artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

あいちトリエンナーレ2013 パブリック・プログラム スポットライト「青木淳×杉戸洋(スパイダース)」

名古屋市美術館 2階講堂[愛知県]

名古屋市美術館にて、青木淳と杉戸洋のトークが行なわれた。青木は、モダニズムおける軸線の手法とポストモダンの断片化を、ミケランジェロとピラネージに対応させつつ説明し、今回のプロジェクトで名古屋市美術館の断片化された軸線を縫いなおすような試みを説明する。また初期案から最終案までの変遷も詳しく紹介した。2人の間で濃密なビジュアル・コミュニケーションを通じて、さまざまなツッコミと修正がなされ、単独名義ではなく、スパイダースという共同名義に至った理由がよくわかる。論理的で分析的な青木に対し、感覚的で天才的な杉戸。2階のカラフルな空間インスタレーションは、最後に現場でライブ的に決定したらしい。トークの後、オープンアーキテクチャーのチームに対し、2人が名古屋市美のガイドツアーを行なう。1階に3.11のメモリアル・スペースを制作したアルフレッド・ジャーは、吹き抜けに挿入された仮設の階段を「天国への階段」だねと言ったらしい。また市美の2つの軸線を延長すると、杉戸のアトリエや材料を購入したホームセンターを通るという興味深いエピソードなどもうかがうことができた。

2013/09/14(土)(五十嵐太郎)

菊竹清訓《スカイハウス》(1958)、磯崎新《新宿ホワイトハウス》(1957)

[東京都新宿区]

朝から打ち合わせ。すぐ近くの菊竹清訓の《スカイハウス》を久しぶりに外から見たが、塀が高くなり、あまりよく見えない。続いて、新宿へ。前衛芸術家たちが出入した磯崎新の処女作、《ホワイハウス》がカフェにリノベーションされたので、昼食をとりつつ見学した。これもスカイハウスと同様、1950年代末の建築である。しかし、磯崎らしいというよりも、増沢洵の最小限住居の空間構成などと似ており、50年代のモダン住宅という感じだ。

写真:上=《スカイハウス》、下=《新宿ホワイトハウス》

2013/09/13(金)(五十嵐太郎)

岡啓輔《蟻鱒鳶ル》

[東京都]

東京で久しぶりに岡啓輔と会い、彼がセルフビルドで建設している《蟻鱒鳶ル》の現場を見学した。70cmずつ段階的にコンクリートを打設し、すでに8年近くが経っている。ようやく地上2階まで完成し、あともうワンフロアだという。地下室も重機を使わず、ひとりで掘って施工した驚異的プロジェクトである。あちこちに身体性が刻まれた装飾とセルフビルドは、彼が関わってきた高山建築学校の精神と歴史が結晶化したものと言えるだろう。

2013/09/11(水)(五十嵐太郎)

「第1回 未来の風景をつくる 学生実施コンペ」最終審査会

会期:2013/09/07

株式会社マミヤ[愛知県]

名古屋から赤池へ。間宮晨一千が企画した「未来の風景をつくる学生実施コンペ」の最終審査会に出席した。現在、開発中の郊外の住宅地にまとめて隣接する3棟の家のあり方を東海圏の大学の研究室が提案するというもの。審査員は、間宮、原田真宏、藤村龍至、五十嵐である。17の大学研究室が模型とドローイングを展示し、午前に巡回審査をしてから投票を行なう。これだけ票が割れないのもめずらしいくらい、ほとんど全員一致で、すんなり6作品が決まる。午後は各研究室ごとに、プレゼンテーション、質疑応答、討議を繰り返し、じっくりと時間をかけて審査をした。最後は、どの案も一長一短があり、最優秀をひとつに絞るのは難航した。審議の結果、デザインはまだこなれていないが、ロジカルな初期条件の設定があり、失点が少ないことから、最優秀は名大の脇坂研に決定する。次点は、むしろ中間講評の低層案がよかったが、庭を共有する囲み型を評価された中部大の中村研。そして五十嵐賞は、のびしろを期待して、半地下的な空間をもつ家が連なる名城大の生田研とした。審査会場は、間宮が設計した新しい事務所ビルである。内外の印象の差が大きいため、ガワだけを残して、内部を入れ替えたリノベーションにも見える。

2013/09/07(土)(五十嵐太郎)

井口健、久米建築事務所《北海道百年記念塔》(1970)/佐藤武夫設計事務所(現・佐藤総合計画)《北海道開拓記念館》(1971)

[北海道]

《北海道百年記念塔》へ。開拓事業の一環となるコンペで井口健が選ばれ、1970年に竣工したものである。高さは100mだが、都心でもなんでもないこのエリアでは、とんでもない大きさのタワーで、遠く電車で移動中の線路の上からもよく見える。森林公園の水平の広がりと一点集中の垂直が対照的だ。モエレ沼公園にも通じる日本離れしたスケール感である。続いて佐藤武夫による《北海道開拓記念館》へ。これも煉瓦貼りながら、列柱が並ぶ巨大なモニュメンタル建築だ。屋上からは、遠くに札幌ドームも見える。展示は、先史時代、アイヌ、蝦夷、開拓、酪農と工業、そして戦後の高度成長と続くが、本州とは違う視点で、北海道という特殊名場から見た「日本」近代の歴史をたどることができる。

写真:上=《北海道百年記念塔》、下=《北海道開拓記念館》

2013/09/05(木)(五十嵐太郎)