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建築に関するレビュー/プレビュー

田根剛「未来の記憶 Archaeology of the Future─Digging & Building」/田根剛「未来の記憶 Archaeology of the Future─Search & Research」

「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Search & Research」
会期:2018/10/18〜2018/12/23
TOTOギャラリー・間[東京都]

「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」
会期:2018/10/19〜2018/12/24
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

現在、もっともメディアに注目されている若手建築家の個展が開催された。しかも、ギャラリー間と東京オペラシティ アートギャラリーの2カ所で同時開催というのは、巨匠ですら過去に例がない。なるほど、コンペで勝利した巨大なプロジェクトであるエストニアの国立博物館をすでに実現しているが(あまり訪れない国であり、筆者も未見)、日本国内ではまだ大型の建築を実現していないことを考慮すれば、彼に対する期待の高さがうかがえるだろう(パリに事務所を構えているため、外タレ枠なのかもしれない)。さらに今回は、2カ所の展覧会を同じタイトルで揃えている。

せっかくなので、同日に2会場をまわることにした。ギャラリー間の「未来の記憶」展では、本人が自ら考古学の比喩を使っているように、3階の会場の内外に博物館の収蔵庫を想起させるような棚がずらりと並ぶ。そこにところ狭しと設置されているのは、大量のスタディ模型やアイデアのもとである。2会場を同時に埋めるのだから、さすがに展示の密度が薄くなるのでは? という懸念は、杞憂に終わった。なお、田根が参照する建築外のイメージ群は、いまどきのものというよりも、筆者の世代には懐かしい感じがある。そして床に座ることができる4階では、一転して大きな映像で各作品を紹介する。

続けて東京オペラシティ アートギャラリーへ。大空間を生かして、まず古材のインスタレーションが出迎え、次に驚異の部屋のごとく、壁や床を埋め尽くした参照イメージの宇宙が広がる。そして映像の部屋を挟み、大型の模型によって、新国立競技場のコンペ案である「古墳スタジアム」や「(仮称)弘前市芸術文化施設」のコンペ勝利案など、7つの彼の主要作を紹介する。とくに軍用滑走路の跡地である記憶を継承した《エストニア国立博物館》の巨大な模型は、空間インスタレーションの規模をもつ。なお、展示の白眉としては、藤井光が撮影した《エストニア国立博物館》のドキュメント映像が挙げられる。これが美術空間に緊張感を与えていた。

TOTOギャラリー・間、3階会場


TOTOギャラリー・間、3階会場


TOTOギャラリー・間、3階会場(屋外)


東京オペラシティ アートギャラリー、古材のインスタレーション


東京オペラシティ アートギャラリー、「記憶の発掘」


東京オペラシティ アートギャラリー、《エストニア国立博物館》模型

2018/11/24(土)(五十嵐太郎)

田根剛 未来の記憶

会期:2018/10/19~2018/12/24

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

田根剛という建築家の名前を知っている人は少ないだろう。ぼくも2年前の「ポンピドゥーセンター展」の会場構成で初めて知ったばかり。代表作はエストニア国立博物館というから、おいそれと見に行くわけにもいかない。こういう場合、やはり建築展というのは便利だ。タイトルは「未来の記憶」という逆説的なものだが、これは「場所の記憶を掘り起こすことで建築は生まれる」という彼の信念を表している。英語だと「Archaeology of the Future(未来の考古学)」だが、後ろに「Digging & Building」がつく。こっちのほうが伝わりやすい。田根によれば掘り起こすのは「場所の記憶」だが、そもそも建築を建てようとすれば地面を掘らなければならないし、また、建築を空高く建てるだけでなく、大地を掘って建築を埋めることも考えるべきだろう。つまり男性原理(build)に従うだけでなく、女性原理(dig)を採り込もうということではないか。
会場に入ると、材木やレンガ片など廃材が積み上げられている。ちょっと“もの派”っぽいが、ここでは材質の記憶を強調しているのだろうか。次の大空間は床や壁に何千という画像がびっしりと貼られているのだが、デタラメに並んでいるのではなく、「IMPACT(衝撃はもっとも強い記憶である)」「TRACE(記憶は発掘される)」「COMPLEXITY(複雑性に記憶はない)」「SYMBOL(象徴は記憶の原点である)」といったテーマごとに分類されている。いわば「記憶の博物館」、あるいは「イメージの宇宙誌」。

建築の紹介が始まるのは後半になってから。エストニア国立博物館、新国立競技場、弘前市芸術文化施設、10 kyotoなど、7つの建築プロジェクトの模型や資料が並んでいる。デビュー作にして代表作のエストニア国立博物館は、旧ソ連の軍用滑走路を延長してその下に施設を埋めた構造で、細長く平べったい。もちろんこれは場所の記憶を掘り起こすことで導き出した建築だが、正確にいえばこの設計を通して「場所の記憶を掘り起こす」というコンセプトが固まってきたという。個人的に好きなのは新国立競技場案。これは古墳をイメージしたプランで、植物の生えた楕円形の小高い丘の地下に競技場を埋め込んだもの。地下から過去がせり出してきたというか、未来に過去をぶち込んだというか。マケットを見ると、はっきりいって都市の真んなかに現れた巨大な女陰といった様相なのだ。これはすばらしいプランだが、落ちるはずだ。

2018/11/03(村田真)

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イケフェス大阪2018

会期:2018/10/27~2018/10/28

大阪府内各所[大阪府]

大阪の建築イベント、イケフェス(生きた建築ミュージアム フェスティバル大阪2018)に立ち寄った。あまり十分な時間がなかったので、ミナミから船場エリアまで、予約不要、人数制限なしの箇所だけをまわったが、小さな近代建築に順番待ちの行列が発生していたほか、街のあちこちでオレンジ色のガイドを手にした人が数多く歩いていることに感心させられた。おそらく平日はビジネスマンが多く、休日は余計にイケフェス目当ての人が目立つのかもしれないが、その風景は、あいちトリエンナーレなどの芸術祭におけるまちなか展開のようだ。2011年のUIAの東京大会に関連して、2008年に発足したopen! architectureのとき、ここまでの状況は出現しなかった。凄いことである。「日本初・建物一斉公開イベント」をうたうopen! architectureは、建築史家の斎藤理が中心となって、ベルリンやロンドンの事例を参考にしながら企画し、主に東京で開催されたものなので、基本的にイケフェスの同じ考え方だった。

もっとも、エリアや公開している建物の数では、圧倒的にイケフェスが大規模になっている。また昔はSNSのメディアもあまり発達していなかったのに対し、イケフェスは紙媒体のガイドブックも見やすくデザインされていただけでなく、スマートフォンでもプログラムがとても調べやすくなっている。「フェス」という語感も、今風である。ほとんどが事前の予約制だったopen! architetcureに対し、予約不要や人数制限のない建物が多いことも、飛び込みでやってきた者にとってはありがたい。ともあれ、こうして建築ファンの層を広がること、またそれが可視化されることは嬉しいことである。そしてじつは、多くの来場者が訪れることで、オーナーも自分が普段使っている建物が重要なものだと気づき、ますます愛着をもってもらうことが重要なのだ(これもopen! Architectureで狙っていたことである)。おそらく、こうした意識をもつことで、長く建物が保存されることにつながるだろう。

遠藤秀平《SENSEISHA BLDG.》(2002)(左)、《御堂ビル(竹中工務店大阪本店)》1階「生きた建築・伝える心と技」展(右)


《青山ビル》(1921)(左)、《大阪農林会館》(1930)(右)


《伏見町 宗田家住居(CuteGlass Shop and Gallery)》(1921)


《原田産業株式会社大阪本社ビル》(1928)


《日本基督教団浪花教会》(1930)


2018/10/28(日)(五十嵐太郎)

アッセンブリッジ・ナゴヤ2018

会期:2018/10/06~2018/12/02

名古屋港〜築地エリア一帯[愛知県]

名古屋港から築地口エリアで展開されている、「アッセンブリッジ・ナゴヤ2018」を訪れた。音楽とアートの活動の拠点となる《港まちポットラックビル》(旧・文具店)は、2階のプロジェクト・スペースで残念ながら今度、解体されることになった旧潮寿司の建物(L PACK)、3階のエキシビジョン・スペースで失敗した名古屋オリンピックの誘致(山本高之)と戦時慰安婦(碓井ゆい)など、リサーチをもとに忘れられていた歴史をたどる作品を展示していた。20年間空き家になっていた潮寿司はL PACKによって改造・運営され、アルファベット化した「UCO」という名の社交場/カフェスペースとして使われていたが、土地の所有者が手放すことになり、あわせて隣接する小さなボタンギャラリー(旧・ボタン店)も閉じることになった。渡辺英司が監修していた後者では、1階の「殿様のわらじ」展でアーティストや市民の値段をつけた作品を並べ、2階の記録展では、これまでの展示からお気に入りのものをドキュメントブックとして自分で製本し、持ち帰ることができるワークショップがなされていた。いずれも2年半前に初めて訪れた場所であり(そのときはアーティスト・ブック展を開催していた)、リノベーション後の状態しか知らないのだが、空き店舗の活用法として魅力的だっただけに惜しまれる。

さて、これらの建物の裏側には、かつて賭博場に使われたという家屋があり、港町の歴史を感じさせる。しかし、ここも消える予定であり、街の記憶が欠けていく。かといって、新しい再開発が待っているわけでもなく、商店街では空き店舗が増えているらしい。今後、あいちトリエンナーレとは別の枠組で運営されているアッセンブリッジ・ナゴヤが、地域の資源を生かしながら、どのように展開していくかを注目したい。ちなみに、賭け事という意味では、ボートピア名古屋(場外舟券発売場)が設置されたことから交付される環境整備費が、まちづくり事業に使われ、ポットラックなどのイベントに使われている。

2階のL PACKの展示


3階の碓井ゆいの展示


「UCO」の内部


「UCO」の背後


ボタンギャラリー記録展

2018/10/27(土)(五十嵐太郎)

田根剛「未来の記憶 Archaeology of the Future─Digging & Building」/田根剛「未来の記憶 Archaeology of the Future─Search & Research」

会期:2018/10/19〜12/24(Digging & Building)/10/18~12/23(Search & Research)

東京オペラシティ アートギャラリー/TOTOギャラリー・間[東京都]

「未来の記憶」という言葉は、一見、矛盾をはらんでいるように思える。記憶とは、過去の出来事を指すのではないのか。そんな疑問を持って、まず東京オペラシティ アートギャラリーを訪れると、最初のメッセージで、建築家の田根剛はその疑問を解き明かしてくれる。「記憶は過去のものではなく、未来を生み出す原動力」「場所の記憶からつくる建築は未来の記憶となる」と。では、場所の記憶とは何なのか。それはその場所で人々が繰り広げてきた文化や風習、風土、歴史などを指している。田根は場所の記憶を発掘するところから建築を思考する、「考古学的リサーチ」という手法を行なっている建築家だ。本展は2館にわたり、その手法を解き明かす展覧会だった。

展示風景 東京オペラシティ アートギャラリー[撮影:Keizo Kioku]

田根が考古学的リサーチを意識し始めたのは、世界的にデビューするきっかけとなった「エストニア国立博物館」の設計からだと言う。これは場所の記憶という点で、非常に特殊である。旧ソ連から独立したエストニアが、国家プロジェクトの一環として初めて国立博物館を建設する。しかもその敷地は旧ソ連が使用していた軍用施設。そこで田根をはじめとするチームは、真っ直ぐに伸びた軍用滑走路の先に博物館が延長的に建つ案を国際設計競技で発表し、見事に選ばれた。その場所の負の記憶をあえてさらけ出し、そこで人々が営みを重ねることで、それを正の記憶へと転換することを狙ったのだ。まさに「記憶は過去のものではなく、未来を生み出す原動力」を体現する事例と言える。

私はたまに地域のモノづくりをお手伝いすることがあるのだが、その際に「土着と洗練」というキーワードをよく持ち出す。土着とはその地域ならではの文化や風習、風土、歴史などを指し、洗練とは現代の暮らしに即しているかどうかを指す。土着ばかりでは野暮ったいものになるし、洗練だけでは奥行きのない薄っぺらいものになるため、どちらも欠けてはならないと考えている。それに当てはめると、田根は土着のベクトルが非常に強い人なのではないか。世界的に成功している現代建築家としては珍しいタイプだ(もちろん、洗練されていないわけでは決してないのだが)。ただし田根はそれを土着とは言わず、また一般的に建築の世界で使われるコンテキスト(文脈)とも解釈せず、「記憶」というキーワードを用いて独自の解釈をしている点に、言葉のセンスを感じた。

展示風景 TOTOギャラリー・間
© Nacása & Partners Inc.

公式ページ:
http://www.operacity.jp/ag/exh214(「未来の記憶 Archaeology of the Future─Digging & Building」東京オペラシティ アートギャラリー)
https://jp.toto.com/gallerma/ex181018(「未来の記憶 Archaeology of the Future─Search & Research」TOTOギャラリー・間)

2018/10/27(杉江あこ)

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