artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
白隠 展 HAKUIN
会期:2012/12/22~2013/02/24
Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]
江戸時代中期の禅僧、白隠慧鶴の展覧会。約100点の書画が一挙に展示された。白隠といえば、丸みを帯びた描線で描いた達磨や七福神など、キャラクター化された図像表現がつとに知られているが、今回の展覧会で改めて思い知ったのは、そうした図像と文字を組み合わせる絶妙なセンス。
白隠の禅画の多くは、絵と文字を一体化させた画賛である。だから、その文字には禅宗的なメッセージや韻律が含まれており、白隠がみずからの禅画を視覚と聴覚に訴えかけるある種のマルチメディアとして想定していたことがよくわかる。ただ、それらの大半は余白に賛を書き込んでいるように、図像と文字を切り分けているが、なかには図像と文字を融合させた作品もある。
たとえば、白隠の書画のなかで最も大きなサイズの《渡唐天神》。天神が羽織る着物に「南無天満大自在天神」という文字を溶け込ませた文字絵である。さらに《七福神合同舟》は、文字どおり宝舟に乗って来る七福神を描いているが、白隠は「寿」の文字を極端に引き伸ばすことで宝舟を表現した。つまり、白隠は文字というメディアの意味を伝達する機能を活用すると同時に、文字の物質性を図像表現に巧みに取り込んでいるのだ。
不思議なのは、このような白隠の特性を意識しながら他の書画を見ていくと、墨で描いた描線が何かしらの漢字に見えてくるということだ。むろん丸みを帯びた描線においては該当しない。けれども比較的に鋭角的な描線は、まるで漢字を書くかのように描いているように見えてならないのである。白隠から学ぶことができるのは、イメージと言語の相似性、つまり描くことと書くことがそれほど離れているわけではなく、むしろ通底する領域がありうるということだろう。
2013/02/21(木)(福住廉)
久保文音 展
会期:2013/02/19~2013/02/24
ギャラリーモーニング[京都府]
作家は京都精華大学で日本画を専攻する4年生。京都市立美術館で開催されていた大学の卒業制作展に時期を合わせて個展を開いていた。展示されていたのは女性像や風景、野菜などを描いた作品。岩絵具や鉛筆のほか、コーヒーも用いて描いているというそれらの作品は、柔らかな色彩と細やかな描線が特徴で、エッチングの銅版画のような趣きもあった。よく見るとドレスのレースや背景の模様など、画面の一部は絵の具を盛り上げるようにして描かれていて、それもかなり厚みがあるのだが、少し離れて見るとそれもあまり分らないのが面白い。一見、繊細なイメージとのギャップが魅力的だった。
左=久保文音《マチビト》
右=展示風景
2013/02/21(木)(酒井千穂)
生誕百年記念 塔本シスコはキャンバスを耕す
会期:2013/02/15~2013/02/27
くずはアートギャラリー[大阪府]
「枚方市平和の日」記念事業として開催されていた塔本シスコ(1913-2005)の生誕100年記念展。以前、7回忌展が開催されていた京都の画廊でこのポスターを見かけ、枚方市駅前にあるショッピングモール内のギャラリーに足を運んだ。48歳のときに脳溢血で倒れ、その後リハビリをかねて独学で絵を描き始めたという塔本シスコ。数年前、初めて作品を見たとき私はその画面の圧倒的な力強さと美しさ、闊達な趣きに魅了されてしまった。今回会場に展示されていたのは、130×162センチの大きな油彩画や、箱や瓶に描かれた作品など48点。作品の多くには身近な草花や動物、鳥、虫、親しい人々などが描かれているのだが、絵の具を分厚く載せるような筆跡、明るく鮮やかな色彩など、画面はどれも、もの凄い迫力。これまで私はこんなにも大きな作品を見たことがなかったのだが、ほとばしるような活力と生命感に溢れた作品群に再び打たれるような感動を覚えた。訪れたときは来場者もまばらだったのだが、広々とした空間で静かに堪能できたのが嬉しい。
左=展示風景
右=塔本シスコ《枚方市総合体育館前のコスモス畑》
2013/02/20(水)(酒井千穂)
プレビュー:特別展覧会 狩野山楽・山雪
会期:2013/03/30~2013/05/12
京都国立博物館[京都府]
天下の覇権が豊臣氏から徳川氏に移った桃山から江戸時代の過渡期、御用絵師集団の狩野派は江戸と京都に分裂した。狩野山楽と山雪は、この激動期に京狩野を率いた初代と二代目である。狩野永徳譲りの気宇壮大さが持ち味の山楽、シュールなまでの個性的な画風を確立した山雪。両者の作品が一堂に会するのは史上初だ(ちなみに、山楽の回顧展は42年ぶり、山雪は27年ぶり)。作品数は、重要文化財13件、新発見9件、初公開6件を含む80件余り。なかでも、ミネアポリス美術館の《群仙図襖》(初里帰り)とメトロポリタン美術館の《老梅図襖》という、元々は表裏をなしていた山雪作品が50年ぶりに再会するのは必見である。
2013/02/20(水)(小吹隆文)
プレビュー:超・大河原邦男 展─レジェンド・オブ・メカデザイン─
会期:2013/03/23~2013/05/19
兵庫県立美術館[兵庫県]
「科学忍者隊ガッチャマン」(1972年)、「タイムボカンシリーズ ヤッターマン」(1977)、「機動戦士ガンダム」(1979)などのアニメ作品でロボットや兵器のデザインを担当し、メカニカルデザインという仕事を確立した大河原邦男。アニメ界の生ける伝説とも言うべき彼の業績を、直筆の設定資料や宣伝ポスターなど400点以上で振り返る。その多くがこれまで門外不出とされてきたものであり、ファンにとっては垂涎の品ばかりだ。大河原本人が登場する対談やサイン会も予定されており、会場はアニメファンの聖地と化すであろう。
2013/02/20(水)(小吹隆文)