artscapeレビュー
SIMON DOLL 四谷シモン
2014年11月01日号
会期:2014/10/11~2014/11/30
西宮市大谷記念美術館[兵庫県]
人形作家・四谷シモンの生誕70年を記念した展覧会「SIMON DOLL展」が西宮市大谷記念美術館で開催された。出品作は、60年代に制作された少女の人形からはじまり、1973年の初個展に出品された「未来と過去のイヴ」シリーズ、80年代の機械仕掛の人形シリーズ、90年代の天使シリーズ、そして最近作「ドリームドール」まで、球体関節を用いた原寸大の少年や少女の人形46体。四谷シモンへの注目度は、2000年頃からにわかに上昇している。全国5カ所を巡回した「四谷シモン──人形愛」展(2000-2001)をはじめ、「球体関節人形」展(2004)、「四谷シモン人形館・淡翁荘」(2004- )、「球体関節人形展──四谷シモンを中心に」展(2007)、東京国立近代美術館工芸館「現代の人形──珠玉の人形コレクション」(2010)など、彼の作品が目玉となるような展覧会が次々と開催されている。そのなかでも、本展は四谷シモンのおよそ半世紀の活動をふりかえる回顧展となっている。
ところで、人形というとどうしてもどこかに暗さのようなものがある。ヒトの形をしているがゆえに、そこにあるはずの生命の不在が感じられるからだと思う。かつて女形として状況劇場の舞台に立っていた四谷シモン。彼の名前には、70年代のアンダーグラウンドの空気を身にまとっていたその頃のイメージが残っている。そして、その空気は人形という表現形式のもつある種の暗さにふさわしいものであった。いまやそこもすでに日の当たる場所となり、アングラという場所はもうどこにもなくなった。そのことを改めて示すかのように、四谷シモンの近作には暗さがほとんど感じられない。型をとり、紙を張り重ね、胡粉を塗って、磨き上げる。完成の域に達した制作工程を経て丹念に精緻につくりだされた形が、ただそこに在る。生命の不在を感じさせないほどに確かな存在感をもって、ずっと以前からそうだったみたいに静かにそこにあるのである。最近の四谷シモンの人気ぶり、その理由がわかるような気がした。[平光睦子]
2014/10/10(土)(SYNK)