artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

玉本奈々 個展

会期:2011/03/05~2011/03/16

ギャラリー島田[兵庫県]

キャンバスや板の上に、布を張り、糸を縫いつけ、ペインティングを施すなどした平面作品で知られる玉本奈々。その作品は、美醜を超えて人間の生理に訴える生々しさに特徴がある。しかし、本展における彼女の作品は、過去に何度も見たことがある旧作が多数含まれているにもかかわらず、なぜか今までよりも洗練されていた。会場との相性がよほど良いのだろうか。空間により、これほど作品の印象が変わるとは驚きだ。それでいて作品本来の魅力は失われず、より広い層に受け入れられる展示が行なわれていた。私が今までに見た彼女の個展のうち、最上であった。

2011/03/05(土)(小吹隆文)

サンネ・サンネス SANNE SANNES

会期:2011/03/01~2011/03/13

リムアート[東京都]

まず「こんな写真家がいたのか!」という驚きがある。サンネ・サンネスは1937年、オランダ・グローニンゲン生まれ。1959年頃から写真家として活動し始め、雑誌等に寄稿するほか、写真集『Oog om Oog(An eye for an eye)』(1964)とテレビのために制作された映画『Dirty Girl』(1966)を発表して注目を集めた。だが、1967年に30歳の誕生日を迎えた4日後に交通事故で急死し、その後はほぼ忘れられた存在になっていた。今回のリムアートでの展示は、彼の1960年代のヴィンテージ・プリント27点によるもので、もちろん日本では初公開になる。
テーマになっているのは、ほとんどが女性のヌード。ブレ、ボケ、クローズアップ、粒子の荒れ、大胆な光と闇のコントラストなどは、この時代の写真における「怒れる若者たち」に特徴的な表現で、やや年上のエド・ファン・デル・エルスケンやウィリアム・クライン、さらにはほぼ同世代の森山大道や中平卓馬などとも共通するものがある。だが、これらの写真家とサンネスが決定的に異なっているのは、彼が他の主題には目もくれず、あくまでも「性欲に対する感情の喚起“eroticism”」にこだわり続けていることだろう。しかも、男性が女性に付与したエロティシズムというよりは、女性のなかにもともと内在するそれを引き出そうと、全身全霊で取り組んでいるように見える。結果として、彼の写真はロマンティシズムとリアリズム、性への憧れと畏れ、エクスタシーと苦痛とが激しく衝突し、入り混じり、溶け合うような異様な緊張感に満たされている。このような「実存的」な質を備えたヌード写真は他にあまり例を見ないのではないだろうか。
サンネスはきわめて内気な男だったが、カメラを手にするとサディストに変貌したのだという。また、女友達の回想によれば、彼は生涯女性と性交渉ができなかった。その複雑な人格と、あまりにも短い生涯が、彼の写真に奇妙に歪んだ彩りを添えている。なお展覧会にあわせて、500部限定の写真集『SANNE SANNES』がリムアートとオランダのKahmann Galleryとの共同出版で刊行された。

2011/03/04(金)(飯沢耕太郎)

酒井抱一 琳派の華

会期:2011/01/22~2011/03/21

畠山記念館[東京都]

江戸琳派の創始者、酒井抱一の生誕250年を記念して同館が所蔵する抱一の作品を公開した展覧会。《十二ヶ月花鳥図》を会期中の全後半に分けて半分ずつ展示したほか、《風神雷神図》《四季花木図屏風》など30点あまりが展示された。日本美術の伝統のひとつが、余白によって空間を構築しながら限界ぎりぎりまで簡略化した線によって対象を再現することにあるとすれば、抱一の絵にはそれがあらわになっている。とりわけ《月波草花図》は、夜月のもとではね上がる白波を、ごく簡素な線だけで巧みに描き出し、冷たい海と空の拡がりを存分に感じさせた。

2011/03/04(金)(福住廉)

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春木麻衣子「photographs, whatever they are」

会期:2011/02/26~2011/05/08

1223現代絵画[東京都]

春木麻衣子は2010年5月~6月のTARO NASUでの個展「possibility in portraiture」から、それまでの風景中心の作品に加えて「ポートレート」を取り込んだ作品を発表するようになった。といっても、画面のほとんどが白、あるいは黒で占められている彼女の作品において、人間のイメージはそれほど大きく扱われてはいない。だが「ポートレート」という主題の導入によって、抽象度の高い彼女の作品に観客がアプローチしやすくなったことはたしかだ。
今回の展示には、ニューヨークのアメリカ自然史博物館のジオラマとそれを見る観客を題材にした「neither portrait nor landscape」(2010)をはじめとして、いくつかのシリーズが含まれているが、注目すべきは新作の「selfish portrait to you and me and others」(2011)だろう。白いガラス入りのフレームのようなもので画面が大きく区切られ、その表面に「you and me and others」の姿が映り込んでいる様子を撮影している。つまり、この作品は作家のセルフポートレートでもあるということで、これは新しい展開だと思う。「あなた─私─他者」との関係のあり方を、さまざまな形で確認していくきっかけになるのではないだろうか。
もうひとつ興味深いのは、春木の黒を基調とした作品を眺めていると、フレームのガラスに自分の顔が映っていることに気がつくことがあることだ。つまり「あなた─私─他者」の関係項のなかに「観客」も包含されてしまうということで、そのことをより強く意識すれば、さらに面白い作品が生まれてきそうな気がする。

2011/03/03(木)(飯沢耕太郎)

第5回展覧会企画公募「エラスティック・ビデオ──curated by PLINQUE」「floating view:“郊外”からうまれるアート」「Girlfriends Forever!」

会期:2011/02/26~2011/03/27

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

キュレーターの育成・支援をめざした展覧会企画の公募展。といってもキュレーター志望ばかりではなくアーティストからの応募も多く、今回は44企画のうち入選した3企画はすべてアーティスト(キュレーションを行なうアーティストも含め)によるものだった。クラウディア・ラルヒャー企画の「エラスティック・ビデオ──curated by PLINQUE」は、ウィーンを拠点に活動する若いアーティスト集団PLINQUEを中心としたビデオ・インスタレーション展。いろんなビデオ作品があるなあと感心するが、それ以上とくに感想はない。佐々木友輔企画の「floating view:“郊外”からうまれるアート」は、郊外から出発したアーティストや郊外をモチーフにした作品を集めたもので、企画としてはこれがいちばん興味をそそられた。でも作品的にはものたりず、やはり「郊外」を都心のホワイトキューブのなかで紹介するには限界がある。また、松井えり菜+村上華子が共同企画した「ガールフレンズ・フォーエバー」は、「美大には女性が多いのにアーティストとして活躍する女性が少ないのはなぜか」という問いから発した女性アーティストだけの展示。松井、村上ともに1984年生まれのアーティストだが、彼女らと同世代のキャピキャピなアーティストに加え、なぜか辰野登恵子のようなベテランも混じっていて、作家選定がよくわからない。辰野のかわりに草間彌生が入っていればまだわかりやすかったのに(わかりやすすぎるか)。

2011/03/02(木)(村田真)

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