2021年11月15日号
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artscapeレビュー

オットー・ディックスの版画「戦争と狂乱──1920年代のドイツ」

2010年12月15日号

会期:2010/11/03~2010/12/19

伊丹市立美術館[兵庫県]

二つの世界大戦を体験しながら、人間の本質に迫ったドイツの画家、オットー・ディックスの版画約90点が展示された展覧会。ディックスが第一次世界大戦では自ら従軍志願し兵役に就いていたという事実を私は今展まで知らなかったが、戦地における兵士たちの狂気にみちた行動や情景を描いた作品の数々は特に強烈で、胸が詰まるような思いで見なければならなかった。手足を失い路上に座り込んでマッチを売る男性、娼婦、戦場の軍隊、狡猾な笑みを浮かべる女性、貧しい人々など。ディックスが描いた人々の顔に美しいものはない。すべて、容赦ない他者へのまなざしがそのままに表われている版画であった。折しもこの日、京都精華大学客員教授で京都大学名誉教授の池田浩士氏による「オットー・ディックスと20世紀の自画像」というタイトルの講演会を聞くことができた。「いかなる註釈も必要としないような物事が、この世にはあるのだ」というディックスの言葉から氏は 、ディックスの制作はものごとを註釈するのではなく、目に見えるように描くことで、これまでわれわれが知っていたこととは“別の姿”があるという事実を、見る人とともに“発見”していく作業であったと述べていた。また、戦争が「偉大なる正義」という常識のなかで描かれたその表現には、現実と理念との齟齬を自らに納得させない、美化させない決意があり、それこそが彼の制作の原点だという氏の言葉が、「直視せよ!」というチラシの言葉とともに強く重く響いていつまでも引きずった。ぜひ多くの人に見てもらいたい展覧会だ。

2010/11/20(土)(酒井千穂)

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