artscapeレビュー
宍戸清孝「Home」
2012年04月15日号
会期:2012/03/20~2012/03/26
新宿ニコンサロン[東京都]
銀座ニコンサロン、新宿ニコンサロンを舞台に開催されてきた「Remembrance 3.11」の展示も最終回を迎えた。とてもよい企画だったのだが、前にも書いたように東北在住の写真家たちの写真展が少なかったのがやはり気になる。今回の宍戸清孝(仙台市在住)の展示を見て、あらためてその感を強くした。別に東京や他の地域から被災地に向かった写真家たちの仕事を軽視しているわけではない。誠実に、自分の視点で撮影に取り組んだ写真を、今回の企画でも数多く目にしてきた。だが、宍戸のような地元の写真家の仕事ぶりは、その厚みと生々しさにおいてやはり違いを感じないわけにはいかないのだ。
宍戸は仙台の事務所で被災し、4日後の3月15日に、アシスタントの菅井理恵(福島県出身)とともに初めて仙台湾岸の名取市閖上を撮影した。自衛隊員が遺体を毛布に丁寧に包んでいる様を見て、「胸がいっぱいになってしまい、カメラを持つ手が震えた」という。それからは、もう二度と被災地には行きたくないという気持ちと、「撮らなければ」という思いとの間で、ずっと長く葛藤が続いた。今回の「Home」展に展示された写真の一枚一枚に、その激しい心の揺らぎと、撮り続けていくなかで少しずつ芽生えてきた再生の兆しに託した希望とが刻みつけられている。まさに渾身の写真群であり、日系米軍兵士の戦後を追った「21世紀への帰還」など、長くドキュメンタリー写真の分野で活動してきた宍戸にとっても、この1年は覚悟を決めてひとつの壁を乗りこえていく大事な時期になったのではないだろうか。写真展にあわせて仙台市若林区の出版社から刊行された写真集『Home 美しい故郷よ』(プレスアート)も高精度の印刷、質の高いデザインの力作である。
なお、同時期に銀座ニコンサロンでは吉野正起「道路2011─岩手・宮城・福島─」(3月21日~27日)が開催された。震災後の「道路」を淡々と撮影したシリーズだが、福島県の農道を何気なく塞いでいる「立入禁止」の看板が、どうしても目に残ってしまう。
2012/03/21(水)(飯沢耕太郎)