artscapeレビュー
山口晃展 東京旅ノ介
2011年01月15日号
会期:2010/12/28~2011/01/10
銀座三越8階催物会場[東京都]
銀座三越で開催された山口晃の個展。すでに日本橋三越の広告を手掛けているので、いわばタニマチのご機嫌伺いという面も否めないところだが、そこは希代のアーティスト・山口のこと、過去作品を並べてお茶を濁すなどという無粋な真似だけはしなかったところがえらい。「東京」というお題のもと出品された大半は新作で、写真あり、立体造形もあり、超絶技巧の絵師というこれまでのイメージとは打って変わって、みずから新境地を開拓してみせた。なかでも秀逸だったのが、東京の下町の暮らしに照準をあわせて提案された「露電」。谷根千界隈の路地を縫うように走る路面電車で、二三人も乗ればたちまち満員になってしまうほど極小サイズの車体がいかにも下町の路地と風情に合致していて、「なるほど理にかなっている」と頷くことしきり。山口が描き出しているのは、あくまでも山口の頭のなかで膨張させた空想的想像力だが、それが他者にも伝わるほどおもしろいのは、その妄想がきわめて具体的な合理性にもとづいているからだろう。ピカピカの現代建築と古臭い日本家屋を掛け合わせた和洋折衷の建築風景は、山口がしばしば描き出すモチーフのひとつだが、これはたとえば東京国立博物館本館のような帝冠様式にたいするノスタルジックな眼差しの現われなのかと思っていたら、さにあらず。これは取り壊した日本家屋を高層ビルの頭頂部に再建するという、じつに合理的かつ現実的な提案だったのだ。そこにあった建物を木っ端微塵に破壊した上で建設される現代建築の傲慢さに対して投げかけられた現実的かつ批判的な提案なのだ。
2010/12/30(木)(福住廉)