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建築に関するレビュー/プレビュー

越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭2009 感想3

会期:2009/07/26~2009/09/13

越後妻有地域[新潟県十日町市,津南町] 760km2[新潟県]

【感想3】先の二つの感想をふまえたうえで、アートと建築の境界線を考えるのに、これほど絶好の芸術祭はないだろうと思われた。いや、むしろアートと建築がスリリングにその境界を横断しつつあるのがこのトリエンナーレではないかと思った。ハーマン・マイヤー・ノイシュタットの《WD スパイラル・パートIII マジック・シアター》や國安孝昌の《棚守る竜神の塔》は、アーティストによる作品であるが、むしろ建築として面白かったし、多くの民家再生プロジェクトは、やはり建築的なプロジェクトである。一方、山本想太郎の《建具ノニワ》や東京都市大学手塚貴晴研究室+彦坂尚嘉の《黎の家》は(後者はその手塚研究室による制作部分であるが)、前者はアイゼンマン的な斜線を取り入れた点において、後者は鍋の集合や墨の色を用いた点において、それぞれの建築家の建築におけるこれまで手法とは異なった視覚言語が現われてきており、アートが建築を拡張させているような印象を受けた。
いずれにしても、考えさせられることの多い、多様な人が多様な問題系を発見する、膨大な可能性を持った芸術祭であると思った。なお、この越後妻有トリエンナーレの作品や具体的なコメントなどを、建築系ラジオにて多く収録した。数多くの興味深い議論が生まれたので、ご参照頂ければ幸いである。
建築系ラジオ(カテゴリー:ET-越後妻有アートトリエンナーレ)

2009/08/09(日)(松田達)

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越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭2009 感想2

会期:2009/07/26~2009/09/13

越後妻有地域[新潟県十日町市,津南町] 760km2[新潟県]

【感想2】筆者は建築の設計をやっているので、必然的に建築系の作品が気になった。トリエンナーレは2000年にはじまり今回で4回目を数えるが、建築の作品を見ていると予算の問題が気になった。おそらく、作品を同列に並べて比較することが難しい状況が発生しているように思われた。建築だけに限らない問題だろうが、過去に複数回出品している作家の場合、今年の作品にかけられたコストが、おそらく例年に比べてかなり低いだろうことは容易に推測できた。もちろん、だからといって出品作家がそれを言い訳にできるわけではないはずだが(建築では特に、予算という条件のもと何ができるかが問われる)、公募に出し、予算を与えられ、作品をつくるというプロセスを考えた場合、おそらく今年出品した作家は、経済的に不利な条件があっただろうことは念頭においておくべきだろう。

2009/08/09(日)(松田達)

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越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭2009 感想1

会期:2009/07/26~2009/09/13

越後妻有地域[新潟県十日町市,津南町] 760km2[新潟県]

はじめて訪れた。出典作家のひとりである彦坂尚嘉がディレクターをつとめるアート・スタディーズと、建築系ラジオメンバーによる合同ツアー企画があり、4日間かけて現地をまわった。それでも約370点を数える作品のうち、ごく一部しか見ていない。よって客観的なレビューにはならないが、はじめて現地を回った個人の感想として、三つほど書き残しておきたい。
【感想1】ガイドブックを持って、広大な現地を「探索」する。何よりこの感覚。20人近くの参加者は、途中複雑に分裂と合流を繰り返しながら、4台の車に分かれて移動し、現地を回った。アートを見るということ以上に、どういう回り方をしても、越後妻有の自然環境のさまざまな場面に出会うことになる。大雨にもあった。虫にもさされた。しかしよい作品を展示し見るということ以上に、こういう体験をすることこそがこのトリエンナーレの目的なのだろうから、すっかりこの大地の芸術祭の本質を味わってきたといえるだろう。

2009/08/09(日)(松田達)

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『ka 華』33号

東工大が制作している建築学科の年報である。現在、いろいろな大学でこうした年報を制作するようになった。個性という点では東京芸大の『空間』も興味深いが、内容の密度では、おそらくこれにまさるものはないだろう。一年間の各課題の紹介とレビューはもちろん、茶谷正洋先生の巻頭記事、ニュース・投稿、そして特集「太陽と建築」まである(ときどき英文サマリーも)。毎号毎号、総力戦による充実ぶりには、頭が下がる思いだ。博士課程の学生が中心になって編集したようだが、学生の層の厚さを感じさせる。筆者も東北大にて『トンチク』を制作しているが、最初に考えたのは、簡単に『ka』を越えることはできないから、まったく違うスタイルをとることだった。予算がほとんどないなかで、いかに仕事量を減らしながら、最大限の効果を生むか、である。つまり、『ka』は建築系の大学の年報にとって指標というべき存在になっている。

2009/07/31(金)(五十嵐太郎)

藤森照信『21世紀建築魂』

発行所:INAX出版

発行日:2009年6月30日

なんとも力強いシリーズの登場だ。大御所による若手建築家とのコラボレーション企画によって21世紀の建築のあり方を占う。その第一弾となる本書では、藤森がアトリエ・ワン、阿部仁史、五十嵐淳、三分一博志、手塚建築研究所らと対談しているが、彼らはいずれも有名かつ人気の布陣である。藤森らしさがもっともよく出ているのは、大工であり、ダンサーでもある岡啓輔の起用だろう。2003年のSDレビューで藤森が彼の70cmずつコンクリートを打設する住宅のセルフ・ビルドのプロジェクトを選んだときも、なるほどと思ったのだが、今回はじっくりと二人の体感的な建築論の会話が楽しめる。

2009/07/31(金)(五十嵐太郎)