artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

高橋一平《Casa O》

[東京都]

竣工:2014年

高橋一平による小さな家のリノベーション、《Casa O》を見学する。木密地域の近接性ゆえに、隣家の古びた外壁が、室内の色と共鳴しつつ内壁のように見え、その隙間の上部から光がさす。いわゆるコミュニケーションとしての窓とは違う、拡張された壁をつくる大きな窓である。また家が小さいために、手前の開口から奥の開口が近く、正面のアプローチから家の向こうの風景までが通常とは違うスケール感をもち、家をすり抜けていくかのようだ。そして異界の2フロアを切断しつつ、曲がった階段が両者をつなぐ。

2016/05/14(土)(五十嵐太郎)

光の巡回展「Nightscape 2050─未来の街・光・人」

会期:2016/05/14~2016/06/10

TEMPORARY CONTEMPORARY[東京都]

LPAの「Nightscape 2050」展は、ベルリン、シンガポール、香港と巡回し、各地で内容が変化・成長している。単なるLPAの作品紹介ではなく、三部構成の映像、子どもとのワークショップなどを通じて、世界の都市の光環境を考える展示である。そして最後のパートは、東京を舞台に、地下空間、隅田川、コンビニ、防災の照明の未来を独自に提案する。ちなみに、月島の会場テンポラリーコンテンポラリーは昔、筆者がよく通っていたところで、リノベーション・スタディーズの連続シンポジウムを企画し、2冊の本を刊行したほか、キリンアートプロジェクト2005で石上純也のテーブルを世界初披露した場所でもある(その設営のために、現場で徹夜するはめになったが)。

2016/05/13(金)(五十嵐太郎)

窓学報告会 vol.2

会期:2016/05/11

YKK AP株式会社 窓研究所[東京都]

窓研究所の報告会に参加する。早稲田大学の中谷礼仁研究室による柱間装置論では、香川県の栗林公園の水辺にある掬月亭を題材とする約16分の映像を制作していた。光の状態が変化する1日の空間の表情の変化を丁寧にとらえた作品だが、とりわけ印象に残るのが、誰もいなくなったゾクゾクするような夜のシーンである。そして小津安二郎の映画は、実は柱、床、天井を撮影していなかったことを再認識させられた。

2016/05/11(水)(五十嵐太郎)

ローラン・ネイ氏 特別講義

会期:2016/05/09

東北大学青葉山キャンパス カタール・サイエンスキャンパスホール[宮城県]

東北大学の青葉山キャンパスのカタール・サイエンスキャンパスホールにて、ベルギーの構造デザイナーのローラン・ネイの講義が行なわれた。橋梁などの土木や建築のプロジェクトを合理的なアプローチで解く手つきの鮮やかなことに感心させられた。いわゆる明快に説明可能なデザインである。なお、長崎の出島、熊本の海辺、札幌の路面電車停留所など、日本でもプロジェクトを行ない、こちらはコミュニティ・デザイン的な取組みも報告された。

2016/05/09(月)(五十嵐太郎)

全国小津安二郎ネットワーク総会 基調講演「建築からみる小津安二郎~開口部を通じて他の映画と比較する」

会期:2016/05/08

江東区古石場文化センター[東京都]

全国小津安二郎ネットワークの総会において、基調講演「建築からみる小津安二郎~開口部を通じて他の映画と比較する」を行なう。小津ファンが集まる場なので、3日間に10本近く立て続けに彼の映画を再見した。空間論に関する新しい気づきもあったが、改めて彼の作品群における人物の入れ替え可能性、欠損家族ゆえに女性が交換される物語の構造が強く感じられる。総会では、NHKの「美の壺」の取材が入り、また『お早よう』で子役だった音楽家・設楽幸嗣と当時助監督を務めた田中康義のトークも行なわれた。撮影時以来の対面なので、なんと約60年ぶり! らしい。貴重なエピソードやセットに使われたマグカップが披露された。ところで、会場の江東区古石場文化センターは、小津が江東区に生まれ育ったことから、彼や地域ゆかりの映画の常設展示がある。また下部に図書館や会議室を含む公共施設が入り、上部が都の賃貸集合住宅という官民の複合施設の走りだった。

写真:上=セットに使われたマグカップ 下=江東区古石場文化センター

2016/05/08(日)(五十嵐太郎)