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日刊建設通信新聞社(編)『復刻 建築夜話 日本近代建築の記憶』

2010年05月15日号

発行所:日刊建設通信新聞社

発行日:2010年3月

貴重な本である。これは1960年代から70年に日本短波放送にて放送した建築家、歴史家、構造家らの対談シリーズを収録したものだ。現在、筆者も建築系ラジオという自主的なメディアを展開していることもあって、音声によるオーラルヒストリーの重要性とおもしろさを感じているだけに、本書の試みがいかに重要なのかがよくわかる。丹下健三、アントニン・レーモンド、村野藤吾、内藤多仲、藤島亥治郎らに対し、若い作家や彫刻家らが聞き役となり、建築についての想いが率直に語られる。やはり、ここには書き言葉とは違う、生々しい言葉がある。公式な歴史に記録されないような、ささいなエピソードもおもしろい。もっとも、これは専門家同士の難しい対談でもない。相手が建築の専門でない場合、さらにわかりやすい言葉が選ばれている。欲を言えば、音声データが入ったCDを付けるか、一部だけでもウェブから聴けるようになっていれば、もっと良かったのだが。

2010/04/30(金)(五十嵐太郎)

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