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建築に関するレビュー/プレビュー

昭和館/遊就館

昭和館/靖国神社遊就館[東京都]

九段で《昭和館》(菊竹清訓、1999)と《遊就館》(同、1882)の展示を見る。前者は戦中と戦時の暮らしを紹介し、後者は戦争博物館+慰霊の施設だが、いずれも受動的に戦争になったというか、主体なき自然災害のようだ。誰がなぜ戦争を起こし、なぜ悪化しても止めずに継続したかの視点がない。昭和館は、菊竹清訓のデザインらしく、持ち上げたヴォリュームであり、最上階までエレベータで一気に上がるという動線だ。まず7階が戦中、そして階段を降りるところで玉音放送、6階が戦後の公団の頃まで、という展示構成だ。ただ、エレベータのドアが開いて、いきなりトリックアートによる廃墟の絵が出迎える新規コンテンツは、これでよいのか? とはいえ、当時の映像ニュースの資料が多く、さまざまな情報を読みとれる。遊就館の展示手法は、以前より洗練された感じがした。が、いきなりプロパガンダの映像である。反米はともかく、日本は悪くなかった、正しい戦争だったことを主張する。なるほど、靖国神社のイデオロギー的な機能を「正しく」補完する内容だ。これ以外にも日本近代史の充実した博物館があるとよいのだが。最後の残された母が亡くなった息子に送る花嫁人形が哀しい。

写真:上=昭和館(左)と九段会館(右) 中=遊就館 下=昭和館の展示

2015/02/25(水)(五十嵐太郎)

プレビュー:PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015

会期:2015/03/07~2015/05/10

京都市美術館、京都文化博物館、京都芸術センター、堀川団地(上長者町棟)、鴨川デルタ(出町柳)、河原町塩小路周辺、大垣書店烏丸三条店[京都府]

京都市美術館と京都文化博物館を主会場に、京都市内の7会場で開催される大規模なアートイベント。河本信治(元京都国立近代美術館学芸課長)が芸術監督を務め、蔡國強、サイモン・フジワラ、ドミニク・ゴンザレス=フォルステル、笠原恵実子、森村泰昌、ピピロッティ・リスト、田中功起、ヤン・ヴォー、やなぎみわなど約40組のアーティストが参加する。あえて統一テーマを設けず、現場で自律的に生成されるサムシングに重きを置いているのが特徴で、昨今流行りの地域型アートイベントとは明らかに一線を画している。また、会期中に市内の美術館、ギャラリー、アートセンター等で行なわれる展覧会や企画と幅広く連携しているのも特徴で、3月から5月初旬にかけての京都は、「PARASOPHIA」を中心としたアートのカオス的状況になるはずだ。

2015/02/20(金)(小吹隆文)

スイスデザイン展

会期:2015/01/17~2015/03/29

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

東京オペラシティアートギャラリーの「スイスデザイン」展へ。スウォッチ、鉄道・航空、フライターグ、グラフィック、バリーなど、なじみのものが多いが、改めて同国のデザイン・ブランドの歴史と現在を総覧できる見本市のような展示である。いずれもシンプルで力強い。一度見たら忘れがたい。改めて、スイスはデザインを重視している国なのだと思う。そしてモダニズムの関連では、ル・コルビュジエのスイス関係の仕事と、建築からグラフィックの仕事に展開したマックス・ビルの軌跡に焦点をあてる。

2015/02/17(火)(五十嵐太郎)

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安藤忠雄建築研究所《東急大井町線上野毛駅 新駅舎》/吉田五十八《五島美術館》

[東京都]

安藤忠雄の改築による《上野毛駅》(2011)を見る。両側の駅舎をつなぐように、道路の上を屋根が横断し、そこに丸い穴を開ける。シンプルかつシンボリックな操作だ。《五島美術館》(1960)の茶道具取り合わせ展は、ミニチュアのセットに、いまのサブカルチャーに通じる感覚を読みとれて興味深い。それにしても、ゆがみや割れを尊ぶ美学は、ユニークである。あと、吉田五十八の建築は、住宅だといいけれど、なぜ大きいスケールだと、大雑把な和風になってしまうのか?

写真 上:安藤忠雄建築研究所《上野毛駅》 中・下:吉田五十八《五島美術館》

2015/02/15(日)(五十嵐太郎)

フィリップ・スタルク《スーパードライホール》

[東京都]

浅草へ。キリンプラザ大阪がなくなった現在、フィリップ・スタルクがデザインしたスーパードライホール(1989)が残っていると安心する。手前の高速道路を走る自動車が、テカテカの湾曲した黒い壁面に映り込むのが興味深い。また反対側の壁面は、スカイツリーが映る。バブルのときだからこそできた建築なので、時代の証言者として貴重な存在だ。

2015/02/14(土)(五十嵐太郎)