artscapeレビュー

池袋モンパルナス展

2012年02月01日号

会期:2011/11/19~2012/01/09

板橋区立美術館[東京都]

近年、同美術館が熱心に研究している「池袋モンパルナス」の集大成ともいえる展覧会。「池袋モンパルナス」とは、1930年代の池袋近辺に建造されたアトリエ付の住宅に集まった美術家たちのコミュニティ。詩人の小熊秀雄が書き残した同名の詩に由来している。本展では、「池袋モンパルナス」に集った寺田政明、麻生三郎、靉光、松本竣介、古沢岩美、長谷川利行などの絵画作品を中心に、当時の地図、画家たちによる日記、関連する映像などもあわせて展示された。アトリエの間取りを会場の床面に描き出し、その空間を来場者に体感させるなど、絵画作品とテキストによって研究成果を発表する従来の学芸員的手法から一歩踏み込み、より多角的に研究対象をとらえようとしているところが高く評価できる。とはいえ、であればこそ、今以上に美術館活動から踏み出す挑戦があってもよかったと思わないでもない。たとえば、アトリエの所在が把握できているのであれば、当時の地図を手に現在の街並みを歩くツアーを参加者とともに行なえば、画家たちの行動範囲をよりいっそう実感することができるだろうし、その街歩きによって新たな事実が発見されるかもしれない。歴史を全体的に解明するには、ある程度偶然性に任せたイベントが有効なのではないだろうか。「池袋モンパルナス」を美術史に位置づけるだけでなく、美術以外の文化や社会、政治との接合面によって定位することを望むのであれば、「美術」から一歩踏み外す勇気が不可欠である。

2012/01/09(月)(福住廉)

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