artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
アーク・ノヴァ
[宮城県]
空気膜による松島のモバイルシアター、アーク・ノヴァを訪問した。最初に磯崎新の家で見せてもらったとき、本当にできるのかとも思ったが、ついに実現している。空間のねじれと穴は、造形を担当した彫刻家アニッシュ・カプーアそのものだ。濃い赤色なので、内部に入ると、大きな臓器を想起させる。現代アートの作品の内部にまぎれ込んだような、不思議な空間の体験である。地元の子どもを招いてのコンサートに立ち会ったが、音楽が鳴り響くと、まさに空間が鼓動していた。
2013/10/09(水)(五十嵐太郎)
あいちトリエンナーレ2013 パブリック・プログラム イン・ディスカッション 藤村龍至/あいちプロジェクト 第5回最終発表
藤村龍至のあいちプロジェクトのパブリック・ミーティングの最終発表を聞く。さまざまな要素をどんどん蓄積するデザインは、東工大における相対主義的な建築の流れと同時に、こうあるべきだったポストモダンを想起させる。二者択一の投票形式は、一般人へのハードルを下げ、意見やコメントを集めるツールとしてうまく機能したと言える。ただ、途中の段階で、コメントを収集するシステムとしては見事だが、最後にどこかで流れを切断する「終わり」が訪れる。そのときの投票の意味をどう位置づけるかは課題かもしれない。この日も最終的に提示された二案は、それぞれに長所と短所があり、両者の融合がベストなのだが、投票する際は、どちらかを選ぶしかない。ちなみに、藤村の会場とした中央広小路ビルは、最もアートにふさわしくない場所だ。が、彼はいわゆる空間インスタレーションをしないだろうから、ここで依頼することになった。その結果、公開された設計作業の途中、来場者が意見を交わし、投票する新しい設計事務所の場がビルの一角に出現したのである。
2013/10/06(日)(五十嵐太郎)
Under 30 Architects exhibition 2013 30歳以下の若手建築家による建築の展覧会「U- 30 記念シンポジウムII」
会期:2013/09/28
アジア太平洋トレードセンター(ATC)ITM棟 11階特設会場[大阪府]
大阪のU-30の展覧会へ。今年は岩瀬諒子、塚越智之、杉山幸一郎、植美雪、小松一平の5組が出品したが、ATCにおけるU-30記念シンポジウムは、若手建築家のプレゼンテーションの後、上の世代から叩かれるのが毎年恒例になっている。この日は谷尻誠、平沼孝啓、藤本壮介、吉村靖孝がゲストに、五十嵐が司会となって討議を行なう。全体として建築への思いが足りないことを批判されつつも、U-30組から逆に上の世代はやり過ぎなんじゃないかといろいろな切り返しがあり、一方通行にならず、双方向の議論が実現した。
2013/09/28(土)(五十嵐太郎)
反重力 展
会期:2013/09/14~2013/12/24
豊田市美術館[愛知県]
豊田市美術館の「反重力」展が素晴らしかった。中村竜治は細いピアノ線で小さな円をつくって積み上げ、環状に並べ、大きな見えないリングを生みだし、ここでも驚異的なインスタレーションを実現している。宿命的に重力に縛られた建築側から興味深い、このテーマに即した作品群は、個人的に好みのものが多く、あいちトリエンナーレとセットで鑑賞するとより楽しめるのではないか。変動する現実を受けとめる「揺れる大地」と、ユートピア的な世界を感じさせる「反重力」は相互補完的に読みとれるだろう。
写真:上=中村竜治、下=中谷芙二子
2013/09/21(土)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス│2013年9月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
ヴィクトリア時代の室内装飾 -女性たちのユートピア-
本書では、人々が室内で表現した「くつろぎ」のかたちを図版豊富に展開します。その実例として、現存するヴィクトリアン・ハウス、雑誌『パンチ』の風刺画家L.サンボーン邸の紹介をはじめ、女性たちが趣味と心地よさの表現舞台とした「ドローイングルーム(英国固有の女性主体の部屋)」を中心に、当時続々と出版された雑誌等の指南書からキーアイテムを掲載します。その他、装飾材の主要アイテムだったタイル、同時代に活躍したウイリアム・モリスの壁紙からも当時の装飾デザインの動きを追います。また、使用人など別の立場からみた室内を分析する論考も必読です。
一気にものが溢れた時代を反映した「ヴィクトリアン・コンフォート」の空間へと読者を誘います。当時の絵本からの抜粋版ミニ絵本付き。
[LIXIL出版サイトより]
かじこ──旅する場所の108日間の記録
岡山県岡山市にて古民家を活用した108日間(2010年7月16日〜10月31日)実施されたアートスペース「かじこ」の記録集。かじこの機能や活動が、「システム」「メディア」「エッセイ」の章に分けて収録されている。巻末には、かじこに訪れた参加者たちが、3年前を振り返って綴った日記を収録。
現代建築家コンセプト・シリーズ16 中村竜治 コントロールされた線とされない線
日常の些細なものから建築に至るまでに生じている、コントロールされたものとされないものせめぎあい。中村竜治は、ものや空間を根源的に成立させているこの2つの作用に向き合い、デザインするとはどういうことかを考える。そうした視点からつくられた30あまりの作品──小作品、インスタレーション、展覧会会場構成、商業空間、住宅──は、線を面に、面を立体に、弱さを強さに変え、構造と仕上げの境界を自由に横断する。それはときに可視と不可視の領域も行き来しながら、見る者の常識を揺さぶり、私たちの日常への繊細な感覚と喜びを呼び覚ます。バイリンガル。
[LIXIL出版サイトより]
2013/09/17(火)(artscape編集部)