artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

アーティスト・ファイル2013──現代の作家たち

会期:2013/01/23~2013/04/01

国立新美術館[東京都]

注目したのは、チョン・ヨンドゥ。子どもが描いた空想的な絵と、それらを再現して撮影された写真とをあわせて見せる《ワンダーランド》、そして韓国の公園で個人的なエピソードを語る老人たちの映像と、その話に関連するセットを組み立てる映像とを、左右のスクリーンで同時に見せる《手作りの記憶》を発表した。
双方の作品に通底しているのは、イメージそのものを視覚化することの難しさである。老人たちが口にする物語は言語表現であるから目に見えるわけではない。けれども、その話がおもしろいからなのか、あるいはその語り口が淀みなく心地よいからなのか、当人の姿を目にしながらも、いつのまにか自分の脳内でその物語のイメージをつくり上げていることに気づく。だから、片側のスクリーンで映画の撮影現場のようにセットを組み立てる映像が視界に入ってくると、自分で再生したイメージとの齟齬に苦しむことを余儀なくされる。イメージの視覚化が補完されるのであればまだしも、それを阻害されることのストレスは、思いのほか大きい。
《ワンダーランド》にしても、子どもの絵そのものを鑑賞していたほうがイメージは豊かに膨らむにもかかわらず、それらをわざわざ演劇的に再現することの意味は甚だ乏しいと言わざるをえない。平たく言えば、アートという名の「大きなお世話」にしか思えないのである。
チョン・ヨンドゥが暗示したのは、ヴイジュアル・アートの限界なのだろうか。しかし、志賀理江子の《螺旋海岸》が明示したように、ヴィジュアル・アートによるイメージの共有可能性は、まだまだ発展する余地が残されている。それを押し広げる鍵は、チョン・ヨンドゥが逆説的に示したように、言語的な想像力にあるのではないか。

2013/02/22(金)(福住廉)

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PAT in Kyoto 京都版画トリエンナーレ2013

会期:2013/02/23~2013/03/24

京都市美術館[京都府]

版画の最新動向と注目作家を発信する新たなトリエンナーレが、京都に誕生した。この「PAT in Kyoto~」では、一般公募ではなく、美術関係者からなるコミッショナーの推薦制を導入。また、作家数を抑えて1人あたりのスペースを広く取ることで、質の高い展示を行なえるよう注力した。21人の出品作家は大半が30~40代で、紙にインクで刷るオーソドックスな表現はもちろん、写真とデジタル技術を駆使した作品や、インスタレーションなど、実に多様だった。版画や既存の芸術ジャンル全般に言及する攻めの姿勢で作家をセレクトしたことは、高く評価されるべきだろう。一方、イベントの周知を図る情報発信や、批評活動の活性化については課題が残った。3年後の第2回では、ぜひそれらを克服してほしい。

2013/02/22(金)(小吹隆文)

Absolute basis──樫永創と片山浩の場合

会期:2013/02/18~2013/02/23

Oギャラリーeyes[大阪府]

表現形式の多様な現代において「何故、絵画を選択するのか」という問いに作家はどのように答えるのか。制作のアプローチもそれぞれの作家たちの作品を通して、表現への眼差しを探るというギャラリー企画のシリーズ展。4回目となる今回は樫永創と片山浩の作品が展示された。底知れない深淵の淀みのような暗い画面が不気味でもあるが、その奥深くにはなにかが潜む気配も感じさせる樫永の絵画。映画のワンシーンをモチーフに、同じ場面を何度も画面に描き重ねているという片山の一連の作品。絵の具が塗り重ねられた片山の作品は、繰り返し同一場面を描くという行為のなかで、その度に変化する感覚や感情、そのような“揺れ”を修正しようとする作家の意識なども垣間見えるよう。表現のあり方が異なる作家それぞれの制作の求心力がじわりとあぶり出しのように見えてくるのが面白い空間だった。

2013/02/22(金)(酒井千穂)

Recover&Rebuild Japanese art & design 第1回東日本大震災チャリティ展「Monster展」オープニング・レセプション

会期:2013/02/22~2013/02/27

渋谷ヒカリエ 8/ COURT[東京都]

渋谷のヒカリエにて、庄司みゆきが企画したMONSTER展のオープニングに顔を出す。公募の審査に関わり、会場にて展示された選出作品を見てまわり、さらにベストのものに投票する。完成度や機能性(とはいえ、あえて一部機能がないモノも含む)の点から、小野誠による異形のライターのセットが良かった。淀川テクニックも元気である。デザインやアートなど、多ジャンルが混ざる公募の審査は、選ぶための基準を決めるのが難しい。

2013/02/22(金)(五十嵐太郎)

震災2年目を迎える日本─建築、アートの可能性 ~復興再生にどうかかわり、何ができるか~

会期:2013/02/21

フォーリンプレスセンター ブリーフィングルーム[東京都]

日比谷にて、FPCJ特別企画プレス・ブリーフィング「震災2年目を迎える日本─建築、アートの可能性」を開催した。五十嵐は、被災した気仙沼のリアスアーク美術館、3.11により青森県立美術館で中止になった青木淳と杉戸洋のコラボレーションの実現、仙台在住の志賀理江子や青野文昭、被災地をリサーチした海外作家ブラスト・セオリーやアルフレッド・ジャーによるプロジェクトなど、あいちトリエンナーレにおける東北との関係を紹介した。一方、伊東豊雄はみんなの家と釜石のプロジェクトの現状を語る。後半は、仙台のみんなの家の現場と中継を結ぶ。当日は多くの外国人記者が集まり、いまだにさめない復興への関心の高さがうかがえる。

2013/02/22(金)(五十嵐太郎)