artscapeレビュー
いきるちから
2011年01月15日号
会期:2010/12/02~2011/03/06
府中市美術館[東京都]
大巻伸嗣、木下晋、菱山裕子の3人を集めた企画展。「生きることのすばらしさに気づかせてくれる」ことが共通項として挙げられているようだが、なぜこの3人なのかはっきりと説明されていないので、企画展のテーマとしてはあって無きに等しいものだろう。大巻は回転する鏡面に光を乱反射させて壁面に虚像を映し出す大掛かりな空間インスタレーションを、菱山はアルミメッシュを針金とワイヤーで組み上げた人物像を、それぞれ発表した。突出していたのは、木下晋。鉛筆で描き出した老婆やハンセン病患者の肖像画は、いずれも観覧者の心を打つものばかり。それは、鉛筆によって描き分けられた深い皺と乾いた肌質が彼らの濃密な人生の軌跡を物語っていたことに由来するばかりか、極端にクローズアップした構図がモチーフにできるかぎり接近しようとした木下の態度を表わしていたことにも起因していたように思う。ジャーナリストにも通じる対象への肉迫。それを画面に前景化させるか、内側に隠しこむかは別として、木下のように世界にたいして誠実に対峙する姿勢こそ、いまもっとも学ぶべきことではないか。これを学ばずして、「生きることのすばらしさ」を知ったところで、たかが知れている。
2010/12/28(火)(福住廉)