artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

《那覇市新庁舎》《小禄南公民館・図書館》《浦添大公園・管理事務所》

[沖縄県]

沖縄で幾つかの建築をまわる。首里城付近では、新しい赤瓦のまちなみが増殖している。新しく登場した那覇市新庁舎は、今後、全体のフレームが緑に覆われていくだろう。県庁舎の展望台では、過去の庁舎の歴史が展示されていた。階段状のヴォリュームで四方から、真ん中の広場を囲む小禄南公民館・図書館が、個性あるよい建築だった。またファイブ・ディメンジョンが手がけた浦添大公園南エントランスの管理事務所は、赤瓦を使いながら、幾何学的な操作をメインとし、屋根も多面体の一部のようである。上からみると屋根が、第五のファサードとしてよく見える。赤瓦絶賛でもなく、反赤瓦でもなく、ジャンル映画のように、赤瓦を使いながら、新機軸のデザインを展開しているところが興味深い。
写真(上から):那覇市新庁舎、小禄南公民館・図書館、浦添大公園・管理事務所

2013/11/20(水)(五十嵐太郎)

陶器二三雄《文京区立森鴎外記念館》

[東京都]

竣工:2012年

陶器二三雄が設計した文京区の森鴎外記念館を訪れる。時間の変化に耐える大人の建築というのは、こういうものだろう。敷地には森鴎外が居をかまえる前からの銀杏の木を残し、時間を意識するのもうなずける。サンダーをかけたレンガの質感、わずかな傾斜で生まれる空間の動き、そして街並みのような雰囲気が心地よい。

2013/11/15(金)(五十嵐太郎)

カタログ&ブックス│2013年11月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

フランシス・アリス作品集「Don’t Cross the BridgeBefore You Get to the River 川に着く前に橋を渡るな」

著者:フランシス・アリス
論考:吉﨑和彦(東京都現代美術館)、神谷幸江(広島市現代美術館)
アートディクレクション:原田祐馬
発行日:2013年7月
発行所:青幻舎
サイズ:B5、124頁
定価:2,940円(税込)

フランシス・アリスの《橋》のプロジェクトから成る手記。移民問題を背景に、想像力をもって二つの大陸に橋を渡す試みを行った《橋》プロジェクト。メキシコ湾での《Bridge/Puente》、そしてアフリカとヨーロッパを隔てるジブラルタル海峡で行った大規模な新作プロジェクト《川に着く前に橋を渡るな》を収載。遠い地の社会的な問題さえ、誰もが共有できるものとして作品に昇華させる卓越した表現には、私たちの生きる社会の寓意が浮かび上がる。最新作品集、日本初刊行。
青幻舎サイトより]



SOU FUJIMOTO RECENT PROJECT

著者:藤本壮介
出版社:ADAエディタトーキョー (2013/9/26)
発売日:2013年09月26日
サイズ:30.5x25.8cm、192頁

「武蔵野美術大学 美術館・図書館」の完成から3年。今や国内だけに留まらず、「台湾タワー」や「サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン2013」の設計者に就任するなど、世界を舞台に活躍し始めた建築家・藤本壮介さんの最新プロジェクト集が遂に登場です。
GAサイトより]


ラッセンとは何だったのか? 消費とアートを越えた「先」

編著:原田裕規
執筆者:斎藤環、北澤憲昭、大野左紀子、千葉雅也、大山エンリコイサム、上田和彦、星野太、中ザワヒデキ、暮沢剛巳、土屋誠一、河原啓子、加島卓、櫻井拓、石岡良治
発行日:2013年6月25日
発行所:フィルムアート社
サイズ:四六判、268頁
定価:2,200円+税

バブル期以後、イルカやクジラをモチーフにしたリアリスティックな絵で一世を風靡したクリスチャン・ラッセン。その人気とは裏腹に、美術界ではこれまで一度として有効な分析の機会を与えられずに黙殺されてきた。
本書では、ラッセンを日本美術の分断の一つの象徴と捉え、徹底した作品分析と、日本における受容のかたちを明らかにしていく。
ラッセンについて考えることは、日本人とアートとの関係性を見詰め直し、現代美術の課題をあぶり出すことに他ならない。美術批評をはじめ、社会学、都市論、精神分析など多彩なフィールドに立つ論者15名による、初のクリスチャン・ラッセン論。
フィルムアート社サイトより]


ザ・ネイチャー・オブ・オーダー ─建築の美学と世界の本質─ 生命の現象

著者:クリストファー・アレグザンダー
監訳:中埜博
発行日:2013年09月30日
発行所:鹿島出版会
サイズ:B5判、490頁
定価:9,975円(税込)

アレグザンダーの積年のテーマである「名づけえぬ質=生き生きとしたパタン」からさらに展開し、「生命(Life)」や「全体性(Wholeness)とセンター(Center)」がキーワードとなり、環境の心地よさや美学、保存とその展開への実践が論じられる。図版600点強、490頁(B5判)の圧倒的なボリュームで構成。アレグザンダーの世界観を集大成した一冊。
鹿島出版会サイトより]

2013/11/15(金)(artscape編集部)

ホンマタカシ「Pinhole Revolution / Architecture」

会期:2013/09/19~2013/10/26

TARO NASU[東京都]

TARO NASUで、ホンマタカシ「PINHOLE REVOLUTION ARCHITECTURE」展を見る。丹下健三らの建築をピンホール・カメラに変えたビジネスホテルの部屋によって撮影する新作と、ル・コルビュジエなどの建築の窓ごしの風景写真を組み合わせたものだ。またギャラリーの空間ごとピンホール化し、道路向いの風景を部屋に転写した作品も興味深い。

2013/10/23(水)(五十嵐太郎)

ホンマタカシ「Pinhole Revolution / Architecture」

会期:2013/09/19~2013/10/26

TARO NASU[東京都]

以前、ホンマタカシのなかには「写真家」と「編集者」という二つの人格がせめぎ合っており、時にそのバランスが崩れることがあると指摘したことがある。その議論を踏まえれば、今回TARO NASUで展示された新作の「Pinhole」シリーズでは、うまくそのバランスがとれているのではないかと感じた。
ピンホール・カメラは言うまでもなく写真機の原型というべき装置である。写真の歴史は、壁に開けられた小さな穴から外界の姿を反対側の壁に逆向きに投影し、その形状を画家たちが筆でなぞることから開始された。さらに1970年代には、現代美術アーティストの山中信夫が、自室の壁に印画紙を貼り巡らせて撮影した「ピンホール・ルーム」のシリーズを発表しており、近年も宮本隆司や佐藤時啓がピンホール・カメラの原理を作品に適用している。ホンマの新作シリーズでは、そのような写真史的な事項を巧みに引用しつつも、実際にさまざまな部屋にピンホールを仕掛けて、撮影、プリントする作業を心から楽しんでいるように見える。「写真家」としてスリリングな画像の形成過程に立ち会うことの歓びが充分に伝わってきた。TARO NASUに併設するスペースtaimatzで、実際にピンホール写真を撮影し、その場にインタレーションするという試みも非常に興味深いものだった。
展覧会のプレスリリースに以下のようなことが書いてある。ピンホール・カメラの撮影では、被写体にピントを合わせたり、フレーミングしたりすることはない。だから「これらは、どちらも被写体の(あるいは撮影者の)主体性を極力取り除き、あるがままの姿を映し出そうとする試みです。そしてこの作品における『主体性の欠如』こそ、ホンマタカシ“独特”の写真世界を形成する主要素であるという二律背反が、ホンマの作品の世界をより奥深いものにしていくのです」。
これはまったく違っていると思う。「Pinhole」シリーズをやろうと決め、該博な写真史的な知識を駆使し、単純に壁に穴をあけて光を取り込むだけでなく、わざわざ「REVOLUTION」という文字を鏡文字にして配置し、ロバート・フランクの1978年の作品「Sick of Goodby’s」を引用する──これらの操作に、ホンマタカシの「主体性」はあざといほど強烈にあらわれている。それこそ、「編集者・ホンマタカシ」の面目躍如たる部分であり、彼自身、被写体の「あるがままの姿」を捉えようなどとはまるで思っていないはずだ。
なお「Pinhole」シリーズのほかに、2002年頃から建築物の窓からの眺めを撮影し続けている「Architectural Landscapes」のシリーズも展示してあった。確かに「Pinhole」シリーズとネガ/ポジの関係にあるシリーズと言えそうだが、むしろ狙いが拡散してしまうように感じられた。

写真:Pinhole Revolution/Architecture series
© Takashi Homma Courtesy of TARO NASU

2013/10/22(火)(飯沢耕太郎)