artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

せんだいスクール・オブ・デザイン 2013年度春学期学内講評会

東北大学片平キャンパスKatahiraX[宮城県]

東北大学にて、せんだいスクール・オブ・デザインの学内発表会を行なう。今回の「演劇/ライブから考える」をテーマにした『S-meme』6号は、チラシの束が乱雑に束ねられたような装幀である。限られたコストで、なるべくカオティックに見せるためには、実はかなり周到に事前の設計が必要なのだが、表面的にはそうしたプロセスはあらわれない。見るものが、それを読み解けるか。またクリエイター・イン・レジデンスでは、スタジオ・ヴェロシティの《瞬間を閉じ込める椅子》を、受講生がどう制作したかのメイキングを詳しく紹介する。当然、タイトル通り、瞬間的にできるものではなく、かなり手がかかるものだ。この椅子は、あいちトリエンナーレにおいて、岡崎市のシビコ屋上で展示される。

2013/07/26(金)(五十嵐太郎)

あいち建築ガイド

発行所:美術出版社

発行日:2013年7月27日

あいちトリエンナーレ2013の公式ガイドブックには、ぽむ企画によるイラスト付き名古屋建築のエッセイを収録したが、これとは別に155件を紹介する『あいち建築ガイド』が刊行された。芸術祭に併せて、建築マップもつくるのは相当大変だったが、あいちならではの試みになった。トリエンナーレで155の作品が増えたと思って、街歩きを楽しんでもらうことが、制作の狙いである。以下に「あいち建築ガイド」の特徴を挙げよう。
第一に、愛知県全域からまんべんなくというよりは、名古屋の中心部と岡崎など、あいちトリエンナーレの会場周辺やオープンアーキテクチャーの物件絡みが詳しくなっていること。したがって、前回と今回の会場になっているまちなかのビル、アート関係の建築などを小まめに拾っている。まちなか展開の作品を巡るとき、この本も持っていると、まわりの一見普通に見えるビルも楽しむことができるだろう。とはいえ、もちろん豊田市美術館などの重要な建築は入っている。第二に、トリエンナーレが記憶をテーマにしていることから、すでに消えた建築も入っていること。例えば、先日見たらもう解体されていた大名古屋ビルヂング、旧国鉄名古屋駅などである。第三に、通常こうした建築ガイドにないインテリア物件も、MESHの会の協力で、多数紹介していること。第四に、東海テレビの街歩きで有名な高井一と五十嵐で建築散歩する対談を巻頭に収録しつつ、また渋ビル、地下街、劇場、結婚式教会、都市計画、ランドスケープなどのコラムを収録したこと。許可がもらえず、泣く泣く掲載できなかった物件も、こちらの文章で触れることになった。最後に本書の序文を引用しよう。トリエンナーレが終わっても、「建築は存在し続けている。まちなかはミュージアムなのだから。そう、建築を楽しめるスキルを身につけると、まちなかは終わらない展覧会として、いつも目の前に広がっている」。

2013/07/26(金)(五十嵐太郎)

「キングの塔」誕生!─神奈川県庁本庁舎とかながわの近代化遺産─/関東大震災と横浜─廃墟から復興まで─

[神奈川県]

「キングの塔」誕生!:神奈川県立歴史博物館(2013/7/20~9/16)/関東大震災と横浜:横浜都市発展記念館(2013/7/13~10/14)

神奈川県立歴史博物館の「『キングの塔』誕生!」展は、最初に来場者を出迎える修復された省庁の大きなシャンデリアが迫力。コンペ時の各案、図面、当時の内観写真、関連する同時代の建築など、見所が多い。愛知県庁舎と名古屋市庁舎の図面も紹介され、細かく意匠やプランを比較すると興味深い。続いて、横浜都市発展記念館の開館10周年特別展「関東大震災と横浜 廃墟から復興まで」へ。震災後のバラック、各地方の支援でつくられた居住施設も紹介されている。最も衝撃的だったのが、旧横浜正金銀行本店のまわりなど、黒こげになった屍体の山をたんたんと見せる、当時の廃墟の「映像」だった。

2013/07/20(土)(五十嵐太郎)

《横浜美術館》《カップヌードル・ミュージアム》《MARK IS みなとみらい》

[神奈川県]

横浜美術館のプーシキン美術館展とカップヌードル・ミュージアムをはしごする。続けて訪れると、前者の美術館よりも、後者のエントラスの巨大吹抜け空間の方が、テートモダンなどのスケール感を思いだし、皮肉なことに現代アート向けの場所のように見えてくる。ここに大型のインスタレーションが入ると、かなり見応えがありそうだ。また横浜美術館の向かいに完成したマークイズみなとみらい。雑踏のなかで、豊田啓介が率いるnoiz architectsによる紙のボロノイオブジェのインスタレーションを二カ所で発見した。台湾では高級ホテルなどの静かな環境で設置されていたが、ここだと柵が必要になる。

上:《カップヌードル・ミュージアム》
中:《MARK IS みなとみらい》
下:noiz architectsによる紙のボロノイオブジェ

2013/07/20(土)(五十嵐太郎)

カタログ&ブックス│2013年7月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

「内臓感覚─遠クテ近イ生ノ声」展カタログ

アートディレクション:豊永政史
発行日:2013年04月27日
発行所:赤々舎
サイズ:242×242mm、116頁
定価:2,940円(税込)

人間の諸感覚の中でもより原始的・根源的な「内臓感覚」を手がかりに、その内なる感覚に響き、語りかけ、新たな知覚の目覚めにつながる現代の表現を巡っていく展覧会「内臓感覚─遠クテ近イ生ノ声」。 その13組の出品作家の作品とテキスト、豊永政史によるアートディレクションで、内臓感覚を揺さぶる渾身の1冊が刊行されました。
金沢21世紀美術館サイトより]




前橋市における美術館構想 プレイベントの記録 2012・4-13・3

発行日:2013年03月31日
発行所:前橋市文化国際課芸術文化推進室/アーツ前橋
サイズ:182×257mm、96頁

2013年10月にオープンする群馬県前橋市の美術館「アーツ前橋」の準備のためにおこなった、約一年間の事業をまとめた一冊。ZINEをつくるアートスクールをはじめ、韓国人アーティストのペ・ヨンファンを招聘したアーティストインレジデンス、off-Nibrollを講師としたダンスワークショップ、数多くの地域アートプロジェクトなど、地域と芸術文化を結びつける実践が数多く紹介されている。


現代建築家コンセプ・トシリーズ15 菊地宏 バッソコンティヌオ 空間を支配する旋律

著者:菊地宏
発行日:2013年06月30日
発行所:LIXIL出版
サイズ:210×148mm、136頁
定価:1,890円(税込)

1972年生まれの菊地宏が建築を志した90年代から「白い建築」が注目を集めていた。建築が白ければ模型も白く、平面図では色を表現する余地がない。菊地には、建築をめぐるこの状況は、モードのうえにモードを重ね、より視野を狭めて進んでいるように思えた。なぜこれほどまでに建築は自由を奪われてしまったのか、白の呪縛から逃れ、豊かな空間をつくることができるのだろうか──。
菊地の設計活動は、こうした問いと向き合い、歴史や自然のなかに範を探していくものとなった。
空間の豊かさは、自然のリズムと協調することから生まれてくる。菊地は、環境、方角、季節、時間、光、色といった要素と人間をどのように結びつけられるかを丁寧に探り当てる。建築の最新モードから離れ、豊かな空間についてあらためてじっくりと考えるための一冊。
LIXIL出版サイトより]


リアル・アノニマスデザイン──ネットワーク時代の建築・デザイン・メディア

編著:岡田栄造・山崎泰寛・藤村龍至
サイズ:四六判、256頁
定価:2,310円(税込)

物と情報は溢れ、誰もがネットで自由に表現できる現在、建築家やデザイナーが「つくるべき」物とは何か。個性際立つ芸術作品?日常に馴染んだ実用品?その両方を同時に成し遂げたとされる20世紀の作家・柳宗理の言葉“アノニマスデザイン”を出発点に、32人のクリエイターが解釈を重ね、デザインの今日的役割を炙り出す。
学芸出版社サイトより]


Project ‘Mirrors’ 稲垣智子個展

編集:多田智美
発行日:2013年5月14日
発行:京都芸術センター
サイズ:A4判
価格:2,100円(税込)、500部限定

2013年2月5日〜26日に京都芸術センターで行われた「Project ‘Mirrors’ 稲垣智子個展」のカタログ。展覧会では、作家の稲垣自身がキュレーションした「beautiful sʌn」と批評家・高嶋慈がキュレーションした「はざまをひらく」という2つの個展が同時開催された。本カタログは、この2つの個展をもとに編集者・多田智美が制作したもので、それぞれの個展をまとめた2冊のビジュアルブックと、稲垣のインタビューと高嶋の批評テクストをまとめたテクストブック、計3冊をひとつの本に収めている。

2013/07/16(火)(artscape編集部)