artscapeレビュー
近代日本洋画の開拓者──高橋由一
2012年05月15日号
会期:2012/04/28~2012/06/24
東京藝術大学大学美術館[東京都]
朝一で石巻から上野の「高橋由一展」内覧会に直行。そういえば由一展て栃木とか香川では見てきたけど、東京では初めてかもしれない。この由一という名は本名ではなく維新後に名乗ったもので、ぼくはてっきり「油(絵)」から採った名だと思っていたが、チラシを見たら「画」のなかに「由一」が含まれていることが明示され、なるほどと思った。「油画」を縦書きにすると「由一」が2回も出てくるわけだ。展示は「油画以前」「人物画・歴史画」「名所風景画」「静物画」「東北風景画」の5章立て。この構成を見て国立新美術館の「セザンヌ展」を思い出した。どちらも人物、風景、静物を分け隔てなく描いてるし。ところで由一とセザンヌがほぼ同時代人だって知ってた? 出品作品は初期の博物画から代表作の《花魁》、3点そろえた《鮭》、晩年の《岩倉具視像》や《西周像》、劇画チックな歴史画、浮世絵の構図にヒントを得た風景画、愚直で不気味な《甲冑図》や《桜花図》など計132点で、ほかに原田直次郎による由一像や、由一の油絵の師チャールズ・ワーグマンの作品など関連資料も豊富に出ていて充実している(が、展示替えがあるらしく、ぼくの好きな《豆腐》が見られなかったのは残念)。ホイッスラーを彷彿させる《月下隅田川》や、火焔を描いた2点の「鵜飼図」などの夜景図も目を惹く。いかに浮世絵や狩野派を油絵に変えるか、いかに日本画や写真と差別化するか、いかに日本社会に西洋画を定着させるか、いかに油絵で食っていくかなど、さまざまな問題を抱えた由一像が浮かび上がってくる。
2012/04/27(金)(村田真)