artscapeレビュー
タカオカ邦彦「icons─時代の肖像」
2012年02月15日号
会期:2012/01/14~2012/03/25
町田市民文学館ことばらんど[東京都]
「顔」は写真の被写体として最も強い喚起力を備えたものの一つだ。「顔」の写真はすぐに眼を惹き付けるし、そこにさまざまな意味を引き寄せ、まつわりつかせる。写真家にとっては、魅力的だが扱いづらい被写体とも言えるだろう。とりわけ「作家の顔」は、そのなかでも特別な吸引力を備えている。作家は、彼らの本の読者が、それを読むことによってある意味勝手に付与してしまったイメージを引き受けざるをえなくなってくる。写真に撮られるときも、そのイメージを意識しないわけにはいかないだろう。そこに微妙な自意識のドラマが発生し、それが当然写真にも写り込んでくるのだ。
タカオカ邦彦は、ライフワークとして30年以上にわたって「作家の顔」を撮影し続けてきた。今回町田市民文学館ことばらんどで開催された「icons─時代の肖像」展は、そのタカオカの小説家、詩人、作詞家、脚本家など文筆家たちのポートレート90点余りを展示したものだ。全体は「肖像-portrait」「心象-image」「書斎・アトリエ-studio」の三部構成になっている。「肖像」のパートはモノクロームの顔を中心としたクローズアップ、「心象」のパートは普段着の姿、「書斎・アトリエ」のパートは仕事場での作家たちの表情を主にカラー写真で追っている。「作家の顔」というと土門拳や林忠彦(タカオカの師匠でもある)の重厚なポートレートを想像しがちだが、タカオカの作品はオーソドックスではあるがあまり威圧感がない。どちらかというと親しみやすい、等身大の作家像の構築がめざされているということだろう。
ちなみに、僕自身も1990年代半ばにタカオカに撮影してもらったことがあり、その写真も会場に展示してあった。こういう経験はめったにないことだが、自分の顔に展覧会で向き合うのは正直あまり気持ちのいいことではない。自意識のドラマが生々しく露呈している様を、本人が見るということには、相当に息苦しい違和感、圧迫感がともなうことがよくわかった。
2012/01/13(金)(飯沢耕太郎)