artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

《台湾大学社会科学部棟》

[台湾台北市]

《台湾大学社会科学部棟》も、伊東豊雄が設計しており、改めて台湾における彼の人気の高さがうかがわれる。特に巨大な校舎に付属する図書館の空間が素晴らしい。白い蓮の葉状の単位が不規則に並び、その隙間から光が漏れ、藤江和子の家具が迷宮のように絡む。伊東の《多摩美図書館》、石上純也の《KAIT工房》、フランク・ロイド・ライトの《ジョンソン・ワックス社》などの前例を統合しつつ、前進させたデザインだろう。

2015/03/17(火)(五十嵐太郎)

台湾総督府

[台湾台北市]

周囲を厳重警戒されている台湾総督府は、これまで何度も外側から見ていたが、今回は事前予約をして、内部見学を申し込む。ただし、貴重なインテリアの空間をまわるものではなく、1階の展示と中庭をめぐるガイド付き案内だった。展示の前半は、建築、台湾の日本との関係史、後半はやや宣伝めいているが、光復後(戦後)の政治、経済、社会を紹介しており、勉強にはなる。前半において、児玉源太郎や後藤新平の名前が出てくるのはわかるが、八田與一が結構リスペクトされていたのが興味深い。個人的に金沢ふるさと偉人館の展示で初めて知った人だが、石川県出身の土木技術者である。特に労働者の村を設置しながらの、ダム建設のプロジェクトが詳細に紹介され、台湾から感謝されているようだ。もっとも、その真下の展示は、『セデック・バレ』の映画で知られるようになった霧社事件のコーナーで、日本への抵抗運動であり、複雑な気分になる。

2015/03/17(火)(五十嵐太郎)

龍山寺

[台湾台北市]

台北に戻り、龍山寺へ。隣駅の西門は、若者ばかりの渋谷・原宿みたいな感じだが、ここは高齢者が多く、浅草のような雰囲気になる。龍山寺にいくと、観光以外で訪れる人も絶えることがなく、日本の寺と違い、宗教が生きていることを実感させられる。今回はここから少し足をのばして、剥皮寮歴史街区を初めて訪れた。商店が続く街並みをまるごと残しており、保存への意志の高さをうかがい知る。

写真:上=《龍山寺》 下=剥皮寮歴史街区

2015/03/16(月)(五十嵐太郎)

《台中庁連合会事務所》《台中庁庁舎》《専売局台中支局台中酒廠》ほか

[台湾台北市]

《台中庁連合会事務所》(1911)、《台中庁庁舎》(1913)、《台中警察署庁舎》(1934)は、いずれもちゃんと保存され、とく庁舎が積極的に活用されている。《台中駅》(1917)は小ぶりだが、密度の高い意匠である。また1920年代の《専売局台中支局台中酒廠》は、台中の華山1914創意文化園区と同様、工場の一帯を文化施設として残している。ただ、こちらの方が思い切ったリノベーションを幾つか試みている。倉庫の端部に嘴のように鋭角的な部位を付けたり、スケルトン化して、その内部にOMA的なデザインを挿入していた。

写真:左上から、《台中庁連合会事務所》《台中庁庁舎》《台中警察署庁舎》《台中駅》 右上から、《専売局台中支局台中酒廠》

2015/03/16(月)(五十嵐太郎)

《台中国立歌劇院》

[台湾台北市]

《台中国立歌劇院》を見学する。ここは現場の段階で、二度訪れていたが、現物が目の前にあっても、CGがそのまま立ち現われたような不思議な感じがする。工事前から周囲の開発が起き、高層マンションが次々と林立し、公式オープン前のいまも観光客がやってくる。ひょうたん型の空間形式が一番わかるのは、外観の切断面かもしれない。内部は、大中小の3つの劇場をおさめるが、空間の伸縮がかわる垂直の吹抜けがないために、形式は観念的に理解される。もっとも、1階を反復する5階、または1階の反転としての屋上など、体験を記憶しながら歩くと興味深い。むろん、うねる空間が内外に連続したり、未来的な迷宮感もある。現在、内装や舞台装置・機器の工事を継続しており、オフィス、店舗、カフェ、レストランが入り、ちゃんとオープンするのは来年の春らしい。安東陽子、藤江和子、廣村正彰らのデザイナーが入り、アーティストが壁画を描くという。

2015/03/16(月)(五十嵐太郎)