artscapeレビュー
森山大道『カラー color』
2012年07月15日号
発行所:月曜社
発行日:2012年4月30日
森山大道がカラーで、しかもデジカメで東京を撮り始めたと聞いてから、もう4年あまり経つ。その2008~2012年までの成果をまとめた、最初の「カラー本」が月曜社から刊行された。
森山=ハイコントラストのモノクロームというイメージには強固なものがあるが、本人にはもともと、周りが思っているほどのこだわりはなかったのかもしれない。荒木経惟もそうだが、森山も人体実験的に新たなスタイルを模索し続けてきた写真家であり、デジタルカメラへのシフトもごく自然体で為されたのではないだろうか。例によって、見開き裁ち落としで表紙から最終ページまでアトランダムに写真がぎっしりと並ぶ構成をとるこの写真集でも、カラーだから、デジタルだからという気負いはまったく感じられない。むしろ、被写体の選択、切り取り方などに強く表われている、森山特有のフェティッシュな嗜好は、モノクロームとまったく変わりがなく、逆に拍子抜けしてしまうほどだ。
だが、当然ながら、色という要素が加わることで、感情を不穏にかき立てる生々しさがより強まっていることはたしかだ。とりわけ、圧倒的な存在感で目に飛び込んでくるのは「赤」の強烈さである。ケチャップとも血ともつかない毒々しいほどの原色の「赤」は、デジタルカメラを使うなかで森山が発見したものだろう。この「赤」だけではなく、くすんだ灰色の印象が強い東京の街のそこここに、黄、緑、青などの原色がかなり氾濫していることにあらためて気づかされた。
今のところまだ第一歩であり、「カラー本」の試行錯誤はさらに続きそうだ。決定版が出るまでには、まだもう少し時間がかかるかもしれない。
2012/06/24(日)(飯沢耕太郎)