artscapeレビュー

会田誠──天才でごめんなさい

2013年02月15日号

会期:2012/11/17~2013/03/31

森美術館[東京都]

ネット上で「ポルノ被害と性暴力を考える会」が森美術館に抗議したと話題になっているので、念のためもういちど見に行った。問題になったのは、手足を切断され、犬の首輪をつけられた全裸の少女を描いた「犬」シリーズなどで、抗議団体によればこれらは「残虐な児童ポルノであるだけでなく、きわめて下劣な性差別であるとともに障がい者差別」でもあるとしている。たしかに「手足を切断され」と書いてるだけでも残虐とは思うが、これはあくまでフィクション=絵空事であって現実ではない(写真でも動画でもない)から、被害者はいない。実在のモデルもいないのだから「少女=児童」と決めつけるわけにもいかない。それでもなお「児童ポルノ」というのだろうか(抗議文でも「日本の児童ポルノ禁止法においては現在、実写ではない児童ポルノは違法とされていません」と認めている)。しかし違法でないとはいえ、これを「性暴力」「性差別」として不快に感じる人がいたことは事実だ。これがギャラリーのような限られた人しか訪れない場所に展示されるならまだしも、より公共性の高い美術館で公開するのだから「取り扱い」に注意する必要はあるだろう。森美術館はこうした抗議をあらかじめ見越したうえで、ネット上でもチケット売場の手前でも「性的表現など刺激の強い作品が含まれているため、事前にご了承いただきます」と告知しているし、また件の作品群に関してはいわゆる「18禁部屋」に隔離するなど幾重にも予防線を張っている。それでも抗議が来るのは、展望台と同一チケットで入れるため、アートにはなんの興味もない善男善女が大量に流れてくる森美術館ならではの宿命かもしれない。ちなみに、ぼくが「犬」シリーズを最初に見たのは「戦争画リターンズ」シリーズと同時期だったせいか、この絵のことを日本軍が中国人や朝鮮人に対しておこなった性暴力を含む蛮行の比喩だと思い込んでいたので、なんの抵抗もなく(というのも逆に変だが)受け止めたのを覚えている。個人的な意見を述べれば、この「犬」シリーズをはじめ、会田の作品はすべて人間の暗部や現代社会のねじれをきわめて的確に、諧謔的に、そして露悪的なまでに暴き出している点で高く評価しているが、同時に「性暴力」「性差別」ではないかという指摘にも(見方が狭いとは思うけど)耳を傾けなければならないと思っている。つまり芸術であり、同時にワイセツでもありうるということだ。問題は、森美術館ではどちらが優先されるか、されなければならないかということではないだろうか。ところで、この抗議団体に対して抗議内容とは別に違和感を感じるところがある。それは彼らが森美術館だけでなく、同展を紹介したNHKの「日曜美術館」や、会田誠を特集した『美術手帖』誌、同展チケットと赤ワイン付き宿泊プランを提供しているハイアットホテル、はては森美術館が加盟もしていない美術館連絡協議会や文化庁にまで抗議先を広げようとしていることだ。このなりふりかまわぬやり口は、たとえば日教組をつぶすためその貸し会場にまで圧力をかける右翼団体と変わらないではないか。たとえ抗議内容に共感しても、こんなやり方をしていているようでは同調する人は少ないだろう。

2012/01/31(木)(村田真)

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