artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

第16回文化庁メディア芸術祭

会期:2013/02/13~2013/02/24

国立新美術館[東京都]

「アート」「エンターテインメント」「マンガ」「アニメーション」という首をひねりたくなるようなジャンル別(エンターテインメントってジャンルか?)の展示。時間がないのでもっぱら「アート」部門を見る。大賞はコッド・アクトというユニットによるパフォーマンスの記録映像。数人の男が足をジャッキに固定され、ジャッキの動きとともに体を傾けながらオペラを歌ってる。みんな真剣に見ているのがおかしく、思わず笑ってしまった。これはギャグだろ。ヤン・ウォンビンは、クシャクシャにした紙くずのなかに装置を仕込み、ロボットのように動かす映像作品で新人賞を獲得。その下の床では実際にスタバの紙コップがくるくる動いていた。これはいい。震災関連の作品もいくつか目についたが、佐野友紀による4.5×7.2メートルの巨大なガレキの絵が圧巻。と思ったら写真の上から絵具でなぞったもので、ガイドブックを見ると「グラフィックアート」になっている。このガイドブックによれば「アート」部門はパフォーマンス記録映像、ロボット、映像インスタレーション、インタラクティブ・インスタレーション、デジタルフォト、ウェブなどに占められ、絵画や彫刻はなし。グラフィックアートも佐野の1点しかない。いまさらですが「メディア芸術」ってなんなの?

2013/02/15(金)(村田真)

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尾仲浩二「MY FAVORITE 21」

会期:2013/02/12~2013/03/02

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

尾仲浩二からの思いがけないヴァレンタインのプレゼントといった趣の、小粋な展覧会だった。このシリーズをつくり始めたきっかけは、ずっと愛用していたコダックのカラープリント用の印画紙が2年前に製造中止になってしまったことだったという。そのとき、パリの友人が小半切サイズのその印画紙を100枚送ってくれた。そこに何をプリントしようかと考えたときに、カラープリントを始めたばかりでまだあまり上手に焼けなかった2000年頃に撮った写真群が気になり始めた。エディションを3に決め、そこから21枚の「MY FAVORITE 」を選んでプリントしたのが今回のシリーズである。
旅の途上、街はずれの人気のない片隅の光景という尾仲のスタイルは一貫している。だがそのなかでも、不機嫌そうな猫、愛嬌がありすぎてちょっと哀しげな犬、煙を吐いて航行する旅客船など、普段なら外しそうな写真をさりげなく入れてサービス精神を発揮している。気になったのは展覧会のDMや、ZEN FOTO GALLERYから刊行された同名の写真集の表紙に使われている、古臭い造花を飾ったショーウィンドウの写真。ここには「モノ」に対する尾仲の独特の嗅覚がはっきりと表われている。彼は風景を包み込んでいる空気感だけでなく、このようなどこか懐かしく、愛らしい「モノ」たちのたたずまいにも鋭敏に反応してシャッターを切っているのではないだろうか。この方向をさらに進めていけば、「MY FAVORITE THINGS」をコレクションした展示や写真集も充分に考えられるのではないかと思った。

2013/02/15(金)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2013年2月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

会田誠作品集 天才でごめんなさい

著者:会田誠
編集:森美術館
発行日:2013年01月16日
発行所:青幻舎
サイズ:A4判、248頁
定価:3,570円(税込)

2012年11月17日(土)〜2013年3月31日(日)まで、森美術館で開催中の「会田誠 天才でごめんなさい」展カタログ。「デビュー以来一貫して自らが生きる社会を凝視し続け、批評、風刺あふれるセンセーショナルな作品を発表し続ける会田誠。そのタブーに挑む表現から真の評価が遅れてきた会田の全貌を検証する」[青幻舎サイトより]


SUPER RAT

著者:Chim↑Pom
発行日:2012年11月15日
発行所:PARCO出版
サイズ:A4変判、230頁
定価:3,000円(税込)

芸術実行犯Chim↑Pomの全貌! 2005年結成からパルコミュージアムでの個展「Chim↑Pom」までの代表作をすべて網羅。さらに国内外の評論家やキュレーターによるさまざまな論考を併載し、話題沸騰のアーティスト集団に迫る。[パルコ出版サイトより]


アシュラブック
興福寺 阿修羅像から東大寺 不空羂索観音像へ

著者:北進一
発行日:2012年11月17日
発行所:美術出版社
サイズ:A5判、152頁
定価:2.415円(税込)

興福寺の阿修羅像が美少年になった理由とは? 興福寺の阿修羅像は、日本の仏像の中でナンバーワンの「美少年」です。ですが、阿修羅のルーツをたどっていくと、ある疑問にぶつかります。阿修羅はそもそも鬼の神。インドや中国など各地でつくられた像の多くは、すさまじい形相をしているものが多々あり、美少年のイメージから遠くかけはなれています。では、なぜ興福寺の阿修羅像が生まれたのでしょうか? 本書では、美少年が生まれるヒストリーの裏に隠された、人間のさまざまなドラマに迫ります。また、最近の研究により新事実の発覚した、東大寺不空羂索観音像との関係もクローズアップ。さらに、奈良の美仏も多数収録。奈良の仏像の「美しさ」を徹底的に解説。仏像好き必見の一冊です。[美術出版社サイトより]


写真画報
荒木経惟「淫夢」×佐内正史「撮っている」

企画・編集:沖本尚志
発行日:2013年02月22日
発行所:玄光社
サイズ:A4変判、144頁
定価:2,520円(税込)

ふたりの写真家を選出し、それぞれの作品をほぼ同じページ数で掲載する新しい表現スタイルの写真雑誌です。写真表現を拡張する可能性を探りつつ、写真家の本質を対比によって表出させます。特集ではインポッシブルのインスタントフィルムで撮影した新作を発表する荒木経惟と、ストレートで純粋な表現で挑む佐内正史のふたりを取り上げます。それぞれ60 ページに渡るボリューム満点の撮り下ろしの作品ページとインタビューは、見応え十分です。他に最新写真ニュースやブックレビューなどのコラムを掲載しています。
玄光社サイトより]


地域を変えるソフトパワー
アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験

著者:藤宏志、AAFネットワーク
発売日:2012年12月10日
発行:青幻舎
サイズ:四六判、256頁
定価:1,890円(税込)

東日本大震災が起きる以前から、地域社会の疲弊に対して多くの振興策が実施されてきた。しかし、それらはじゅうぶんな成果を上げられなかった。公共事業による箱モノ行政や、大規模商業施設の誘致がいっときのカンフル剤として機能したとしても、高度成長期より徐々に進んできた地方の過疎化と大都市への一極集中は食い止められず、地域社会は疲弊したままである。そうしたなか、新たな地域再生の試みが少しずつ成果を上げ始めている。多様な地域資源を再活用し、人々のコミュニケーションを応援し、2000年以降地域コミュニティ再生に不可欠な存在として浮かび上がってきたのが、アートプロジェクトである。このアートを社会に開く活動は、地域における小さな拠点開発に長けており、大規模の施設を必要とせず、最小の投資を最大限に活かすことができる。私たちは、全国の様々なアートプロジェクトが備えているそんな機能を、「ソフトパワー」と名付けてみたいと思う。地域に暮らす、あるいは関わる人々の「もやもやとした思い」を受け止め、様々な実践へと展開していくこと。着実に成果を生んでいる各地の取り組みを取材し、一つひとつ紐解いてみたい。柔軟な社会変革、だからソフトパワーなのである。[地域を変えるソフトパワー特設サイトより]


建築映画 マテリアル・サスペンス

著者:鈴木了二
発行日:2013年01月30日
発行所:LIXIL出版
サイズ:B6判、336頁
定価:2,940円(税込)

建築家・鈴木了二は、建築・都市があたかも主役であるかのようにスクリーンに現れる映画を「建築映画」と定義します。「アクション映画」、「SF映画」や「恋愛映画」といった映画ジャンルとしての「建築映画」。この「建築映画」の出現により、映画は物語から解き放たれ生き生きと語りだし、一方建築は、眠っていた建築性を目覚めさせます。鈴木は近年の作品のなかに「建築映画」の気配を強く感じると語ります。現在という時間・空間における可能性のありかを考察するために欠かすことができないもの、それが「建築映画」なのです。ヴァルター・ベンヤミン、ロラン・バルト、アーウィン・パノフスキーやマーク・ロスコの言葉にも導かれながら発見される、建築と映画のまったく新しい語り方。本書で語られる7人の映画作家たち:ジョン・カサヴェテス、黒沢清、青山真治、ペドロ・コスタ、ブライアン・デ・パルマ、二人のジャック(ジャック・ターナー、ジャック・ロジエ)。黒沢清、ペドロ・コスタとの対話も収録。[LIXIL出版サイトより]

2013/02/15(金)(artscape編集部)

プレビュー:PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ

会期:2013/02/23~2013/03/24

京都市美術館[京都府]

日本が世界に誇る版画の歴史的文化。版画先進国と呼ばれる今日の我が国の多様な版画表現とその豊かな魅力を広く発信しようと、京都で新たに「京都版画トリエンナーレ」がはじまる。これは一般公募方式のコンクールではなく、全国の批評家、美術館学芸員、研究者、ジャーナリスト、作家などの推薦制による展覧会。今展では、現在活躍する若手から中堅の作家まで21名の版画表現が紹介される。

2013/02/15(金)(酒井千穂)

鈴木諒一「観光」

会期:2013/02/01~2013/02/26

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

1988年生まれで、東京藝術大学大学院在学中の鈴木諒一の実力は折り紙付きだ。第一回EMON PORTFOLIO REVIEWでグランプリを受賞し、2012年に開催した個展「郵便機」でも、その可能性の片鱗を見せてくれた。サン=テグジュペリの小説に触発された前回の個展に続いて、今回も「書物」が主題となっている。本のページをめくっていると、時々その裏側の文字や図像が透けて見えてくることがある。そんな体験を作品化したのが今回の「観光」のシリーズで、図鑑に掲載された風景や動物たちが、逆光に照らし出されてぼんやりと浮かび上がってくる様を、多重露光のような効果で定着したものだ。
アイディアも手際も悪くない。「世界で一番遠くにあるページは、そのページ自身の裏側かもしれない」というコメントを見てもわかるように、思考を言語化する能力にも長けているようだ。だが、まだ「これこそが自分の作品だ」というフィット感に乏しい気がする。一皮むければ、いい作家になるのは目に見えているので、あと一歩の食いつき、追い込みを期待したい。別室に展示されていたもうひとつの新作「Books」にも可能性を感じた。本のページとページの間の隙間を、覗き込むように撮影したシリーズだが、むしろその素直なアプローチに面白味がある。

2013/02/14(木)(飯沢耕太郎)