン記念展「京へのいざない」

会期:2014/09/13~2014/11/16

京都国立博物館 平成知新館[京都府]

京都国立博物館に平成知新館がオープンした。設計は谷口吉生。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、豊田市美術館、ニューヨーク近代美術館などを手掛けた美術館建築の第一人者である。建物は、地下1階、地上3階の4階建て。1階エントランスの開放感あふれるガラス張りのロビーには、谷口建築らしく、屋外噴水の水面に反射した光がゆらゆらと差し込む。展示会場に一歩足を踏み入れると、目の前に現われる15駆もの仏像の大きさと迫力に圧倒される。その1階から3階まで吹き抜けの彫刻分野の展示空間を囲むように、書跡、染織、金工、漆工など分野ごとの展示室が各階に配置されている。
本展では、京都国立博物館所蔵の重要文化財級の名品逸品が惜しみなく出品されている。染織分野の第一期の展示は、桃山時代から江戸時代にかけての小袖が中心になっている。なかでも、もっとも古いもののひとつ、「白地草花文様四つ替小袖」は、春の梅、夏の藤、秋の楓、冬の雪待ち笹を四つ替えにデザインした刺繍箔の小袖で、一面を埋め尽くす渡し繍の重厚感と草花の特徴をとらえた文様の伸びやかな大胆さが対照的で面白い。同時代の「雪待ち橘文様小袖」は、織り模様でありながら刺繍のような緻密さで色彩豊かに織り出された文様がいかにも愛らしい。いずれも、染織技術の急速な発展を支えた人々の意気込みとエネルギーを伝えている。また、江戸時代後期の婚礼衣装、「束ね熨斗文様振袖」では、友禅染を中心に、刺繍、摺り箔、型鹿の子などさまざまな技法を駆使して松竹梅、桐、鳳凰、鶴、牡丹、青海波などの吉祥模様が表わされており、贅をつくした衣装の醍醐味を味わうことができる。
第二期(2014年10月21日~11月16日)の染織分野の展示では、「神と仏の染織」と題して空海上人や最澄上人のものと伝わる袈裟をはじめ熊野速玉大社の唐衣など、第一期より時代をさかのぼる国宝の数々が出品されるというから楽しみである。[平光睦子]

2014/10/07(火)(SYNK)

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松本瑠樹コレクション「ユートピアを求めて──ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」

会期:2014/09/30~2014/11/24

世田谷美術館[東京都]

DCブランド「BA-TSU」の創業者・デザイナーの松本瑠樹氏(1946-2012)が蒐集したポスター・コレクションから、20世紀初頭に現われたロシア・アヴァンギャルドのポスター約180点を紹介する展覧会。展示は三つの章で構成されている。第1章は「帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」。革命前のヨーロッパとロシアにおけるポスターデザインの交流によって生まれた作品や、革命時、閉鎖された商店の窓に貼られた「ロスタの窓」というポスター(というよりも、絵入り壁新聞に近い)が紹介される。第2章は「ネップとロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」。ソビエト政府は識字率が低い国民を教育する手段として映画産業を国有化し、映画の制作に乗り出す。そうした映画を宣伝するためのポスターを手がけたステンベルク兄弟らデザイナーたちの仕事が紹介されている。第3章は「第一次五カ年計画と政治ポスター」。1929年に採択された第一次五カ年計画の政治ポスターに顕著なのはフォトモンタージュ技法である。背景には写真印刷技術の発達もあるだろうが、空想ではないリアルな未来像を人々に見せるというポスターの意図が見える。1930年代になるとすべての政治ポスターが共産党中央委員会の指導下にある出版所から発行されるようになり、ロシア・アヴァンギャルドの夢見たユートピアは潰え、社会主義リアリズムの時代となる。
 本展のメインは第2章の映画ポスターである。そのラインナップを見ていて興味深いのは、そこにたくさんのアメリカ映画が含まれていることである。全体の三分の一が外国映画のポスターだ。ソビエト政府は自ら映画の制作を行なっていたものの、国産の映画だけでは需要を満たせなかったために海外から多数の娯楽映画が輸入され、各地で上映された。デザイナーたちはどちらのポスターも手がけており、ソビエト製の映画であっても海外の映画であっても、デザインの様式には違いが感じられない。内容によってモチーフは違っていても、いずれも「ロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」なのだ。この様式はけっして革命プロパガンダのためだけの様式ではない。じっさい、これらのポスターはその政治的な背景とは関わりなく人々を魅了してきた。1930年に日本でソビエト映画ポスターの展覧会を開いたロシア文学者・袋一平はそのご子息の言葉によれば「生涯をソビエトに対する政治的な関心やコミットメントもなくロシアと付き合った」★1という。本展に出品されているポスターを蒐集された松本瑠樹氏もまた同様だったようだ。ご子息のルキ氏によれば瑠樹氏は表現に魅了されたのであり、ソビエトポスターの蒐集は共産主義へのシンパシーによるものではないという。たしかに瑠樹氏のポスター・コレクションはフランスのポスター画家・カッサンドルの作品から始まり、アメリカ、フランス、ドイツ、日本など多岐にわたっており、ソビエトのポスターはその一部に過ぎない。逆にいえば革命期に花開いた前衛のポスター芸術は、同時代においてはその革新性ゆえに国境を越えて注目され、また現代においてはポスターの持つ普遍的な力の象徴として、人々を魅了し続けているのだろう。[新川徳彦]

★1──岡田秀則「旅の終わり──袋一平とソビエト映画ポスター」『ロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター──東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵 無声時代ソビエト映画ポスター《袋一平コレクション》』展覧会図録(2009)6頁。

2014/10/05(日)(SYNK)

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