artscapeレビュー

池田みどり「I Love You, I Hate Youーすきよ、きらいよー」

2012年09月15日号

会期:2012/07/20~2012/08/26

NADiff a/p/a/r/t[東京都]

アーティストの池田晶紀と三田村光土里によるユニット「池田みどり」。その新作の「I Love You, I Hate Youーすきよ、きらいよー」は、なかなか面白いパフォーマンス作品に仕上がっていた。
舞台になっているのは、東京・板橋区にある「50年以上、精密板金業を営む町工場」である。そのどこか既視感のある「映画のセット」のような空間で、男性と女性とが「揺れ動く男女の人生の悲喜こもごもが交差する」場面を演じる。「春のおとずれ」「つのる想い」「素直になれなくて」「心の嵐」「私は離れない」などと名づけられたシークエンスは、やや大仰な振付けのミュージカル調に仕立てられているが、その場面設定や二人の表情には切実なリアリティがある。彼らの巧みな演技力と的確なカメラワークが、パフォーマンスを単なる絵空事ではない、誰もが身に覚えがあるような場面として成立させているのではないかと思う。
この作品が演劇や映画ではなく、写真のかたちで発表されていることは、かなり重要なファクターなのではないだろうか。写真は前後の場面をカットして、ある特定の身振りを強調して提示することができる。そのことによって「すき」「きらい」という個人的なエモーションが、より普遍的な、抽象化されたイメージとして再構築されるのだ。「池田みどり」の活動が今後どのようなかたちで展開されていくかはわからないが、いろいろな可能性がありそうだ。この「Untitled Film Stills」のスタイルを、さらに推し進めていってほしいものだ。

2012/08/08(水)(飯沢耕太郎)

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