artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

浜寺の家 住宅完成見学会+小さな作品展

会期:2009/08/29~2009/09/06

浜寺の家[大阪府]

建築家の中尾彰良が設計した個人宅が、堺市の閑静な住宅街に完成、お披露目会が催された。ユニークなのはその内容。邸内に10人の作家による絵画、家具、絵本、詩などが配置され、住宅展示会+展覧会として公開されたのだ。ちなみに作品は施主のコレクションでも中尾のコレクションでもなく、この催しのために集められたとのこと。他人の家を覗くのは興味深いものだが、建築家が設計した建物ならなおさらだ。テレビ番組の渡辺篤史の気持ちになって、隅々まで舐めるように観察させてもらった。しかも美術展まで行なわれているのだから、その面白さは何倍にも膨らむ。他の建築家も同様の催しを行なっているのだろうか。だとしたら、今後もどんどん出かけたいものだ。

2009/08/29(土)(小吹隆文)

建築以前・建築以後 展 余談

会期:2009/08/01~2009/08/29

小山登美夫ギャラリー 7F[東京都]

SANAA(妹島和世+西沢立衛)の「スイス連邦工科大学ローザンヌ校ロレックス・ラーニング・センター」を見たとき、一緒にいた学生の反応が象徴的だった。SANAAがほとんど誰かも知らなかったようであるが、「自分が最近見ている作品に似ている(から特に新しく思えなかった)」と言うのだ。その背景には、SANAAの表面的な模倣をしている学生が、特に多く現われてきており、しかもそれも第一世代ではなく、模倣を模倣している次の世代が現われてきているのかもしれない。おそらく、彼はそこでそれらすべてのオリジナルを見ているのだということに気付いていなかった。そもそもオリジナルとしてのSANAAのプロジェクトは、やはりコピーとまったく違う強度を持っていると、少なくとも筆者は感じたし、そのことに本来気付くべきだと思う。つまりオリジナルとは模倣できないものなのだというところを見るべきなのである。レム・コールハース/OMAの場合も、80年代末以降、多くの追随者が現われた。コールハースの場合、コピーのコピーは、オリジナルとまったく異なるものになっていたと言えるだろうし、真似したいのならコールハース本人を追いかける必要があるように思われる。しかしSANAAの場合、おそらくコピーを繰り返してもSANAA風になってしまう。そこがSANAAの感染力の強さであるし、コールハースの場合のオリジナルとコピーの問題系とは違う問題を提起しているように思われた。

2009/08/28(金)(松田達)

建築以前・建築以後 展

会期:2009/08/01~2009/08/29

小山登美夫ギャラリー 7F[東京都]

清澄白河の巨大倉庫の中にいくつかのギャラリーが移転した。そのうちのひとつ小山登美夫ギャラリーで開かれた「建築以前・建築以後 展」では、菊竹清訓、伊東豊雄、妹島和世、西沢立衛、SANAAによる、過去の未完プロジェクトや、現在進行中のプロジェクトなどが紹介された。菊竹の一連の「海上都市プロジェクト」、伊東のオスロの「ダイクマン中央図書館」コンペ案、妹島の「犬島アートプロジェクト」、西沢の「ガーデンアンドハウス」と「t-project」、そしてSANAA(妹島和世+西沢立衛)の「スイス連邦工科大学ローザンヌ校ロレックス・ラーニング・センター」がそれぞれ展示されていた。作品の共通点は、タイトルや鈴木布美子によるキュレーションの意図が示すように、すべて〈未だ建築にならざるもの〉である点であり、本展覧会ではその表象の可能性の多様性が追求されたという。しかしそれと同時に、またそれ以上に、この展覧会から感じたのは、日本建築における「系譜」の強力さである。菊竹、伊東、妹島、西沢(立衛)という流れは、ご存知のように連綿と続く師匠─弟子関係でもある。もちろん、それぞれの弟子はひとりではないのだから、ほかにも「系譜」は描けるはずであるが、この流れは建築界の誰もが「直系」であると認めよう。そう思ってみていくと、菊竹の海上都市プロジェクトにおけるゆるやかなカーブが、西沢の描く曲線にまで、つまり1950年代からゼロ年代まで半世紀をかけて、進化しながら受け継がれているかのようにも見えてくる。ひとつの流れに属する複数の世代の建築家に、それぞれの共通点と変化を見ることができ、興味深い展覧会だった。なお隣の小部屋で、それぞれのプロジェクトに関するいくつかの映像を見ることができ、特に竣工当時のスカイハウスの映像を見ることができたのは貴重だった。

2009/08/28(金)(松田達)

「骨」展

会期:2009/05/29~2009/08/30

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

デザインの根幹を骨格から捉え直しながら、未来のデザインを探索しようとする展覧会。会場は、生物や工業製品の骨を写真や分解模型などで展示する「標本室」と、未来の骨について思考するきっかけを与える制作物を展示した「実験室」の二つのパートからなる。展覧会ディレクターは山中俊治、会場構成はトラフ建築設計事務所。生物と工業製品を、同じ視点で捉えていくことによってデザインを考えていこうという視点が面白い。筆者は運良く山中氏によるツアーに参加することができた。「ダチョウの骨のひざに見える部分は実はかかとである」「亀の甲羅は背骨と肋骨があわさったものである」など、意外な事実の説明などを受け、骨から見える新しい視点の可能性を知る。「実験室」では、エルネスト・ネト、明和電気、THA/中村勇大など、多様な作家の作品が展示。どれも興味深かった。特に、慶応義塾大学山中俊治研究室による「Flagella」は、硬質な骨自体がクネクネと動いているように見える未来の骨的なオブジェクトが印象に残った。

2009/08/26(水)(松田達)

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NEOREAL「パワープロジェクターが創造する新たな映像表現の世界」

会期:2009/08/27~2009/08/29

東京ミッドタウン[東京都]

キヤノン株式会社が2009年のミラノサローネで発表した「NEOREAL」展が東京にて再現された。期間は三日のみ。三部構成の体験型展示のうち、目玉は平田晃久(建築家)と松尾高弘(インタラクティブ・アーティスト)によるコラボレーション作品。平田による空間構成は、「animated knot」と名付けられた、結び目の幾何学によって生まれる有機的な三次元空間。半円形が上下に複雑に絡み合うように組み合わされ、伸縮性の膜が張られることで襞的な連続空間が生成されていた。松尾による「Aquatic Colors」と題された作品では、クラゲなどの映像が壁面に投影され、それらは触れると反応してインタラクティブに動いた。実際にはミラノサローネでの展示から、全体の形態を変えて再構成したものであったという。巨大で複雑な構築物のようでありつつ、柔軟に外形にあわせて変形できるところは、空間原理の強度が示されていたように思えた。シンプルな原理が生み出す官能的な空間体験だった。

2009/08/26(水)(松田達)