2019年06月15日号
次回7月1日更新予定

artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展

会期:2019/04/12~2019/05/19

Gallery AaMo[東京都]

数年前、広島県福山市にある鞆の津ミュージアムが密かに話題になった。名勝として知られる鞆の浦のローケーションや、昔ながらの土蔵を改装した建物もさることながら、死刑囚の作品を展示した「極限芸術」、不良文化を探る「ヤンキー人類学」、暴走老人を集めた「花咲くジイさん」など、過激な展覧会を矢継ぎ早に開いたからだ。これらを企画したキュレーターの櫛野展正氏が独立して、アウトサイダー・アートを紹介するクシノテラスというギャラリーを開設し、その活動の集大成として昨年『アウトサイド・ジャパン』を上梓。その出版記念を兼ねたのがこの展覧会だ。

アウトサイダー・アートというと、おもに精神障害者など美術教育を受けていない人たちによる作品を指すが、ここではもう少し広く、ひたすら役に立たないものづくりに没頭する若者や、退職後いきなり創作を始めた老人など、一見フツーの生活者たちによる知られざる表現を含む。共通しているのは、だれがなんといおうと自分の好みに忠実であること、ワンパターンとバカにされてもひとつのことにこだわり続けること。つまり彼らは空気を読まず、同調圧力にも屈しない強靭なる精神の持ち主だといえるだろう。

例えば、清掃員をやりながら絞った雑巾ばかり延々と描いたり、自作の仮面を2万点以上もつくって創作仮面館を開いたり、自分が食べた食事を記憶を元に描き続けたり、自宅にピンクの絵や人形やお菓子のオブジェを飾ってピンクハウスに変えたり、5千匹の昆虫の死骸で新田義貞像をつくったり……。なぜそんなことをするのか他人には理解できないようなことをやり続けているのだ。出品者は72人と多いが、作品数は2千点以上とケタ違いの多さ。作品を一つひとつ鑑賞するより、全体量で圧倒されるのが正しい鑑賞方法だ。

2019/04/11(木)(村田真)

蔵真墨「パンモゴッソヨ? Summertime in Busan」

会期:2019/04/09~2019/04/27

ふげん社[東京都]

蔵真墨は2015年、個展開催のために、はじめて韓国・釜山を訪れた。街がすっかり気に入って、「同じ時間を共有した人々が親戚のように感じられた」という。それからずっと再訪することを考えていたが、2017年の夏にBankARTのレジデンスプログラムで3カ月ほど滞在する機会を得た。今回のふげん社での個展は、その時に撮影した写真をまとめたものである。

タイトルの「パンモゴッソヨ?」というのは、「お元気?」というくらいの軽い挨拶だが、本来は「ごはん(パン)食べ(モグ)た?」という意味だという。たしか東松照明の『太陽の鉛筆』(1975)で、沖縄・八重山の離島あたりでも、「ひもじくないか?」と声をかけられるという話を読んだ記憶がある。まず食べ物の話題を出すというところに、人と人との親密さの度合いが強いということとともに、その地域のかつての貧しさもあらわれているような気もする。蔵はその挨拶をひとつの手がかりとして釜山を歩き回って、目についた光景をカメラにおさめていった。写真の中には、たしかにそこからさまざまな記憶が引き出されてくるような、「ごはん」とその材料が写っているものが多い。ほかの写真も、いかにも居心地のいい空気感を醸し出していた。

蔵は初期を除いては、これまでほとんどカラー写真で作品を発表してきたが、このシリーズは珍しくモノクロームで撮影している。そのことで、写真に写っている事物のディテールを落ち着いて、じっくりと味わうことができた。繊細な光と影の彩りが、釜山の夏の新たな表情を引き出しているように感じる。「今度滞在するなら秋はどうだろうかと考えている」とのことだが、ぜひ実現してほしいものだ。今回とはまた違った感触の写真になるのではないだろうか。

2019/04/11(木)(飯沢耕太郎)

有元伸也「TIBET」

会期:2019/04/05~2019/04/27

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

有元伸也のデビュー作は、1998年に第35回太陽賞を受賞し、翌年に写真集として刊行された『西蔵より肖像』(ビジュアルアーツ)である。今回のZEN FOTO GALLERYでの個展は、長く絶版となっていた写真集『西蔵より肖像』が、新装版の『TIBET』(ZEN FOTO GALLERY)として刊行されたのを受けたもので、同シリーズから19点が展示されていた。

会場でまず目につくのは、105×105センチという巨大なサイズに引き伸ばされた大判プリント3点である。手間がかかる銀塩プリントは、有元が講師を務めている東京ビジュアルアーツの暗室で制作されたという。ややアナクロ的な作業に見えなくもないが、その視覚効果は絶大で、大判プリントならではの、写真に写っている時空に体ごと連れ去られてしまうような感覚を味わうことができた。会場に並ぶプリントのなかには、あらためてネガを見直して選んだ未発表作が3点ほど含まれている。写真集『TIBET』に収録された作品数も、『西蔵より肖像』から20点ほど増えている。有元にとっては、まさに自分の写真家としての原点を確認する出版と展示だったはずだが、新たな要素を付け加えているところに強い意欲を感じた。

有元の話を聞くと、かつては対立的あるいは従属的な側面が強かった中国とチベットとの関係も、最近は少しずつ変わり始めているようだ。東京ビジュアルアーツには中国からの留学生も多く、彼らにとって、宗教や文化の伝統の厚みを持つチベットは、むしろ憧れの対象になっているのだという。だが、有元が1990年代に外国人の立ち入りがほとんどできなかった地域で撮影した写真群は、もはや再撮影は不可能な貴重な記録となっている。今回の展示は、そのことをあらためて確認するよい機会にもなった。

2019/04/10(水)(飯沢耕太郎)

魚返一真「檸檬のしずく」

会期:2019/04/05~2019/04/14

神保町画廊[東京都]

魚返(おがえり)一真は、1955年大分県生まれのベテラン写真家だが、一貫して「一般女性をモデルにして独自の妄想写真」を撮影・発表し続けてきた。「妄想写真」というのは魚返の造語で、エロチックな夢想を具現化した写真というような意味だ。モデルたちは、彼のカメラの前で着衣、あるいはヌードできわどいポーズをとる。むろん、そのような男性の性的な欲望に写真撮影を通じて応えようとする行為は、これまでずっとおこなわれてきたし、いまでも多くの写真家たちによって続けられている。だが、写真集に合わせて私家版で刊行された小ぶりな写真集『檸檬のしずく』に寄せたコメントで、詩人の阿部嘉昭が「魚返一真の写真を『チラリズム』を利用した好色写真とするだけでは足りないと、だれもがかんじているはずだ」書いているのは、その通りだと思う。魚返の作品には、たしかに「好色写真」の形式と作法に寄りかかりながらも、そこから逸脱していくような奇妙な魅力がある。

その理由のひとつは、魚返とモデルたちとの関係のつくり方にありそうだ。彼のモデルは「街でスカウトした女性やネットを通じて応募してくれた女性」だそうだが、魚返は自分の「妄想」を一方的に押し付けるのではなく、むしろ彼女たちのなかに潜んでいた「自分をこのように見せたい、見て欲しい」という密かな欲望を引き出してくる。撮影の仕方は懇切丁寧で、ある状況、ポーズに彼女たちを導いていくプロセスに一切の手抜きはない。「妄想」を追い求めていくのは、傍目で見るよりも根気が必要な作業のはずだが、その無償の情熱を長年にわたって保ち続けているのはそれだけでも凄いことだ。結果的に、彼の写真は生真面目さと品のよさを感じさせるものになった。このような「好色写真」は、ありそうであまりなかったものかもしれない。

2019/04/10(水)(飯沢耕太郎)

京都市京セラ美術館リニューアル・オープン記者発表会

国際文化会館[東京都]

公立美術館としては東京都美術館に次いで2番目に古い京都市美術館が、来年3月のリニューアル・オープンに向けて現在改修工事中だが、なぜかこの時期に東京で記者発表するという。同館がネーミングライツで「京都市京セラ美術館」に改称することになったのは2年前の話だし、以前ナディッフにいた元スタッフたちが新たに加わったらしいが、そのためにわざわざ記者発表するだろうか。ひょっとしてなにかあるのかもしれないとわずかな期待を抱きつつ行ってみたら、なるほどそういうことだったのか。

最初は建築家の青木淳および青木事務所出身の西澤徹夫が手がけたリニューアルの概要を説明。大がかりな増改築としては、まずエントランス前の広場を掘り下げ、スロープを下って入館する構造にしたこと、もうひとつは本館の裏に、先端的な表現に対応できる約1,000平方メートルの展示スペースを増築したことだ。ほかにも、二つある中庭のひとつにガラスの大屋根をかけて室内空間にしたり、新進アーティストの発表の場として「ザ・トライアングル」を新設したり、コレクションの常設展示室を設けたり、おもに現代美術に対応できる体制にシフトしているのが特徴だ。

そして新館長の発表が行なわれたのだが、新しく館長に就任したのは、なんと青木淳その人。あれれ? 一瞬、頭が一回転してしまった。リニューアルの受注者が発注者になるの? だいたい美術館と建築家は、それぞれ理想とする美術館のイメージが異なるため仲が悪いってよく聞くけど、大丈夫なの? 青木さんは館長になってからもほかの美術館を設計することはあるの? 次々と疑問が湧いてくるが、でも青木さんなら市の役人なんかよりはるかに美術館のハードにもソフトにも詳しいだろうし、コレクターでもあるから美術に対する理解も深いはず。考えてみればこんなに館長にふさわしい人はいないとも思う。灯台下暗しってやつですね。ようやく東京で記者発表する理由がわかった。

2019/04/09(火)(村田真)

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