artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
卒業設計日本一展2009
会期:2009/09/12~2009/09/26
ギャラリー間[東京都]
「せんだいデザインリーグ 卒業設計日本一決定戦 2009」に出展された全国527作品のうち、ベスト5となった卒業設計作品が展示されていた(上階には別作品も)。審査の過程は、出展できなかった幻の作品「オノマトペ」(菊地尊也)[東北大学]の存在も含め、さまざまに話題になったので、ここで個々の作品評についての繰り返しはできるだけ避けたいが、いくつかのレポートと本展覧会を見て、本年度の審査の軸を二つあぶり出してみたい。ひとつは破壊力/完成度の軸(X)であり、もうひとつは私性/社会性(Y)の軸である。この二つの軸は、相関関係がないわけではなく、破壊力と私性は関連し(第I象限)、完成度と社会性(第III象限)は関連するはずである。そして、このいずれかの象限にあるものは一貫性のため最終的に評価が高まり、そうでない象限(第II象限、第IV象限)にあるものは結局作品としてのバランス感が保てず、特別賞に落ち着いたというのが、事後的に見た筆者の推測と仮説である。
日本一の『Re: edit... Characteristic Puzzle』(石黒卓)[北海道大学]は、完成度と社会性の高い第III象限(端)の作品である。原点からの距離に加え、バランス性が得点を加算した。日本二の『触れたい都市』(千葉美幸)[京都大学]は、破壊力と私性の高い第I象限(端)の作品。日本一となる可能性もあったであろうが、審査員のバランスによって、結果日本二となった。日本三の『THICKNESS WALL』(卯月裕貴)[東京理科大学]は、同じく破壊力と特に私性の高い第I象限(中上)の作品。千葉の作品と同じ象限だったため日本三に。ただし、ギャラ間での展示は、巨大模型が追加されていたようで、迫力があって個人的に好印象だった。特別賞の『下宿都市』(池田隆志)[京都大学]は、完成度にやや傾いた私性の高い第II象限(Y軸正付近)の作品。バランス上、特別賞に。実はこの作品で気になったのは、ローマ都市中心の十字路(カルドとデクマヌス)のように、縦横に横断する軸があったことで、そのことがやや古典的な感じを生んでいた。同じく特別賞の『キラキラ──わたしにとっての自然』(大野麻衣)[法政大学]は、一番微妙で、完成度と破壊力が同居し、私性をむしろ社会性に裏返したような印象の、あえていえば第IV象限(破壊力×社会性)の作品で、位置づけにくいけれども、そもそもこういう軸設定そのものを再考させるような作品のような気がした。難波氏と五十嵐氏が別の理由で同作品を押したというのも、こういうねじれた方向性を持っていたからかもしれない。なお、第II象限と第IV象限は、これから新しいタイプの作品を生み出す可能性があるのではと感じている。
2009/09/11(金)(松田達)
TOKYO PHOTO 2009
会期:2009/09/04~2009/09/06
ベルサール六本木1F・BF[東京都]
日本初の国際フォトアートイベント。アートフェアの写真版とも言える、写真作品や写真集の販売を目的とする展示会。ベルサール六本木の地下で開かれ、1階では「PHOTO AMERICA」展が同時開催されていた。写真について、筆者は専門外であるので、建築家の山口誠による空間デザインについて触れたい。1階は低めの白い壁が中央に田の字に配置されており、自然光が空間全体に行き渡るよう考慮されていた。メイン会場である地階は、白と黒の壁が交互に配置され、光のコントラストを表現していた。山口氏は写真にとってもっとも本質的な要素である「光」をテーマにしたという。大空間は、平行に並ぶ、高さ3.6mの壁によって短冊上に区切られる。一筆書きの動線は会場を一周するあいだにすべてのブースに接するが、動線は少しずつ左右に振れながら進むので、むしろ動線をめぐる観客をブースに振り落とすことになる。よって観客は無意識の内にさまざまなブースを見るように設計されている。またそれぞれのブースは白壁か黒壁を与えられ、高さのある壁によって雑多になりがちなアートフェアにおいて、展示物がゆったりと並べられている印象がつくられていた。また壁の隙間から、瞬間的にかなり奥まで見えるよう、壁の配置が計算されていた。
一階と地階のプランニングを見て、山口氏の処女作である《中山の住宅》のプランニングを思い出した。そこではまっすぐに抜ける中央の土間が複数の空間を横断していたのであるが、今回のプランニングはその発展系とも思えた。書き割り的プランであり、一見まっすぐな動線は見えないのであるが、会場のある位置からは最奥まで見通すことのできる視点が確保されていた。
展覧会URL:http://www.tokyophoto.org/
写真提供:山口誠デザイン
2009/09/04(金)(松田達)
企画展 建築のちから02「20XXの建築原理へ」
会期:2009/09/24~2009/10/10
まさに建築最前線ではないか。伊東豊雄が選んだ建築家と構造家(藤本壮介、平田晃久、佐藤淳)が、東京都心部で架空の再開発プロジェクトを行なうという。おそらく、相当の自由度を与えられたときに、建築はいかに進化するのかということをシミュレートした、非常に実験的なプロジェクトだといえよう。内容は現段階でかなり謎めいており、まだ4枚の画像しか公開されていないようである。多くの展覧会は、最初にある程度誰がどのプロジェクトを展示するのか分かっていたり、またあらかじめプロジェクトの内容も知られていたりする場合が多いが、この展覧会ほど事前の情報が明らかにされていないものも珍しいかもしれない。同名の書籍『20XXの建築原理へ』も「建築のちから」シリーズとして発売予定であるという。編集は、若手建築ユニットのmosaki(大西正紀+田中元子)。
2009/08/31(月)(松田達)
「Detour」(デトゥア)
会期:2009/10/16~2009/11/04
MoMA Design Store[東京都]
世界的に活躍するさまざまな分野の作家が使用したモレスキンのノートブックを展示する展覧会。東京展にあわせ、建築では、青木淳、伊東豊雄、隈研吾、妹島和世、西沢立衛、森俊子らが、他の分野では、深澤直人、押井守、ホンマタカシ、原研哉ら多数が参加するという。少なくとも建築においては、制作の過程を、ましてや建築家の手帳の中身を見ることのできる機会はなかなかないので、貴重な展覧会ではないだろうか。
2009/08/31(月)(松田達)
隈 研吾展 Studies in Organic
会期:2009/10/15~2009/12/19
ギャラリー・間[東京都]
隈研吾の本格的な展覧会が久々に日本で開かれる。国内では、2004年に松屋銀座で「隈研吾・負ける建築」展が行なわれ、また2005年にGAギャラリーで「隈研吾展──モックアップス」が開かれたが、それから約5年。海外のコンペでも複数勝利し、いまや国内外でプロジェクトを抱え、疾走し続ける隈の、最新の状況を見ることができる展覧会となるだろう。今回のテーマは「有機的」ということらしい。「負ける建築」から「有機的な建築」へ。また隈が新しいキーワードを打ち出した。おそらく、そこには深い戦略と建築への思考が潜んでいるに違いない。考えてみると、これまでも隈は数々のキーワードで自作を説明してきた。「消える建築」「粒子化する建築」「負ける建築」「自然な建築」、そして今回の「有機的な建築」である。会場には、海外のビッグプロジェクト「ブザンソン芸術文化センター」「グラナダ・パフォーミング・アーツ・センター」の、なんと1/25という巨大模型が現われるというので、展示そのものも注目される。考えてみれば、ギャラリー・間では、1995年に「隈研吾展──建築 転送の速度」が開かれており、それから実に14年ぶりの展覧会である。建築的な展開だけでなく、つねに理論的な前進を遂げる、隈のこれまでの軌跡とこれからの方向性を確認できる展覧会として、ぜひ注目したい。
2009/08/31(月)(松田達)