artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
明治150年記念 日本を変えた千の技術博
会期:2018/10/30~2019/03/03
国立科学博物館[東京都]
明治150年を記念した「日本を変えた千の技術博」展を見る。以前、同じ上野の東京都立美術館で「大英博物館展──100のモノが語る世界の歴史」を開催していたが、国立科学博物館のこの企画もキリが良い数字をタイトルに入れた企画だ。意外にこうした切り口は、一般の来場者を引きつけるのかもしれない。さて、展示の導入部は、基本的に日本における近代以降の教育史になっていた。各分野の技術展示では、東北大の所蔵も散見されたように、コレクションだけでなく、さまざまな研究機関や大学からも貴重な資料を借りている。上野の美術館群では基本的に建築を紹介しないが、科学博物館は建築を専門とする学芸員も抱え、科学史の立場から建築を扱う。
では、「日本を変えた千の技術博」展において建築はどのようにとり上げられていたか。結論から言うと、その数はけっして多くない。例えば、明治時代に登場した擬洋風や煉瓦造の建築、日本初のエレベータ、耐震の技術、そして霞が関ビルが登場するくらいだ。なるほど、開国した明治政府は、まず最初に工学として西洋から「建築」を受容したが、その後の最新技術の歴史をたどると、どうしても建築の存在感は薄くなる。実際、モダニズムやポストモダンといったデザインの潮流は、技術よりも意匠の範疇に含まれる。また数々の歴史的建築が証明しているように、建築は新しさというよりも、美学的な価値を有するからこそ、長い時間のスパンの評価にたえることがありうる。
久しぶりに国立科学博物館の常設展示もまわったが、増改築によって、かなり大規模になっており、展示デザインも工夫されていた。なお、建築の関係では、アナログ器械の地震計がいくつか紹介されており、ユニークな造形に目を奪われた。そして個人的に最大の収穫は、マンモスの骨でつくった1万8千年前の住居の復元である。これは最新どころか最古に属する建築だが、大きな骨を組み合わせたど迫力のブリコラージュの技術による産物だ。
2018/12/16(水)(五十嵐太郎)
《星野リゾート OMO5 東京大塚》
[東京都]
2018年にオープンした《星野リゾート OMO5 東京大塚》に宿泊した。駅を背にして2分ほどの立地だが、正直、この周辺であまり用事がなかったため、大塚駅で降りたのは今世紀初めてかもしれない。和を感じさせるインテリアのデザインは、佐々木達郎が担当したらしい。部屋は上で寝るロフトになっており、注意しないと、頭をぶつけるという難点はあるものの、そのおかげでベッドに占拠されず、平面の広がりを確保している。が、最大の特徴は、むしろ外に出て、大塚の街を体験させる仕かけだろう。すなわち、エントラスの導入部にさまざまな見所や飲食店を示した街歩きの大きなマップを掲げ、さらに毎日、朝、夕、夜にガイドが数名を連れて、名所やグルメを案内するツアーが用意されているのだ。《星のや軽井沢》は豊かな自然に囲まれ、自らも広大な敷地内に独特の建築やランドスケープのデザインを展開している。が、東京の大塚では、周辺の都市環境を再発見させる手助けを行なう。星野リゾートのこうした試みは、もうひとつ旭川でも行なっている。
鍋のツアーなどはすでに一杯だったので、夕方と朝のツアーに参加した。もっとも、大塚にはいわゆる有名建築がない、ある意味では日本らしいでたらめな街並みである。興味深いのは、メディアが注目するようなきらびやかな巨大開発がないからこそ、逆に都電を含む昭和の香りが漂う商店街がかなり残っていることだ。ほかにも巨木のある神社、東京スカイツリーを線路の上から眺めることができる橋、外から練習風景を見学できるボクシングジムなども紹介された。整備された大塚駅前の広場では、夜に青空カラオケ大会が行なわれていたが、ほかの山手線の駅前では考えにくい風景だろう。またエスニックや外国人が集まるお店が意外に多いことは、個人的な発見だった。なお、大塚駅の北側では、地元の山口不動産が「ba(ビーエー)」と呼ぶ一連の小型開発を展開しており、懐かしい居酒屋風ののれん街やおしゃれなカフェなどが新しく登場し、《OMO5》もそのひとつに含まれる。
2018/12/14(月)(五十嵐太郎)
横浜美術館開館30周年記念 記念誌掲載のための座談会
会期:2018/12/04
横浜美術館[神奈川県]
横浜美術館30周年記念誌に収録するための座談会の司会をつとめた。みなとみらいのプロジェクトに関わった官と民の担当者、そして美術館の初期スタッフ、建築家サイド(丹下事務所の担当者)が、同窓会のように集まり、その始まりから現在までの経緯をたどる。筆者は、1989年の横浜博覧会のとき、初めてこの地を訪れたが、そのときすでに《横浜美術館》は完成していた。この博覧会が入ったために、2年ほど、みなとみらいの工事は中断したらしいが、考えてみると、何もなかった埋立地にまず市の公共施設として美術館がぽつんと登場したのは、興味深い経緯である。今でこそみなとみらい線も開通し、大型の商業施設「MARK IS(マークイズ)」が向かいに建ち、まわりに多くの高層ビルとタワーマンションが林立する風景となったが、逆にその後、期限付きの小学校をのぞくと、あまり公共建築は増えていない。もっとも、このエリアでは民間による3つの音楽ホールが近く誕生する予定であり、今後はライブの需要に応える重要な拠点にもなるだろう。
丹下による《横浜美術館》は、左右対称であり、海に向かう強い中心軸をもつ。これが都市デザインと一番よく連動したのは、横浜博の会場計画のときだった。が、現在は、中心の展望台が一般に開放されておらず、また「MARK IS」によって完全に遮られている。また内部の吹き抜け空間は、80年代に登場した《オルセー美術館》を想起させるだろう。この吹き抜け空間は、作品が巨大化する現代アートの展示で活用されたり、イベントなどの需要があるようだ。なお、丹下がこの仕事を依頼されたのは、80年代の中頃であり、ちょうど東京の新都庁舎のコンペを準備していた時期と重なる。したがって、いずれもモダニズム的なデザインではなく、むしろクラシックなテイストのポストモダンだった。完成するのは《横浜美術館》が先であり、当時の丹下事務所では、新しいファサードのデザインへの移行に取り組んでいたらしい。
2018/12/04(金)(五十嵐太郎)
ジャポニスム2018 「MANGA⇔TOKYO」/「縄文─日本における美の誕生」
「MANGA⇔TOKYO」
会期:2018/11/29〜2018/12/30
ラ・ヴィレット[パリ]
「縄文−日本における美の誕生」
会期:2018/10/17〜2018/12/08
パリ日本文化会館 [パリ]
ラヴィレット公園のホールで開催された「MANGA⇔TOKYO」展は、エントランスで、2つのミュージアムショップ(左右に設置されたリトル秋葉原と池袋をイメージしたリトル乙女ロード)の間を通ると(小店舗のオペレーションを2つに分けるのは大変だろう)、超巨大な東京の模型と各地を舞台とした大スクリーンの映像が出迎える。てっきりロッテルダムの「トータルスケープに向けて」展(建築博物館、2000〜2001)のときのように、森ビルが制作していた模型を今回も借りていると思いきや、そうではない。もっと大きい模型を新規に制作し、来場者の目を釘付けにしていた。おそらく「パリと映画」でもこうした展示は可能だろうが、「漫画と特撮」で成立するところが東京ならではだろう。その後、展示は2階に登って、都市の破壊、江戸、近現代の歴史、東京タワーと新都庁舎、日常、場所とキャラなどのテーマと続く。ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2004の日本館で提示した仮説「おたく:人格=空間=都市」を全東京に広げ、森川嘉一郎節が久しぶりに全開だった。なお、12月1日には坂茂が設計した《ラ・セーヌ・ミュージカル》で初音ミクのコンサートも開催された。
ヴェネツィア・ビエンナーレでおたくを展示した2年後、日本館に藤森照信が縄文建築団を引き連れ、世界に振幅の広さを見せることになったが、パリのジャポニスム2018でもちょうど「縄文」展(パリ日本文化会館)を開催していたことは興味深い。これは東京国立博物館の「縄文─1万年の美の鼓動」展(2018)を再構成したもので、パリでは20年ぶりの縄文展になるという。最初の焼き物・容器エリアで十日町市蔵の大きな火焔式土器が出迎え、軸線の強い会場構成のもと、第二の土偶エリアでも国宝が5つ並び、最後は日用品などを紹介する(東北大の所蔵品もあった)。重要文化財も33件が出品され、レプリカを触れるコーナーも設け、コンパクトながら、縄文の魅力を十分に伝える内容だった。なお、パリとの関係で思い出される、縄文土器の美の発見者である岡本太郎については、映像で紹介していた。
2018/12/02(日)(五十嵐太郎)
ジャポニスム2018 「安藤忠雄 挑戦」
会期:2018/10/10~2018/12/31
ポンピドゥー・センター[パリ]
パリで開催されている安藤忠雄展は、入場制限がかかるほどの盛況ぶりで、室内の行列でしばらく待ってからようやく展示を見ることができた。会場のポンピドゥー・センターに近い、パリの中心部にもうすぐ彼の新作となる美術館《ブルス・ド・コメルス》が登場するためだろうか。日本だけではなく、海外における安藤人気の凄さを思い知る。本展は話題になった2017年の新国立美術館の個展を巡回したものである。ゆえに、その内容をおおむね踏襲し、原型/都市/風景/歴史といった構成になっているが、六本木と比べて、会場の面積が少し小さい分、濃密に作品と向きあう(なお、パリでは写真撮影がOK)。またキュレーションを担当したフレデリック・ミゲルーによる安藤へのインタビューの映像が追加されていた。なお、原寸で再現された《光の教会》は、さすがにそのままもっていくことができず、ポンピドゥー・センターでは十字の壁だけが屋外に設置された。全体を再現することができなかったのは、床の荷重制限もあったらしい。
室内の展示はオーソドックスである。最初のセクションは、若き日の安藤の旅、彼が描いたスケッチや撮影した写真、都市ゲリラ住居のプロジェクト、そして事務所や住宅を紹介している。個別の作品に対する説明はあまりなく、むしろモダニズムを基盤とするコンクリートの幾何学によって、言葉がなくとも建築の魅力を伝えていた。すなわち、かたちそのものであり、周辺環境の細かい解読や近隣のコミュニティがどうだ、といったデザインとは違う。もっとも、最後のセクションでは、歴史との対話を重視し、ヨーロッパにおけるリノベーションのプロジェクトがメインとなる。ヴェネツィアの《プンタ・デラ・ドガーナ》やロンドンの《テートモダン》のコンペ案などだ。そしてラストは、やはり《ブルス・ド・コメルス》の大きな模型を置き、パリの未来像に期待を抱かせる。
2018/12/01(土)(五十嵐太郎)