artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
The Horizon
会期:2009/10/10~2009/10/18
ASPHODEL 1F-3F(京都市東山区八坂新地末吉町99-10)[京都府]
京都大学高松伸研究室による展覧会で、2002年から開かれ今回で6回目。場所は梅林克氏設計のASPHODELというギャラリー内。卒業設計日本一展に出展された作品を中心に、学部生の作品が並ぶ。鉛筆による精密なドローイングにはじまり、一回生から四回生までの建築を学ぶ軌跡も見えてくる。ジャン・ヌーヴェル張りの濃密な黒の図面空間は、日本の建築メディアで一種の主流とされているだろう「白い建築」とは一線を画する。学生がつけたという「The Horizon」という今年のタイトルが気になった。梅林氏、研究室の学生らとの対話の場で(今回、「建築の地平」というテーマで、展覧会をめぐり建築系ラジオの公開収録討議が開かれた)、学生側からは「根源」を目指すのだというコンセプトが聞けたし、それは何か論理の不可能性を示す地点=「神」なるものを建築に降臨させることのようにも解釈できた。あるいは、梅林氏の言うように「密教の行」的な方法論ではじめてたどり着く地点なのかもしれない。いずれにせよ、それらは建築をつくるための「論理を超えた」方法論を示唆しているように思われ、興味深かった。
展覧会URL:http://www.archi.kyoto-u.ac.jp/~takamatsu-lab/exhibition/horizon/index.html
2009/10/11(日)(松田達)
Masahiro Ikeda School of Architecture/MISA
[東京都]
展覧会ではないが、注目すべき出来事として紹介したい。構造家の池田昌弘が学長となって、元新建築編集者の佐藤勤とともに、次世代の構造設計のスペシャリストを育成するための学校を開校する。2年制の本科と1年制の専科からなり、大学や実務では学ぶことのできない、建築設計・構造設計者が必要とする力を養うという。募集は10月1日からはじまっており、2010年4月に開校予定。講師は建築界の第一線で活躍する建築家・構造家・批評家らであり、池田氏自身も教壇に立つという。カリキュラムはレクチャー中心の講義科目(思想・理論・設計)と実務演習(I、II、III)に分けられる。
構造家養成専門の学校というのは、おそらく日本ではじめてのタイプの試みではないか。また学校でありながら、一級建築士事務所登録をしているという点も特記すべきかもしれない。建築士法改正後、資格取得に時間がかかるという問題は大きい。大学を卒業後に、実務経験をとるか、さらに学ぶかという選択肢は、誰もが考えるところであろうが、MISAでは、実務実習が建築士試験の受験資格要件の実務経験に該当するということで、学びながら実務経験を得ることができる。ある意味「設計事務所の大学化」がなされているのだともいえ、今後の建築実務と建築教育のバランスを考える上でも、重要な試みとなるのではないか。来年以降の展開がどうなるのか、期待を持って注目したい。
URL:http://www.ikedaatelier.com/misa.html
2009/09/30(水)(松田達)
伊東豊雄+藤本壮介+平田晃久+佐藤淳『20XXの建築原理へ』
発行所:INAX出版
発行日:2009年9月30日
伊東豊雄と3人の若手建築家・構造家による、都心再開発の架空プロジェクトのドキュメント。藤本壮介、平田晃久、佐藤淳が、2008年から複数回の研究会を重ね、青山病院跡地に未来の巨大建築を描き出す。敷地は約100メートル四方の巨大なもの。伊東のディレクションで、新しい高層建築のタイプを探求する方向へと研究会は向かう。研究会の成果をプレゼンテーションし、最終講評会には山本理顕、藤森照信も加わった。本書の出版にあわせ、INAX:GINZA7Fクリエイティブ・スペースでは、同名の展覧会が開催された(2009年9月24日から2009年10月10日)。またmosakiの大西正紀と田中元子が編集を協力している。
さて、「20XXの建築原理へ」と題されたこの架空プロジェクト、想像以上にスリリングなスタディとその変遷が興味深かった。平田と藤本の両者が「巨木」や「樹状のもの」にともに関心を持っていたことから、途中までは二人の方向性はある種似ていたが、最終段階で方向性が分かれる。平田は襞状の空間性により注目し、5つの「樹木性Tree-ness」の性質を持つTree-ness Cityを提案。いわば「樹木としての都市」である。そして根-枝-葉というように、繋がっているけれども見た目が異なるような複数のシステムを接合して、いったいであるけれども複数のシステムが混在しているような建築を目指す。一方、藤本は、「樹木」とともに途中から浮かび続けていた「山」のイメージへと舵を取り、「山的なる都市」を提案。この背景には、水田などが雪で覆われたときに、どこでも歩ける「面としての道」が立ち現われたという、藤本の空間移動感覚の原体験があったという。空間での「体験」を重視するため、システムやルールといったものにしばられない何かを目指し、建築と対極にあるものを目指したという。あえていえば、平田が「建築」指向、藤本が「空間」指向とでもいえようか。しかし単純な対立ではなく、そういった違いをすべて包摂しながら最後に現われてくるような、指向の違いであろう。新しい建築原理の萌芽を見るような刺激的なプロジェクトだった。
2009/09/30(水)(松田達)
Twitterなどソーシャル系サイト利用の普及
Twitterがサービスを開始したのは2006年7月。140字という字数制限(アルファベットでも日本語でも同じく)をもつミニブログで、参加者同士がフォロー、被フォローの関係を自由に取り合う。ブログやSNSに比べて更新が手軽であることから爆発的に普及し、日本でも急速にユーザーが増え始めた。建築関係者においても特に2009年に飛躍的に利用者が増えたといえ、利用する建築家、批評家、編集者、ライターらも続出している。特にarchitecturephoto.netは、関係者らをつなげる中心的な役割を果たしつつある。Twitterの普及に限らず、Tumblrの出現、mixiに続いてFacebookがSNSとして日本でも利用者を増やすなど、2009年はネット上のメディアに激変が訪れているといえる。特にTwitterによるコミュニケーションは、字数制限もあって、リアルタイムに近いことから(微同期メディアと呼ぶ人もいた)、個々人のコミュニケーションのあり方に変化が訪れたとしてもおかしくはない。これまでメールで書いていたようなことを、公開のままやり取りするという状況も発生しており、より情報交換がオープンになっていることを感じる。このようなソーシャル系サイトの普及が、今後の建築界にどのような影響を与えるのか、まだまったく予測がつかないが、新しいコミュニケーションのあり方が生まれようとしていると言えるのではないか。
URL:http://twitter.com/
2009/09/30(水)(松田達)
山本兼一『火天の城』
発行所:文藝春秋
発行日:2007年6月10日
9月に公開された同名映画の原作である。織田信長の安土城の建設をめぐって、大工棟梁の視点から描いた時代小説。父と息子の物語になっているところなどは、中世のヨーロッパを舞台にしたケン・フォレットの『大聖堂』をほうふつさせる。現存しないために、さまざまな復元案があるのだが、巨大な吹抜け案なども、コンペの対案として紹介しているのは興味深い。宣教師を経由したヨーロッパの影響なども示唆している。建築界では重源が好まれ、彼を主人公にした小説も書かれているが、なるほど、安土城はエキセントリックな施主との関係もあってエンターテイメント性が高い。なお、映画では息子の代わりに福田沙紀演じる娘が登場するなど、さまざまな変更があり、その比較も楽しめる。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)