artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

浅井忠の眼──パリの街角を飾ったポスター

会期:2013/12/04~2014/03/30

堂本印象美術館[京都府]

19世紀末ヨーロッパのポスター、いずれも高さ1メートルを超える大きなものばかり、およそ20点による展覧会。カラーリトグラフ特有のレトロでポップな雰囲気が世紀末の享楽と熱狂を伝える。色数5、6色程度、繊細な描写はなく、よく見ると微かな型ズレもみられる。カラーリトグラフは表現としてはけっして豊かとはいえない技術だが、だからこそ構成要素が極限まで集約されて大胆で強い印象を与える。やがてオフセット印刷が普及して、より精緻で複雑な、より早く大量の印刷が可能になるまで、モダニズムの先駆けを華やかに演出した技術である。アール・ヌーヴォー調のロゴタイプが商品名を高らかに謳い、洒落た装いの女性たちが笑ったり踊ったりと躍動し、背景や装飾が魅惑的な異空間を演出する。その多くは演劇や舞踏会、アルコール製品やお菓子のポスターだ。老若男女、パリの街角を行き交う人々を楽しく幸せな夢の世界へと誘ったのだろう。
では、日本の若者たちはこれらのポスターになにを見たのだろうか。浅井忠は、洋画家、図案家として日本近代の黎明期に活躍した人物だ。浅井は1900年から約2年6カ月間フランスに留学し、帰国後は産業デザインの専門教育機関として創立された京都高等工芸学校で指導にあたるほか陶芸家たちとの研究団体、遊陶園に参加するなど教育界や産業界に多大な影響を及ぼした。このころヨーロッパで繁栄を極めたアール・ヌーヴォーをそのまま持ち帰るのではなく、尾形光琳、光悦をはじめ過去の日本画の研究をとおして日本独自の装飾を追求したことで知られる。浅井の導きでヨーロッパと出会った日本の若者たち。彼らの眼には、ポスターに描かれた世界はどのように映ったのだろうか。京都工芸繊維大学では美術工芸資料館を中心に、近年、所蔵資料が次々に一般公開されており当時の教育内容や学生作品などが紹介されている。本展では、浅井忠の眼、そして図案を学んだ若者たちの眼に思いを馳せることができる。[平光睦子]

2014/03/20(木)(SYNK)

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graf『ようこそ ようこそ はじまりのデザイン』

発行日:2013年03月15日
発行所:学芸出版社
価格:1,900円(税別)
サイズ:A5判、184ページ

大阪を拠点に活動するデザイン・ユニット「graf」が、これまでのデザイン活動の軌跡とものづくりへの思いを綴った本。家具製造・販売、内装設計、プロダクト・デザイン、グラフィック・デザイン、飲食店の運営やアート・イベントまで、衣・食・住を巡って彼らの活動は幅広い。異なるメンバーたちが執筆を担当しているが、全編を通して、「集団で物をつくること」、つまり専門領域を異にする多彩な人々が集まって行なう協働/人とのコミットメントのありかたに向けて、ゆるやかに糸が紡ぎだされているのが興味深い。そこがgrafのクリエイティヴたる所以だからだ。2012年末に建物を移転し始動した「graf studio」は、彼らのアイディアが生まれる場を伝え、そのプロセスを体験できるようにと名付けられたという。本書を読めば、創設15年を経たgrafの今後の展開がますます気になるだろう。[竹内有子]

2014/03/16(日)(SYNK)

背守り──子どもの魔よけ

会期:2014/03/07~2014/05/20

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

「背守り」とは、母が子の着物の背中に縫い付けた糸の縫い取り。子どもの無事な成長を願って、昭和初期まで日常的に使われた糸によるおまじないである。昔、「背に縫い目のない着物を着ると魔がさす」と言われた。大人の着物は二枚の布を背筋に沿ってつなぎ合わすための縫い目があるが、子どもの着物は小さいからそれがない。だから糸や布が貴重な時代に、背守りは魔除けとして用いられた。本展では、「背守り」のついた着物、端切れを集めてつくられた「百徳着物」、意匠の見本帳、現代の作例等、約110点の資料を見ることができる。母が子への思いを込めた祈りの糸の形は、背に沿って糸を縫いおろしたシンプルなものから、花や縁起物を象る工夫を凝らした文様、立体アップリケのような「押絵」までさまざま。時代が豊かになるにつれ変化した、衣文化における背守りの変遷を見ることができる。もうひとつの見どころは、写真家の石内都が撮り下ろした写真。かつて着物を着た子供たち・家族の情や温もりまでをも写し取ったような写真には、目が吸い寄せられる。[竹内有子]

2014/03/15(土)(SYNK)

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my home town わたしのマチオモイ帖

会期:2014/02/28~2014/03/23

東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]

「マチオモイ帖」とは、自分が生まれた町や大切に思っている町を選びクリエイターが個人の責任編集でつくる小冊子。2011年、瀬戸内海の小さな島の町を紹介するパンフレットとして始まり、その企画に共感したクリエーターたちの参加を得てこれまでに各地で展覧会を開催してきた。今回の特別展ではさらに参加者が拡大し、800点を超える「マチオモイ帖」が展示された。クリエーター個々人の編集によるものなので、身の回りの生活から周辺に取材するものまで、関心や行動の範囲、人々との関わりによって内容はさまざま。対象が都会の街であっても、郊外の町であっても、観光地であっても、いわゆる観光ガイドのように外から来た人が外から来る人のために選ぶ視点ではなく、その町で暮らしている人の眼で見た町のガイドである点が共通する。すなわち、「マチオモイ帖」をつくることは、その町で生まれた人、その町に住む人が、ありふれた普段のくらしを新たな視点で見つめ直し、発見する行為なのである。それゆえ作品の展覧会ではあるものの、読者であるよりもつくり手になりたいと思わせる展示であった。[新川徳彦]

2014/03/14(金)(SYNK)

3Dプリンティングの世界にようこそ!──ここまで来た! 驚きの技術と活用

会期:2014/03/11~2014/06/01

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

コンピュータ上のデータから、型などを用いることなくダイレクトに立体的な造形をつくりあげる3Dプリンタ。技術の進歩と装置の小型化・低価格化によって、このところ話題になることが増えてきた。夢の装置のように言われることもあるが、実際のところどのような仕組みになっているのか、なにができるのか、3Dプリンティング技術の現状と可能性とを、技術、活用法、生活への導入、問題点の四つの視点から示す展覧会である。3Dプリンタには使用する素材によって複数の方式がある。液体の樹脂をレーザーで固める光造形方式、粉末状の素材に高出力のレーザー光を当てて焼き固める粉末焼結積層方式、熱で溶かした樹脂を積み上げてゆく熱溶解積層方式、液状の素材をインクジェットプリンタの原理で噴出し積層するインクジェット方式が代表的な方法である。「プリント」する素材にはABSやアクリル、ナイロンなどの樹脂、チタニウムやステンレスなどの金属、石膏などの自然素材が用いられるほか、食品への応用も行なわれているという。
 これまでのものづくりの技術体系は、大量生産に最適となるように発達してきた一方で、製品の少量生産が困難なほど初期コストを引き上げてきた。これに対して、3Dプリンティング技術による製造は型をつくらないために製品の単価は数量ではなく、素材の種類とサイズによって決まるため、少量生産にとって非常にメリットがある技術である。それゆえ、製品の試作や一点ものなどへの応用が考えられる。デザインのプレゼンテーションやサンプルづくりはすでにさまざまな領域で行なわれている。医療の現場では、CTやMRIのデータから患者の臓器を再現し、手術のトレーニングや患者への説明に利用されるという。展示では実用的な用途も示されている。展示品のひとつである義足は、個々人にフィットさせなければならない装具である点で、この技術の応用に適した事例である。実物をスキャンして3Dデータを取得する技術と組み合わせることで、立体的な複製品をつくることも容易である。この技術を応用すれば博物館で実物の発掘品を手に取ることはできなくても、重さや質感がリアルな複製を用意することで、教育的効果をより高めることが可能になる。
 装置の小型化・低価格化はそうしたものづくりを企業ではなく、個人のレベルでも可能にし、その用途にはさらに可能性が拡がってきている。もちろん問題もある。夢のような技術として語られるが、道具が手に入ったからといって、誰もがそれを自由に使いこなせるわけではない。それはいい料理道具を揃えたからといって誰もが美味しい料理をつくることができるわけではないのと一緒である。ただ、道具が入手しやすくなったことで、潜在的な才能が開花する可能性は高まるだろう。その他、立体的なコピーが容易になることによって著作権侵害が生じる可能性や、個人レベルでつくられた製品の不具合の責任を誰が補償するのかという問題も指摘されている。3Dプリンタで「銃」を製造したというニュースも記憶に新しい。新しい技術は新しいモノや考え方とともに新しい問題をもたらす。本展は3Dプリンティング技術の「光と影」、あるいは現在の「カオス的状況」を見せる好企画である。[新川徳彦]

2014/03/11(火)(SYNK)

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