artscapeレビュー
野村恵子「SOUL BLUE」
2012年05月15日号
会期:2012/04/23~2012/04/29
Place M[東京都]
野村恵子の前作は、2009年にエモン・フォトギャラリーで展示された「RED WATER」。赤から青へと基調色が変化したわけだが、血を騒がせるような、光と闇の強烈なコントラストに彩られた風景の合間に、女性のポートレートやヌードを配する構成そのものはそれほど変わっていない。だが、東京の自宅のマンションから定点観測的に撮影し続けた風景の連作(ここでも基調となる色は青)などを見ると、かつての心を浮き立たせるような強烈なビートはやや影を潜め、時の移ろいを静かに見つめるような沈潜した気分が迫り出していることがわかる。20歳代でデビューした野村も、40歳代になり、両親を相次いで亡くしたこともあって、写真家としての現実世界への向き合い方が少しずつ変わり始めているということだろう。
こうなると、そろそろ彼女の現在の到達点をくっきりと示すような展覧会や写真集がほしくなってくる。そう思っていたら、どうやら野村自身も同じことを考えていたようだ。今回の展示には間に合わなかったのだが、秋にこの「SOUL BLUE」のシリーズを、赤々舎からハードカバーの写真集として刊行する予定があるという。野村本人は新作だけでまとめたいという意向のようだが、僕はいっそのことデビュー作の『DEEP SOUTH』(リトルモア、1999)以来の代表作を、総ざらいするくらいの写真集にしてほしいと思う。ひとりの女性写真家の成長の過程を見るということだけではなく、1970年代生まれ野村の世代が築き上げてきた写真の底力を、しっかりと見せつけてほしいのだ。
2012/04/27(金)(飯沢耕太郎)