artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
こども展──名画にみるこどもと画家の絆
会期:2014/07/19~2014/10/13
大阪市立美術館[大阪府]
鑑賞後、幸せな気分になる展覧会はそれほど多くないけれども、本展はその稀有な例。フランスのオランジュリー美術館で開催された展覧会を再構成し、19-20世紀に活躍した47人の画家たちの「子ども」をモデルにした作品86点を集めたもの。近代絵画の巨匠たちの日本初公開の作品が多いのも見どころのひとつ。「序章」ではおもに新古典主義の画家たち、「第1章:家族」では家族の絆をテーマとした作品、「第2章:模範的な子どもたち」では成長過程にある子どもの多様な姿を捉えた作品を扱い、「第3章:印象派」「第4章:ポスト印象派とナビ派」「第5章:フォーヴィスムとキュビスム」「第6章:20世紀のレアリスト」では、それぞれの前衛運動の主要な画家たちの作品群を見ることができる。作家とモデルの間の親密な空気、描かれた子どもたちのこちらを見返す無邪気でいきいきとした個性溢れる眼差しに強く魅了される。画家のモデル/子どもに対する愛情・温かい視線がダイレクトに伝わり、多くの鑑賞者にほほ笑みをもたらしていた。[竹内有子]
2014/10/04(土)(SYNK)
村野藤吾──やわらかな建築とインテリア
会期:2014/09/03~2014/10/13
大阪歴史博物館[大阪府]
大阪を拠点に活躍した建築家・村野藤吾(1891-1984)の作品と人物の魅力を、家具・設計図・建築部材・彼の愛用品・建築のパネル展示等、およそ200点を通じて紹介した展覧会。今年は村野の没後30年にあたる。本展を通覧すると、その活動期間の長さを考えてもなお、とりわけ関西の都市街にいかに村野建築が多く貢献を成したか改めて実感される。同時に、当時の潮流「モダニズム」から一歩離れ、独自の創造的世界を追求した村野の姿が描かれる。それは、主要な百貨店やホテルの商業・宿泊施設等の内装・細部の仕事に顕著に見られるだろう。展示された実物や写真、例えば階段手すりの波打つカーヴや星をちりばめた天井等、その繊細でいて幻想的な芸術的効果は観者の感覚に強く訴えかける。本展でもっとも際立っていたのは、家具デザインの品々。喫茶《心斎橋プランタン》の椅子や衝立の柔らかな曲線と華奢な形、さまざまな材質を組み合わせて用いる面白さと彼の仕事の徹底ぶりには、強く魅入られた。そのほかの椅子群、傘立てや照明器具も多様性に満ちて興味深く、村野の人となりまで感じられるようだった。[竹内有子]
2014/10/04(土)(SYNK)
So French Michel Bouvet Posters
会期:2014/09/03~2014/09/27
ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]
フランスのポスターアーティスト、ミシェル・ブーヴェ(Michel Bouvet, 1955-)の作品展。ブーヴェがおもに手がけているのは、演劇や音楽、美術、フェスティバルなど、公的機関の文化イベント。ジュール・シェレ(Jules Chéret, 1836-1932)、カッサンドル(A. M. Cassandre, 1901-1968)、サヴィニャック(Raymond Savignac, 1907-2002)ら偉大なポスター作家の系譜に連なり、イメージの大胆な構成を特徴とする。近年の作品は、たとえばアルル国際写真フェスティバルのカラー・ポスターの場合は、写真展にもかかわらずモチーフは太い筆で描かれた戯画的な動物。これにシルクスクリーンでヴィヴィッドな色彩を乗せている。モノクロームの演劇ポスターには写真によるイメージが用いられている。とはいえ、写っているのは役者や装置ではない。ドライバーの先端であったり、太い骨を組み合わせた十字架であったり、鉈であったり、内容を暗喩するオブジェとテキストが大胆に用いられている。象徴的なオブジェ。手書きのユーモラスな動物たち。人々の目を捉えるインパクトを持ち、一瞬でイメージを伝達し、関心を抱いた人にはさらに詳細な情報を送り出す。機能的かつ美的であり、街の風景をもつくりだすメディアとしての優れた仕事である。[新川徳彦]
2014/09/25(木)(SYNK)
木村恒介 展──光素(エーテル)の呼吸(「クリエイションの未来展」第1回:清水敏男監修)
会期:2014/09/04~2014/11/24
LIXILギャラリー[東京都]
ひとつ目の展示室には、天井まで届く縦長の鏡が6枚並ぶ。鏡に正対して置かれたベンチに腰をかけ、鏡に映る自分を見る。やがて映る姿が陽炎を通して見ているように歪み、変化していることに気が付く。鏡が息をするようにゆっくりとふくらんだりへこんだりしているのだ。6枚の鏡の呼吸の速度は少しずつ異なっていて、それがまた見る者の心にさざ波を立てる。「開港都市にいがた 水と土の芸術祭」(2012)で、木村は美容院に同様の呼吸する鏡を設置した。美容院という人々になじみのある空間。鏡は美容院の椅子の前に収まっている。しかしその鏡が呼吸することで、鏡に映る背景とともに建物のなかの空気がゆっくりと掻き回され、透明なはずのその存在が私たちの意識に上る。これに対して今回の展示はギャラリー。呼吸する鏡をただ一列に並べてもそこに映るのは白い壁だけで、そのままでは掻き乱されるものは何もない。だから、3枚ずつ並べた鏡が二つ、縁を接して互いに映り込むように立てられている。鏡に面したベンチに座ることで、正面に映る私も、側面に映る私も、その場の空気とともに掻き乱されるのだ。もうひとつの展示室には朝、昼、夜と時間を変えて撮影した3枚の写真が展示されている。銀座和光の前で、交差点に向けて三脚に載せたカメラをゆっくりとパンさせて撮影したものだという。5秒間の露出で写し出されたのはさまざまな色彩の光の軌跡。ある場の一瞬を切り取る「写真」に対して、この作品は時間と空間、すなわちその場の空気を記録したものだ。木村の言葉によれば、風景のなかにある雰囲気や空気感、見えない何か。本展の監修者・清水敏男氏によれば、空間を満たす光素(エーテル)。木村の「鏡」と「写真」は、いずれも見えない何かが確実に存在していることを感じさせる仕掛けなのであろう。
「クリエイションの未来展」は4人の監修者が順番に3カ月の期間でキュレーションする展覧会シリーズ。第1回目を担当する清水敏男氏は銀座・名古屋商工会館跡で開催される「THE MIRROR展」(2014/10/16~11/9)の総合プロデューサーでもあり、連動する企画として鏡を用いた作品を制作している木村恒介をフィーチャーしたとのことである。[新川徳彦]
2014/09/23(火)(SYNK)
女子美染織コレクション展4「生命の樹──再生するいのち」
会期:2014/09/06~2014/10/19
女子美アートミュージアム[神奈川県]
生命力の源泉、豊饒や生産のシンボルとして古代オリエントで発生し、世界各地で染織の文様に用いられてきた「生命の樹 tree of life」をテーマとしたコレクション展。花を咲かせて人々の目を楽しませ、実をならせて生き物の飢えと渇きを癒す。岩の上に落ちた植物の種は芽を出し根を這わせ、やがて岩をも砕いて成長する。コンクリートやアスファルトの隙間に生えた草花に生命力の強さを感じるのは現代でも変わらぬ私たちの植物に対するイメージであろう。ただし地域によって生命力の象徴となる植物は異なる。旧約聖書では「生命の樹」はエデンの園で知恵の樹と並んで立つ聖樹として描かれ、仏教では釈迦は無憂樹の下に生まれ、菩提樹の下で悟りを開き、沙羅双樹の下で入滅する。ヒンズーの神クリシュナはカダンバの樹の下に立ち、古代エジプトでは無花果が死者に永遠の命をもたらす生命の樹とされた。日本でも巨木はそれ自体がしばしば信仰の対象となり、また松竹梅のように吉祥の象徴にもなってきた。出品されている「生命の樹」の染織品の産地はインドやペルシャ、ヨーロッパとトルコ、そして日本。時代としては、紀元4世紀から5世紀のコプト織り、18世紀から20世紀につくられた更紗や織物、刺繍である。興味深い作品としては、18世紀インドの「クリシュナ物語図模様更紗 壁掛」がある。クリシュナ神のさまざまな物語とともに、樹木や草花、動物や鳥、魚や虫たちが 235×253センチの大きな一枚の布に鮮やかな色彩で描き込まれているもの。ロビーではこの更紗に描かれた物語を元に女子美OGが制作したアニメーションが上映されている。インド・カシミール地方のショールに織り込まれた花模様を源泉として各地で展開された、いわゆるペイズリー柄の変遷も興味深い。
女子美術大学の染織コレクションは、旧カネボウが大正末から昭和にかけて蒐集してきたもの。コレクションはフランスの地質学者フーケ博士(Ferdinand André Fouqué, 1828-1904)の遺品であったコプト織を大正12年に購入したことから始まり、第二次世界大戦前には南米プレインカ帝国の古代染織品、ヨーロッパ・中近東の織物、日本の染織裂が、戦後は能衣装を中心に日本の伝統衣装が蒐集され、1980年からは大阪市の鐘紡繊維美術館で保存、公開されてきた。カネボウの解散を受けて約12,000点の染織品が2009年に女子美術大学に収蔵されて調査研究が行なわれ、定期的にコレクション展が開催されている。[新川徳彦]
2014/09/22(月)(SYNK)