artscapeレビュー
松井冬子 展 世界中の子と友達になれる
2012年04月01日号
会期:2011/12/17~2012/03/18
横浜美術館[神奈川県]
かつてこれほどまでにコレクターが出しゃばった展覧会があっただろうか。コレクターのコレクションをまとめて披露する展覧会ならともかく、新進気鋭の日本画家による美術館での初個展である。通常であれば「個人蔵」と記されることが多いキャプションに、これみよがしに(としか見えない)個人名を露出させた光景は、まったくもって異様だった。絵を見る視線につねに所有者の暗い影がまとわりつくようで、鑑賞するうえで目障りなことこの上ない。記名された名前の大半が男性だったことから、美しい女性の日本画家の作品を「所有」していることを顕示する、きわめて男根主義的で下品な欲望の現われなのかと勘ぐりたくもなる。狂気や幽霊、情念を徹底的に追究しながらも、それらをあくまでも美しく表現するのが松井冬子の真骨頂だったはずだ。美しさを極限まで追究するがゆえに狂気を伴うといってもいい。このたびのコレクターの露出は、そうした完全無敵な美しさを内側から瓦解させかねない、著しい汚点であると言わざるをえない。コレクターの矜持が失われているのか、あるいは権威づけのための率先した戦略なのか、いずれにせよ今後の松井冬子には、そのような翳りを一切寄せつけない完璧な美を期待したい。
2012/03/07(水)(福住廉)