2019年07月15日号
次回8月1日更新予定

artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

クリムト展 ウィーンと日本 1900

会期:2019/04/23~2019/07/10

東京都美術館[東京都]

なぜかこの時期、同展以外にも国立新美術館で「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展、目黒区美術館で「世紀末ウィーンのグラフィック」展と、クリムトを中心とする展覧会が立て続けに開かれている。クリムトは1918年に没したから、没後100年ということで昨年ぶつかるならまだわかるが、なんで1年遅れの春に重ねてくるのか。と思ったら、今年が「日本オーストリア友好150周年」だからだと編集者に指摘された。なるほど。それにしても「オーストリア」といえば「ウィーン世紀末」しか思い浮かばないのか。どうせなら全部まとめて1本にしてくれれば見るほうとしては楽だったのに。もちろんそこは大人の事情というものがあるわけで、むしろ同時期に開かれるので掛け持ちで見られて便利かもしれない、と前向きに考えとこう。

3展それぞれテーマが異なるが、同展はおもにクリムトの生涯と日本美術との関係を紹介するもの。目玉は、ウィーン世紀末芸術を象徴する作品といっても過言ではない《ユディトI》。立体的に表現された肉体と、金箔を多用したフラットな背景の対比にクリムト芸術の特徴がよく表われているし、日本美術からの影響も明らかだ。《女ともだちI(姉妹たち)》や《女の三世代》も日本絵画の影響か、空間構成が絶妙だし、豊田市美術館所蔵の《オイゲニア・プリマフェージの肖像》は、荒々しくも華やかな色彩が印象的。《アッター湖畔のカンマー城III》《丘の見える庭の風景》などの正方形の風景画も見逃せない。とはいえ、同時代作家の作品も多く、やっぱり数の限られた作品を3展が奪い合ったせいか(しかもオーストリアでは国宝級なのでおいそれと貸してくれない)、物足りなさは否めない。残りの2展もハシゴするか。

2019/04/22(月)(村田真)

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シャルル=フランソワ・ドービニー展

会期:2019/04/20~2019/06/30

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館[東京都]

大きな声では言いたくないけど、高校生のころ、ドービニーが好きだった。同じバルビゾン派でもコローやミレーよりも好きだった。ルソーやディアズは問題外だった。似たような絵なのにドービニーだけ好きになったのは、いちばん自然に見えたからだ。なぜ自然に見えたかというと、ひとつには横長の画面が多かったからだ。もともと既製のキャンバスにはF、P、Mの3種類あって(正方形のSは除外)、それぞれFigure(人物)、Paysage(風景)、Marine(海景)のモチーフに適しているが、ドービニーのキャンバスの大半はPかMあたりで、Mよりもさらに横長の、縦横比が1:2くらいの画面も珍しくない。風景はたいてい横に広がるので、ドービニーのように単純に横長のほうが自然に見えるのだ(両目が横に並んでいるのは風景が横に広がっているからだ)。

もうひとつは描き方の違い。コローやミレーのように人物や動物がわざとらしく描かれておらず、色彩や筆触も抑制されて、ルソーやディアズみたいな売り絵のような安っぽさがなかったからだ。この差は微妙なところで、言葉で言い表すのが難しい。今回は最初の部屋にこれらバルビゾン派の作品が出ているので(小品ばかりだが)、比べてみることができる。その結果なんとなくわかったのは、ほかのバルビゾン派の画家たちが興味あるのは「人間」であるのに対し、ドービニーが興味あるのは「自然」だということ。もう少し詳しくいうと、バルビゾン派が自然より人間のほうが大きい(自然<人間)と考えるのに対し、ドービニーは人間を自然のなかの小さな存在にすぎない(自然>人間)と考えているのではないか。これがおそらく、ドービニーの絵が「自然」に見える理由だと思う。

2019/04/21(日)(村田真)

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3つのコレクション展をまわって

20年以上が経ち、最近リニューアルを終えたり、これからリニューアルを行なう、1990年前後にオープンした近現代を扱う大型の 3つの美術館(東京、横浜、名古屋)において、それぞれに工夫を凝らし、コレクションを中心に時代の流れを振り返る展覧会がちょうど開催されている。現代美術も回顧される時期なのだろう。東京都現代美術館のリニューアル・オープン記念展「百年の編み手たち」とコレクション展示「ただいま / はじめまして」は、美術館が位置する木場の風景の変化、版画群、図書館の資料、一部の作家の蔵出し、を紹介し、圧巻のヴォリュームだった。前者は1910年代から現在までの美術史をたどるが、この作品群が一時的な企画展示ではなく、いつも常設で見ることができたら、強力な美術館になるのではないかと思う。また後者は新規購入や修復を終えた作品をとりあげる。もっとも、空間はさほど以前とは変わらず、長坂常が新しいサイン什器を担当していた。



リニューアルされた東京都現代美術館。長坂常が新しい什器を設計した


リニューアルされた東京都現代美術館


東京都現代美術館「百年の編み手たち」展示風景

東京都現代美術館「百年の編み手たち」展示風景

横浜美術館開館30周年記念の「Meet the Collection」展は、全展示室を使い、セクションごとに異なるゲスト・アーティストを迎え、その作品を設置し、展示室に色味を与えつつ、学芸員とともにコレクションを構成している。例えば、女を描いた日本画を並べた束芋の部屋、いつもの円形展示室の空間の雰囲気をがらりと変えた淺井裕介、今津景が試みた作品の対話、菅木志雄による空間への介入だ。ダイナミックなコレクションへの批評である。なお、過去の展示記録の年表を見ると、同館の建築展は1991年のフランク・ロイド・ライトのみで寂しい。


横浜美術館「Meet the Collection」より、淺井裕介のセクション


横浜美術館「Meet the Collection」より、今津景のセクション


横浜美術館「Meet the Collection」より、菅木志雄のセクション

愛知県美術館リニューアル・オープン記念である「アイチアートクロニクル展1919-2019」は、愛美社、サンサシオンからあいちトリエンナーレまで、愛知の分厚い近現代美術史を振り返る。櫃田伸也の多層的な空間の絵画、栗本百合子の建築空間に同化・異化する作品群が印象に残った。筆者が芸術監督をつとめたあいちトリエンナーレ2013で活躍したオカザえもん、山下拓也も入り、芸術祭の歴史化も痛感する。


□「百年の編み手たち─流動する日本の近現代美術─
MOTコレクション ただいま / はじめまして
会期:2019年3月29日(金)〜6月16日(日)
会場:東京都現代美術館


□「Meet the Collection─アートと人と、美術館
会期:2019年4月13日(土)〜6月23日(日)
会場:横浜美術館


□「アイチアートクロニクル 1919-2019
会期:2019年4月2日(火)〜6月23日(日)
会場:愛知県美術館


2019/04/20(土)(五十嵐太郎)

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三浦和人「ランド」

会期:2019/04/11~2019/04/23

第1会場/ギャラリー彩光舎、第2会場/ギャラリー楽風[埼玉県]

以前、 三浦和人から東日本大震災の被災地を撮影していると聞いたとき、やや違和感を覚えた記憶がある。桑沢デザイン研究所で牛腸茂雄と同級だった三浦は、同校卒業後も身近な日常の人物と光景を淡々と撮り続けてきたからだ。だが、ギャラリー彩光舎で展示された、2011年4月から1年に2〜3回のペースで撮影した「太平洋沿岸──岩手・宮城・福島」の写真を実際に見ると、三浦のスタンスがまったく変わっていないことに胸を突かれた。

三浦は被災地の建物、植生、モノなどの眺めを、6×9判あるいは6×12判のフォーマットのカメラにおさめている。その光景にはたしかに痛々しい傷跡が刻みつけられているものもあるが、非日常が日常化していくプロセスを細やかに観察し、あくまでも平静に記録していく手つきに揺るぎはない。三浦は撮影のあいだ、できる限りその土地の住人たちと交流するのを避けていたという。そんな禁欲的な姿勢を貫くことで、あまり類をみない「震災後の写真」が成立した。ただ、最初に被災地(気仙沼)を訪ねたその日の夜明け前に、神社のある高台から撮影したという2枚の写真だけはややニュアンスが違う。黒々としたトーンでプリントされた2枚の写真には、薄闇の奥で何かが蠢いているような気配が漂っており、三浦の感情の高ぶりが感じられる。このような写真をあえて外さなかったところに、彼の誠実さがあらわれているのではないだろうか。

なお、第2会場のギャラリー楽風では「埼玉──見沼・浦和」を6×6判のカメラで撮影した写真が並んでいた。こちらも基本的な撮影のスタイルは変わらない。だが東北の写真よりは、フレームの中におさめられた事物が、自然体で見る者に語りかけてくるような、親しみやすさを感じさせるものが多い。

2019/04/19(金)(飯沢耕太郎)

倉谷卓・山崎雄策×喜多村みか・渡邊有紀「ふたりとふたり」

会期:2019/04/16~2019/05/19

kanzan gallery[東京都]

「ふたり」と「ふたり」の写真家ユニットによる興味深い展覧会である。ともに1984年生まれの倉谷卓と山崎雄策は、2017年からTHE FAN CLUBとしての活動を開始した。それぞれが「大切な人」をテーマに撮影したネガに直接切手を貼って郵送し、受け取った側がそれをプリントするというコンセプトで制作されたのが、本展に出品された「FAN LETTER」シリーズである。一方、大学の同級生だった喜多村みかと渡邊有紀は、2003年頃から互いのポートレートを撮影するという作業をずっと続け、「TWO SIGHTS PAST」の連作として発表してきた。今回の「ふたりとふたり」展は、倉谷と山崎が「共作を開始するにあたって影響を受けた」喜多村と渡邊に声をかけるというかたちで実現したのだという。

成り立ちも制作期間もまったく違うので、二つの作品を同列に論じることはできない。倉谷と山崎の「FAN LETTER」は、まだ開始されてから間がなく、これから先の展開も予測がつかない。だが、プライヴェートな状況を、写真撮影と作品化のプロセスを通じて共有化し、積み上げていくという意味では両者とも大きな可能性を持つプロジェクトではないかと思う。特に15年という時間を経た喜多村と渡邊の「TWO SIGHTS PAST」は、すでにかなりの厚みを備え、内容的にも深まりを見せている。今回は、一年ごとに写真を展示し、小冊子の写真集としてまとめているのだが、2017年の分だけが空白になっていた。会う機会はあっても写真を撮影しなかったということのようだが、逆にそのブランクに「撮り続ける」ことの重みを感じた。このシリーズは、そろそろ1冊の写真集にまとめてもいいのではないだろうか。

2019/04/17(水)(飯沢耕太郎)

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