artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
New Amsterdam Plein & Pavilion
[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
マンハッタンの南端に移動し、オランダからニューヨークに贈られた、UN STUDIOの設計による、小さなニュー・アムステルダム・パビリオン(2011)を見る。冬季は閉店中だったが、それほど大きくないので、内部ものぞくと、雰囲気はわかる。空間が魅力的なわけでもないし、造形がびっくりするほどカッコいいわけでもない。またディテールもないし、コンピュータをぐりぐりやったらできます、というだけでは、ちょっと残念な建築である。
2015/01/01(木)(五十嵐太郎)
911メモリアル・ミュージアム
[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
久しぶりにニューヨークのグラウンド・ゼロを訪れた。デヴィッド・チャイルズや槇文彦が手がけたタワーはすでに完成し、カラトラヴァの駅も全容をあらわし、続けてノーマン・フォスターやリチャード・ロジャースによる高層ビルの現場も動いている。世界貿易センタービルの跡地は、2011年から二段のプールとなっていたが、2014年にその地下空間を使う911メモリアル・ミュージアム(スノヘッタ、2014)がオープンした。失われた超高層のヴォイドとしての水場の真下は、基礎、残骸、土木工事の痕跡などが残り、まるで古代の遺跡を見るような大空間である。正直、ここはもっと情緒的な施設なのかと思っていたら、膨大な資料と情報を提示し、何が起きていたのかを多視点から伝えるファクトをたんたんと積み重ねていく、すさまじい博物館だった。特に当時の声と証言を組み合わせた、音のドキュメントが分厚く、緊迫感を想像させる。911メモリアル・ミュージアムは、3時間近くいたが、最後は駆け足でまわる程のヴォリューム感だった。また1993年のテロも含む、犠牲者の追悼空間もあるが、彼らは匿名の市民ではなく、一人一人に名前と歴史があることをたんたんと伝える。
2015/01/01(木)(五十嵐太郎)
モーガン・ライブラリー
[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
モーガン・ライブラリー(1906)を訪れる。これもマッキム・ミード&ホワイトの作品を宇含む、20世紀初頭からの3つの様式建築をつなぐ、レンゾ・ピアノの増改築だ。フォートワースのキンベル美術館と同様、既存の建物をリスペクトしながら、明るい空間を生みだす、安定のクオリティだ。今回は、一時的なアート・インスタレーションが挿入されており、前に何もない状態で見たときと比べると、空間の良さが少し減じている。
2014/12/31(水)(五十嵐太郎)
「Uneven Growth:Tactical Urbanisms for Expanding Megacities」展
会期:2014/11/22~2015/05/10
MoMA(ニューヨーク近代美術館)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
MoMAの建築セクションでは「不揃いな成長:膨張するメガシティの戦略的アーバニズム」展と題し、ムンバイ、ラゴス、香港、NY、イスタンブールなどの6都市のリサーチ&データ展示。こうした切り口は、レム・コールハースが流行らせ、2014年のヴェネツィアビエンナーレでピークになった手法だが、見せ方が完全にスタイル化している。デザイン部門は、音や音楽関係をテーマにした展示で面白い。が、やはり一番の迫力は20世紀美術のコレクションを展示する常設のエリアだろう。卒計やイベントで学生を見ていると、普段美術館に行かないだけでなく、企画展しか重視しない雰囲気を感じるが、本当に強い美術館は、常設のすごいところだ。2年前に大がかりな日本現代美術の企画展を見たが、今日駆け足で見たところ、日本人で展示されていたのは、スピーカーとゲーム(インベーダーやパックマン)などのデザイン系くらいである。ただ、建築部門では、日本建築展を準備しているようだし、そもそも箱の増改築を谷口吉生が手がけている。MoMAの止めは、レストランのザ・モダンがいつも美味いこと。『地球の歩き方』などの旅行ガイドはショッピング、レストラン、ホテルの後にようやくミュージアムの頁が来るくらい、食の方が好きなんだから(建築の説明はテキトーだし)、せめて日本の美術館も、こういうお店が普通にあるとよい。
2014/12/31(水)(五十嵐太郎)
《エイモン・カーター美術館》、《フォートワース・コミュニティ・アーツ・センター》、《フォートワース科学歴史博物館》
[アメリカ合衆国テキサス州]
エイモン・カーター美術館(1961)へ。ここの手前のテラスから、キンベル美術館やフォートワースの街を一望できる。フィリップ・ジョンソンが設計したモダンだけど、古典風味の建築で、リンカーンセンターのデザインに近い。が、最大の特色は、テキサスのシェルストーンによる壁・柱・天井だろう。近づいて見るとよくわかるのだが、ぎっしりと貝殻の跡がある石のテクスチャーは驚くべき存在感だ。アメリカの芸術を紹介する美術館だが、オキーフ、ハドソン・リバー派、レミントンとラッセル、ちょうど企画展をしていたジョージ・ビンガムなど、西部の方に焦点をあてる。キンベルと同じく、ここも無料だ。日本も企業や財団などによる私立美術館は少なくないが、高い入場料のものばかりである。
《フォートワース・コミュニティ・アーツ・センター》(1954)は、バウハウスのヘルベルト・バイヤーによって設計された。彼はグラフィック・デザインで有名だったが、建築も手がけていたとはあまり知らなかった。いわゆるモダニズムだが、地元の建築による同じテイストの増築がなされている。安藤建築が新しくできるまでは、フォートワース近代美術館はここにあったようだ。
さらに隣の《フォートワース科学歴史博物館》(2009)は、レゴレッタの設計である。メキシコ色が強いこの地ならではのセレクションだろう。目がさめるような鮮やかな色の組み合わせで、空間を構成し、バラカン風の中庭や、カーン風(?)の連続ヴォールト天井を組み込む。科学の展示は、わかりやすく楽しい。エントランスの吹抜けでは、911の世界貿易センタービルの残骸である焼けた鉄骨を展示している。
またその隣の《カウガール博物館》(2002)と《殿堂》(2002)は、一見昔のテキサス・デコ風だが、近くの博覧会のときにつくられたアールデコ建築、ウィルロジャース・メモリアルセンターへのオマージュであり、2002年竣工の新築だった。展示を見て、アメリカの映画におけるカウガールの表象の研究をやったら面白そうと思う。
2014/12/28(日)(五十嵐太郎)