artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
永山祐子インタビュー、DESIGNART TOKYO 2018 藤元明+永山祐子《2021#Tokyo Scope》
[東京都]
12年ぶりとなる『卒業設計で考えたこと。そしていま』(彰国社)第三弾のインタビューのために、永山祐子の事務所を訪れた。彼女の店舗デザインの仕事などから想像すると、ちょっと意外な卒業設計だったが、縦糸と横糸を編むような巨大な複合駅施設によって高低差のある日暮里駅の両側をつなぐ、大型のプロジェクトだった。時代背景を考えると、FOAの《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》の影響もうかがえる。卒計のスタディのために、図書館で調べたさまざまな視覚資料を収集したファイルが興味深い。ファッション、布の織り方、遺伝子の構造図など、建築以外のネタからさまざまな着想を得ていることがうかがえる。実際、筆者は学会のワークショップで学生時代の永山に会ったことを記憶しているが、そのとき共通の話題として(まだ建築のプロジェクトがほとんどなかった)ディラー+スコフィディオで盛り上がったように、当時から建築にとらわれない横断的な関心をもっていた。舞踏団にのめり込んだ時期もあったらしい。
その後、南青山のエイベック本社のビルにおいて、藤元明と永山祐子による巨大なインスタレーションを見学した。エントランスの大階段を制圧しつつ、都市を映す鏡面としての銀色のバルーン(直径7mの半球が円錐に変容していくフォルム)が展示されていた。ビルのファサードにはオリンピック以後を示す「2021」プロジェクトの数字を掲げ、また床の赤いラインによって、北西側の明治神宮や東京オリンピック1964などのレガシーエリアと、南東側に展開する六本木ヒルズから豊洲のベイゾーンを串刺しにする新しい都市軸も表現している。丹下健三の「東京計画1960」を意識したものだ。壮大なスケール感だが、彼女の卒業設計を知っていると、連続性を感じられるだろう。また実際に永山は2020年のドバイ万博の日本館や歌舞伎町の超高層ビル《新宿TOKYU MILANO》のファサードデザイン(2022年完成予定)を担当しているほか、東京の目立つプロジェクトも準備しているらしく、なかなか若い世代が次のステップに進めない現代の状況において、着実に仕事の規模が大きくなっている。
2018/10/26(金)(五十嵐太郎)
U-35展
会期:2018/10/19~2018/10/29
うめきたSHIPホール[大阪府]
毎年恒例になった若手建築家を紹介する大阪のU-35展のシンポジウムに司会として登壇した。今回は公募以外に初めて推薦制度を導入したことから、強度のある個性派が揃い、濃密な議論が行なわれた(全体の水準が高かったおかげで、五十嵐淳が吠えなかったことも特筆に値する)。顔ぶれを整理しよう。まず、海外から2組も参加したことが印象的だったが(高杉真由+ヨハネス・ベリー、服部大祐+スティーブン・シェンク)、プレゼンテーションの方法も日本勢とはまったく違い、過剰な説明はなく、ストレートに美学を詩的に提示していた。特に前者は、建築作品を再現する模型や図面などを一切見せず、彼らの手がけた会場デザインの作品に連なる系譜の空間インスタレーションを新たにうめきたSHIPホールで制作している。筆者は、初回からU-35の展示を見てきたが、こういうタイプのプレゼンテーションは初めてだった。
次に横浜国大系の3組は、環境の観察を詳細に行ない、そこから設計するという手つきが共通していた。すなわち、彌田徹+辻琢磨+橋本健史、tomito architectureの冨永美保、中川エリカであり、いまの日本の若手の主流となるアプローチと言えるだろう。そして東京大学の歴史研出身である三井嶺(昨年のゴールドメダル)と京谷友也は、構造やルールなどに対して、いずれも拗らせた複雑な設計を試みていたのが興味深い。2018年の参加者は、大きく3つのグループに整理することができたが、ゴールドメダルをめぐる議論では、審査委員長の平田晃久が最終的に中川を選んだ。彼女は、西田司の事務所でいきなり《ヨコハマアパートメント》を担当しているが、総合力では確実に頭ひとつ抜き出ているという判断は納得のいくものだろう(海外組は断片的な情報だけで最高の評価をしてよいか悩ましい)。別の日に伊東豊雄を迎えて開催されたシンポジウムでも、彼女が伊東賞を受賞している。
2018/10/20(土)(五十嵐太郎)
《太田市美術館・図書館》「本と美術の展覧会vol.2 ことばをながめる、ことばとあるく─詩と歌のある風景」
会期:2018/08/07~2018/10/21
太田市美術館・図書館[群馬県]
筆者が教鞭を執る東北大学で、《太田市美術館・図書館》のまわりに新しい文化施設をつくる設計課題を出していたことから、受講している学生向けの見学会を開催した。やはり図書館とカフェは人が集まるキラーコンテンツであり、駅前のロータリーを削ってでも、この施設をつくった当初の目的通り、ちゃんと賑わっている。しかも天気が晴れだと、屋上庭園をぐるぐる歩くのも気持ちがよい。雑誌の取材にあわせて、ちょうど設計者である平田晃久も訪れていた。この美術館も、開館記念展の「未来への狼煙」以来、地域の文化資源を発見するジャンル横断的な展覧会を企画しており、学芸員の小金沢智にその意図をうかがった。やはり、アーツ前橋と同じような動機をもっており、さまざまな制限があるなかで、太田市という場の独特な箱=空間で何ができるかを考え、横断的な企画を実行するに至ったようである。こうした方向性は、現代の地方都市における美術館のモデルになっていくかもしれない。
今回は本と美術の展覧会の第二弾として、「ことばをながめる、ことばとあるく─詩と歌のある風景」展が開催されていた。言うまでもなく、本と美術の切り口は、互いに絡みあう美術館・図書館の建築の空間形式から着想したものである。また美術館エリアは、高さのレベルの異なる、離れた3つの白い箱と途中のスロープから構成されていることから、それぞれ地上階から順番に最果タヒの詩×三人のグラフィック・デザイナー(佐々木俊、祖父江慎、服部一成)、詩人の管啓次郎×佐々木愛の絵画、そして知られざる明治生まれの地元の短歌作家、大槻三好・松枝夫妻の作品×イラストレーター・惣田紗希という三部構成をとっている。またスロープには、図書館から借りた関連図書を並べている。今年、東京オペラシティアートギャラリーでも谷川俊太郎の展覧会に挑戦していたが、ここでは太田市という地域性を強く意識しながら、さまざまな方法による言葉の世界の視覚化を提示した。
2018/10/14(日)(五十嵐太郎)
《太陽の鐘》《シェアフラット馬場川》《Mビル(GRASSA)》《なか又》、「つまずく石の縁 ─地域に生まれるアートの現場─」
[群馬県]
数年ぶりに前橋を訪れた。萩原朔太郎記念館からそう遠くない場所に、市の新しいシンボルとして岡本太郎の《太陽の鐘》が登場した。設置場所の空間デザインを手がけたのは、藤本壮介である。なるほど、鐘を吊るす三日月状のオブジェは太郎らしい造形だが、土を盛ったランドスケープの上の24mに及ぶ、やたらと長〜〜い撞木も笑える。商店街のエリアでは、藤本による老舗旅館をホテルに改造する大胆なプロジェクトが進行中だったほか、石田敏明による《シェアフラット馬場川》(2014)、また2018年に完成した隣り合う中村竜治のリノベ風新築の《Mビル(GRASSA)》と長坂常の店舗《なか又》(さらに横にもうひとつ建築家の物件が増える予定)などがあり、明らかに新しい建築によって活気づいている。つぶれた百貨店を美術館にリノベーションしたアーツ前橋が登場し、都市に刺激を与えているのだろう。なお、前橋は、藤本による初期の住宅《T-HOUSE》もある街であり、なにかと縁が続いている。
さて、開館5周年を迎え、岡本太郎の展覧会を開催しているアーツ前橋の館長、住友文彦にインタビューを行ない、文学館との共同企画ほか、美術以外の地域文化を積極的に紹介する試みについて、いろいろと話を聞いた。後発の美術館として、いまさら高額の印象派の絵を揃えるのではなく、必然的に地域の資産を掘り起こすことになったという。その後、もう一度、街に出かけ、白川昌生の木馬祭、そして片山真里やケレン・ベンベニスティらの国内外の作家が参加するまちなか展開「つまずく石の縁」を一緒に見てまわった。展示場所としては、各地の空き店舗やシャッターを活用している。当初から美術館の外でも、アートの展示を積極的に推進してきたアーツ前橋らしい企画である。途中、住友氏があちこちで街の知人に声をかけたり、かけられており、5年のあいだに構築してきた街と美術館の親しい関係がうかがえた。道路にも美術家の展覧会と文学館のバナーが並んでおり、地方都市のスケールメリットを生かしている。
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2018年11月01日号キュレーターズノート|足利市立美術館「長重之展 ─渡良瀬川、福猿橋の土手─」/アーツ前橋開館5周年記念「つまずく石の縁 ─地域に生まれるアートの現場─」(住友文彦)
2018/10/14(日)(五十嵐太郎)
第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展
会期:2018/05/26~2018/11/25
ジャルディーニ地区、アルセナーレ地区ほか[イタリア]
いつもは夏だったので、10月にヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展を訪れたのは初めてだが、5月にスタートでも、週末はこんなに多くの人が来るのかと改めて驚く。おそらく、妹島和世が全体のディレクターをつとめた2010年のビエンナーレが、日本の建築家のプレゼンスが過去最大だったことを踏まえれば、今回はやや寂しかった。アルセナーレのエリアでは、伊東豊雄による作品の幾何学性を紹介する映像インスタレーション(《台中国立歌劇院》の個展で使われていたもの)、SANAAによる曲面ガラスの空間インスタレーション、手塚建築研究所の《ふじようちえん》など、手堅く秀作を出品している。ただ、すでにエスタブリッシュされた建築家なので、新しい世代ではない。またアルセナーレと道路を挟んで向かいの香港の展示では、建物の内外に100の実験的なスカイスクレーパーをベタに並べており、一見馬鹿らしいが、これだけ夢のある提案のビルが数多くそろうと壮観で、なかなか興味深かったが、そこに思いがけず、竹山聖も出品していた。
さて、ジャルディーニの日本館はサイズが小さいので、室内でやる限り、どうやってもドイツ館やフランス館のようなダイナミックなインスタレーションを実践することが難しい。こうした状況を意識したのか、今回の貝島桃代、ETHのロラン・シュトルダー、学芸員の井関悠による企画「東京発 建築の民族誌──暮らしのためのガイドブックとプロジェクト」は、ピロティに立体を置いているものの、館内はすべて平面という過去にない展示だった。その内容はメイド・イン・トーキョー的な試みを世界各地から収集するというもので、42組の作品を紹介し、環境の建築的な観察図面集といった趣きである。ビエンナーレならではの祝祭性は控えめとし、美術館で開催するようなきれいにまとまった展示だった。いずれのドローイングも、じっくり読み込むと、相当な情報量をもつが、日本語の図であっても一切翻訳や解説がないのには驚いた(逆にTOTO出版から刊行されたカタログは、本のサイズという限界がるためか、クローズアップの図版も入れて、絵解きを付している)。読むな、視覚的なコミュニケーションを解読せよ、というメッセージだろう。ともあれ、環境やアクティビティをていねいに読みとることに、現在の日本建築界の特徴もよくあらわれていた。
2018/10/05(金)(五十嵐太郎)