artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

物気色─物からモノへ─

会期:2010/11/21~2010/11/28

京都家庭女学院・虚白院[京都府]

東洋と西洋、美術と工芸、芸術と経済と科学など、既成の枠組みを乗り越えた新たなアート、文化の枠組みを模索するべく、2010年1月に京都大学総合博物館で開催された「物からモノへ」展。その第2弾として開催されたのが本展だ。タイトルの「物気色(モノケイロ)」の「物」には、物質の「物」、人格の「者」、モノノケやもののあはれの「モノ」など複数の意味が込められている。会場の虚白院は、朝鮮通信使とゆかりがあり、大正期には日本南画院の本部、戦後は女子教育の拠点となった場所だ。敷地内には母屋のほか、能舞台、南画院時代の展示室、茶室、竹林の庭などがあり、黒田アキ、岡田修二、近藤高弘、大舩真言ら16組の作家がサイトスペシフィックな展示を行なった。壮大な企画意図については未だに理解できていないが、画廊や美術館はもちろん、京都で時折行なわれる寺社での展示とも違う、個性的かつジャンルレスな展示が行なわれたのは間違いない。それにしても、会場の建築・作庭のユニークなこと。地元の人にさえ知られていない上質な空間が、京都にはまだまだ埋もれていることを実感した。

展覧会URL=http://www.monokeiro.jp/

2010/11/20(土)(小吹隆文)

林勇気「the world and fragments of the world」

会期:2010/11/06~2010/12/18

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

新作3点が発表された個展。撮影した膨大な数の写真をすべてパソコンにとりこみ、切り抜き、重ね合わせて制作されるアニメーションは、作家が目にするごく日常の風景や数々のを再構築したもので、記録と記憶の間を彷徨うように移り変わる風景が展開する。林さんのアニメーションの画面には劇的な変化はいつも見られない。登場人物はテレビゲームのなかの主人公のように、ピョンとなにかに飛び乗ったり、モノをよけたり、歩く動作を見せながら、ただ画面の中を同じ方向に移動する。これまで発表された作品ではスクリーンの端から端へ、または上から下へと流れていくように人物が動くもので、その静かなループが音楽的な余韻を与えるものだったが、今展の最新作では、人物は画面の奥へ奥へと進み、景色は3D映像のように空間的な奥行きをもって移り変わっていく。景色は人物が歩き進むと徐々にくっきりと見えてくるが、遠くは霧の中のように朧げで曖昧。「終わり」の見えないその世界のありさまは、自分の日常にも思いをめぐらすものだった。

2010/11/20(土)(酒井千穂)

オットー・ディックスの版画「戦争と狂乱──1920年代のドイツ」

会期:2010/11/03~2010/12/19

伊丹市立美術館[兵庫県]

二つの世界大戦を体験しながら、人間の本質に迫ったドイツの画家、オットー・ディックスの版画約90点が展示された展覧会。ディックスが第一次世界大戦では自ら従軍志願し兵役に就いていたという事実を私は今展まで知らなかったが、戦地における兵士たちの狂気にみちた行動や情景を描いた作品の数々は特に強烈で、胸が詰まるような思いで見なければならなかった。手足を失い路上に座り込んでマッチを売る男性、娼婦、戦場の軍隊、狡猾な笑みを浮かべる女性、貧しい人々など。ディックスが描いた人々の顔に美しいものはない。すべて、容赦ない他者へのまなざしがそのままに表われている版画であった。折しもこの日、京都精華大学客員教授で京都大学名誉教授の池田浩士氏による「オットー・ディックスと20世紀の自画像」というタイトルの講演会を聞くことができた。「いかなる註釈も必要としないような物事が、この世にはあるのだ」というディックスの言葉から氏は 、ディックスの制作はものごとを註釈するのではなく、目に見えるように描くことで、これまでわれわれが知っていたこととは“別の姿”があるという事実を、見る人とともに“発見”していく作業であったと述べていた。また、戦争が「偉大なる正義」という常識のなかで描かれたその表現には、現実と理念との齟齬を自らに納得させない、美化させない決意があり、それこそが彼の制作の原点だという氏の言葉が、「直視せよ!」というチラシの言葉とともに強く重く響いていつまでも引きずった。ぜひ多くの人に見てもらいたい展覧会だ。

2010/11/20(土)(酒井千穂)

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プレビュー:山荘美学~日高理恵子とさわひらき~展

会期:2010/12/15~2011/03/13

アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]

自宅の庭にある百日紅を、見上げた構図で描き続ける日高理恵子。見慣れた自分の部屋を、小さな船や動物たちが行きかう別世界に変身させてしまうさわひらき。2人がアサヒビール大山崎山荘美術館で競演する。日高は、安藤忠雄設計の新館で、天窓を生かした展示を行ない、同館所蔵のモネの《睡蓮》と並置される。さわは、古い洋館の本館を会場に、アンティークな雰囲気の中で映像作品の展示を行なう。個性豊かな空間で、2人がどのような世界をつくり出すかに注目したい。

2010/11/20(土)(小吹隆文)

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プレビュー:伊東宣明 展“回想の遺体”

会期:2010/12/07~2010/12/12

立体ギャラリー射手座[京都府]

“生と死”という根源的なテーマを追求した作品を制作し、遂には葬儀会社に就職した伊東宣明(現在は退職)。就職後1年半の間に100体以上の遺体と接してきた彼が、その都度つけてきたメモを頼りに、遺体を丹念に回想する。記憶は時と共に薄れるため、回想の遺体は事実とも虚構ともつかない状態になる。そのもどかしさのなかにこそ、伊東が探し求める解が見つかるのかもしれない。

2010/11/20(土)(小吹隆文)