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artscapeレビュー

松本瑠樹コレクション「ユートピアを求めて──ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」

2014年11月01日号

会期:2014/09/30~2014/11/24

世田谷美術館[東京都]

DCブランド「BA-TSU」の創業者・デザイナーの松本瑠樹氏(1946-2012)が蒐集したポスター・コレクションから、20世紀初頭に現われたロシア・アヴァンギャルドのポスター約180点を紹介する展覧会。展示は三つの章で構成されている。第1章は「帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」。革命前のヨーロッパとロシアにおけるポスターデザインの交流によって生まれた作品や、革命時、閉鎖された商店の窓に貼られた「ロスタの窓」というポスター(というよりも、絵入り壁新聞に近い)が紹介される。第2章は「ネップとロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」。ソビエト政府は識字率が低い国民を教育する手段として映画産業を国有化し、映画の制作に乗り出す。そうした映画を宣伝するためのポスターを手がけたステンベルク兄弟らデザイナーたちの仕事が紹介されている。第3章は「第一次五カ年計画と政治ポスター」。1929年に採択された第一次五カ年計画の政治ポスターに顕著なのはフォトモンタージュ技法である。背景には写真印刷技術の発達もあるだろうが、空想ではないリアルな未来像を人々に見せるというポスターの意図が見える。1930年代になるとすべての政治ポスターが共産党中央委員会の指導下にある出版所から発行されるようになり、ロシア・アヴァンギャルドの夢見たユートピアは潰え、社会主義リアリズムの時代となる。
 本展のメインは第2章の映画ポスターである。そのラインナップを見ていて興味深いのは、そこにたくさんのアメリカ映画が含まれていることである。全体の三分の一が外国映画のポスターだ。ソビエト政府は自ら映画の制作を行なっていたものの、国産の映画だけでは需要を満たせなかったために海外から多数の娯楽映画が輸入され、各地で上映された。デザイナーたちはどちらのポスターも手がけており、ソビエト製の映画であっても海外の映画であっても、デザインの様式には違いが感じられない。内容によってモチーフは違っていても、いずれも「ロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」なのだ。この様式はけっして革命プロパガンダのためだけの様式ではない。じっさい、これらのポスターはその政治的な背景とは関わりなく人々を魅了してきた。1930年に日本でソビエト映画ポスターの展覧会を開いたロシア文学者・袋一平はそのご子息の言葉によれば「生涯をソビエトに対する政治的な関心やコミットメントもなくロシアと付き合った」★1という。本展に出品されているポスターを蒐集された松本瑠樹氏もまた同様だったようだ。ご子息のルキ氏によれば瑠樹氏は表現に魅了されたのであり、ソビエトポスターの蒐集は共産主義へのシンパシーによるものではないという。たしかに瑠樹氏のポスター・コレクションはフランスのポスター画家・カッサンドルの作品から始まり、アメリカ、フランス、ドイツ、日本など多岐にわたっており、ソビエトのポスターはその一部に過ぎない。逆にいえば革命期に花開いた前衛のポスター芸術は、同時代においてはその革新性ゆえに国境を越えて注目され、また現代においてはポスターの持つ普遍的な力の象徴として、人々を魅了し続けているのだろう。[新川徳彦]

★1──岡田秀則「旅の終わり──袋一平とソビエト映画ポスター」『ロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター──東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵 無声時代ソビエト映画ポスター《袋一平コレクション》』展覧会図録(2009)6頁。

2014/10/05(日)(SYNK)

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