artscapeレビュー
杉本博司「ハダカから被服へ」
2012年06月15日号
会期:2012/03/31~2012/07/01
原美術館[東京都]
杉本博司の最近の展覧会には、基本的にキュレーターは必要ない。彼自身が展覧会のコンセプトを決め、作品を選び、展示を構成・レイアウトし、解説を書くことができるからだ。アーティストとしてのレベルの高さは言うまでもないことだが、彼のキュレーターとしての卓越した能力も特筆すべきだろう。
今回の「ハダカから被服へ」展でも、その手際の鮮やかさを堂々と見せつけていた。「なぜ私達人間は服を着るのだろう?」という問題設定に対して、自作と彼自身のコレクション、自らデザインを手がけた文楽人形や能の衣裳などを会場に散りばめて見事に解答を導き出している。中心になっているのは20世紀を代現するシャネル、サンローラン、スキャパレリ、クレージュ、さらに山本耀司、三宅一生、川久保玲などのファッションの名作を、黒バック、モノクロームで撮影した「スタイアライズド・スカルプチャー」のシリーズ。そこではタイトルが示すように、衣服があたかも彫刻(あるいは建築)のようなフォルムを強調して撮影されており、杉本らしい緻密で周到な画面構成力を見ることができる。1階の「近代被服のブランド化」のパートから、2階の「和製ブランドの殴り込み的パリコレ登場」のパートへと、視点を切り替えて観客を誘う展示構成も鮮やかなものだ。
ただ、このような啓蒙的、優等生的なキュレーションの展示を見続けていると、いささか胃にもたれてくるのも否定できない。写真、アート、建築、ファッション等々、あらゆるジャンルを杉本流の史観と美意識で裁断できるのはよくわかった。「で、そこから先は?」と、無い物ねだりをしてみたい気分にもなってくる。むしろ解答不可能な問いかけの前で、彼が立ちすくんでいる姿を見てみたいなどとも思ってしまうのだ。
2012/05/08(火)(飯沢耕太郎)