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建築に関するレビュー/プレビュー

《キンベル美術館》、《フォートワース美術館》

[アメリカ合衆国テキサス州]

ルイス・カーンの《キンベル美術館》(1972)は、40年以上がたったと思えない新鮮さで、今なお比類なき空間である。いや、用途を超えた力強い形式性の反復ゆえに、これがもっと昔から存在する廃墟のリノベーションのように見える。また当時から変わっていない可動壁のシステムや設備のおさめかたがおもしろい。
ただし、天候の状況やスポット照明のせいか、光の効果はあまり感じられなかった。翌日に再訪すると、今度は天気と時間帯がよく、光の奇蹟に遭遇することができた。手前の水面に低い角度で射し込む西日が反射し、外ヴォールト内部だけでなく、スリットを通じて、内部の天井に届き、映像のような、ゆらめく光の帯が発生する。それがさらにもう一度反射して、床に届く。またヴォールト同士の隙間をぬって、玄関床に鋭い光の弧を描く。水面をバウンドした光が奥のカフェの壁に到達する。ガラス面の反射によって、光と逆方向の外部に落ちる影。トップライトからの採光と絡みあう別の光。こうした様々な現象が時間の経過とともに、刻々と光の状態が変化していく。光が差し込む角度を考えると、夏や午前では体験できないかもしれない。


左:水面をバウンドした光とその反射 右:展示室内の光


2013年にオープンしたばかりの《キンベル美術館》のレンゾ・ピアノによる《新棟》(2013)は、カーン棟と中心軸や幅をそろえ、空間単位の反復も類似させながら、彼らしい軽やかな明るい建築になっている。透明性が高く、普段から見えるホール、屋根に緑を配し、埋めたように見せる奥のヴォリュームなどは現代的である。カーンへのリスペクトと、自身の個性を巧みに融合させた知的な作品だ。このプロジェクトをピアノに依頼したのが、お見事である。ともあれ、キンベル美術館では、コレクションの展示が完全無料で、太っ腹だ。カーン棟では、古代彫刻、イタリア、スペイン、フランス、イギリス、近代絵画、建築の各段階のスタディ模型の展示、ピアノ棟では、アフリカ、アジア、企画展、ホールが割り当てられている。ちなみに、カーンの最初期案は、むしろアーチが足下で連続していた。

レンゾ・ピアノによる《新棟》



左:キンベル美術館初期案 右:カーン棟とピアノ棟



カーター美術館から2つのキンベルと街をのぞむ


安藤忠雄の《フォートワース美術館》(2002)は、想像以上にデカく、外に対してL字配置で閉じて、内側の水面からの見えを勝負する。住吉の長屋ほか、過去作の要素を引き延ばしながら、大空間において再構成したかのようだ。展示は近代と現代美術が中心である。ジェニー・ホルツァーや屋外のセラが良い。企画では、シンディ・シャーマン、キース・ヘリング、バスキア、ゲリラ・ガールズなど、1980年代のアメリカ現代美術を回顧していた。

フォートワース美術館

2014/12/27(土)(五十嵐太郎)

フォートワース

[アメリカ合衆国テキサス州]

アメリカのフォートワースへ。高速を使って、空港から市内まで見える風景は、高いビルがなく、空が大きく見えるような平らな土地と、起伏のある土木インフラが続く。おそらく、良い景観を狙ったのだろうが、橋脚や壁などの土木構築物の表面が、すべて土っぽい色で塗装されていたり、似た色の擬岩、擬石積でおおわれている。施工がラフなのはともかく、デザインとして褒められない。ダウンタウンは、こじんまりとしてこぎれいで、あまり人気はないが、サンダンス・スクエアだけは賑わう。ハリボテっぽい、あるいは書き割りのような建物も散見されるが、実は復元や修理によるものが多い。端正なアールデコや、20世紀初頭の建築がよく残っている。様式建築系では、もこもこしたルスティカ風の仕上げを過剰に使うのが、この地域の好みのようだ。日本の地方都市より、全然豊かな建築資産を維持している。現地に到着して泊まるホテルが、実はケネディ大統領が暗殺された前夜に宿泊していたところと知って驚く。


左:AMCパレス 右:フラットアイアンビル


2014/12/26(金)(五十嵐太郎)

社会と建築家の新しい関係~なぜ今、3.11を語るのか~

会期:2014/12/21

青山ブックセンター本店[東京都]

青山ブックセンターにて、書籍&展覧会『3.11以後の建築』刊行・開催記念イベント「社会と建築家の新しい関係~なぜ今、3.11を語るのか~」のトークを行う。芳賀沼整、浅子佳英、鷲田めるろ、五十嵐が登壇した。「3.11以後の建築」の展覧会と書籍をめぐる討議の企画であり、浅子さんから原発事故の扱い、コミュニティ・デザインの興隆について問題提起がなされた。前者は福島の芳賀沼さんもいたほか、飛び入りでエネルギーの問題を考える竹内昌義さんも参加し、だいぶ議論できたが、後者は都合がつかず欠席だった山崎亮さんも入れて再度必要かもしれない。内ゲバではないが、3.11以後を考える人達が、原発に関して分断されるのは、結局、社会における風化を増長させかねないのが気になる。また現在、注目されるコミュニティ・デザインをめぐる第三者による批評がもっと増えると、この新しい動きは歴史として定着していくと思う。

2014/12/21(日)(五十嵐太郎)

水戸芸術館

[茨城県水戸市]

水戸芸術館(磯崎新/磯崎新アトリエ、1990)へ。中庭では多くの出店が並び、屋内ではパイプオルガンのコンサートをちょうどやっており、これだけ空間が活用され、賑わっているタイミングで訪れたのは、初めてだった。「3.11以後の建築」展の巡回に関する打ち合わせを行う。2015年11月からスタートする予定だが、もともと巡回を想定していなかった企画だけに、金沢21世紀美術館とはだいぶ見せ方が変わりそうだ。再構成のイメージを固めるために、展示室をまわる。映像やインスタレーションによるヂョン・ヨンドゥ展を開催中であり、仮設壁や黒塗りなどで空間を厳密にコントロールし、部屋が普段とはかなり異なる印象になっていた。


「ヂョン・ヨンドゥ 地上の道のように」展示風景


「ヂョン・ヨンドゥ 地上の道のように」
会場:2014/11/8~2015/2/1

2014/12/20(土)(五十嵐太郎)

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伊東豊雄展 台中メトロポリタンオペラハウスの軌跡2005-2014

会期:2014/10/17~2015/12/20

TOTOギャラリー・間[東京都]

スタディ模型や1/1のモックアップなど、まさにアイデアから実現までのドキュメント展示である。これは間違いなく、伊東豊雄の新しい代表作になるだろう。ヘッド・マウント.ディスプレイによる擬似的な空間体験もいい。着工前と建設途中の二度、現場に訪れたことがあるので、余計すぐに完成した建築を見に行きたくなった。




展示風景


2014/12/19(金)(五十嵐太郎)

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